吉田豪 ずっと自由に書くために、僕は死ぬまで現状維持【後編】

失敗ヒーロー!

2020/06/17
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華々しい成功の裏には、失敗や挫折がある。その失敗エピソードから成功の秘訣をヒモ解く『失敗ヒーロー!』。前編に引き続き、プロインタビュアーの吉田豪さんが登場。ご自身の著書『聞き出す力』にも書かれている通り、独自のインタビュー術によって芸能界の裏事情にも精通する吉田さんですが、「忖度」という言葉がよく聞かれる昨今、危ない裏事情を表に出すことの難しさもあるはずです。そこで後編では吉田さんが肌で感じる時代の変化に迫りつつ、危険な香りすらもおもしろさに変える、そのインタビュー術の根幹をヒモ解きます!

いかに自由に書けるか。それが吉田豪の仕事のテーマ

――前編でお話しいただいた、人に心を開くことのおもしろさ。2004年発行の『人間コク宝』をはじめ、吉田さんは危険な香りのする人への取材で知られていますが、その危うさを世の中に出すことのボーダーが変化しているのではないでしょうか?

吉田 豪(よしだ・ごう)
1970年生まれ、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。中学生の頃にアニメや古本、パンクやアイドルなどにハマり、学生時代から自身の趣味をベースとしたミニコミを制作。東京デザイナー学院を卒業後にアートサプライ社へ入社し、その後、プロレス・格闘技の専門雑誌「紙のプロレス」でプロレス関係の仕事に従事。徹底した事前調査をもとにしたインタビューで知られ、時には本人すら忘れているエピソードまで持参。テレビやラジオでも活躍するほか、芸能界の裏事情に斬り込むYouTubeチャンネル『久田将義と吉田豪の噂のワイドショー』も人気。近著は『吉田豪の巨匠ハンター』。

吉田豪(以下、吉田):それはもう、完全に変わりましたよね。確実にハードルが上がっています。その変化は本や雑誌だけじゃなく、僕が出演していたTBSラジオの番組の流れからも歴然ですよ。最初のレギュラーだった『ストリーム』は本当に何でもありの番組で、ジャニーズの暴露本や大手宗教団体なんかも、ふつうにネタにしていて。今じゃ、絶対に考えられませんよ。企画が全て通るものだから、当時の僕も「え! これ、公共の電波に乗せちゃって大丈夫なの?」って思っていたぐらいで(笑)。

その『ストリーム』が終わったのが2009年。後継番組として始まった『小島慶子キラ☆キラ』は多少の刺激は減ったものの、パーソナリティーの小島さんが社員時代なのに会社批判を連発したりの違う刺激があって盛り上がり、そして『赤江珠緒たまむすび』は刺激がさらに減ったことで最初は叩かれたりもしたけれど、その平和な感じが結果的には受け入れられて、今も続く番組になりました。この変化は、時代の流れを考えれば絶対に正しいんですよ。昔の内容のまま続けていたところで、炎上して大変なことになるのは目に見えていたから。時代の流れを何歩か先に読んで、正しいリニューアルをしてきたということだと思います。

――時代の流れに沿うということは、最近よく聞く「忖度」という言葉にも置き換えられると思いますが、吉田さん自身に不自由はないのでしょうか?

吉田:いや、僕は世の中の流れに対応しつつ、そのなかで自由にやるだけですから。正直、10年以上前の自分の原稿を読むと、今の常識からしたらアウトな表現も多々あって、時代の変化も、自分の常識も変化していったことに気付いたりもするんです。でも、どれだけ時代が変わっても、いかに自由にインタビューするか、いかに自由に原稿として仕上げるかが、僕のテーマなんで。自由を守るためにも、人のしがらみには関わり合いたくないんですよ。これはよく話していることですけど、取材をきっかけに出会った人と仲良くするのを避けるのも、しがらみを避けるため。もちろん、取材中は懐に入り込もうとするんです。でも、そこから親睦を深めてしまうと、踏み込みづらくなるじゃないですか。いわば、忖度したくなってしまう。それは絶対に避けたいんですよ。

忖度に巻き込まれそうになったら、僕はすぐに逃げます。実は「紙のプロレス」という雑誌を辞めたきっかけも、理由は忖度だったんですよ。当時の編集長は、雑誌の編集長というよりは興行側の人間になっていて。本来なら書き手を守る立場のはずなのに、一緒に興行を作っている相手に忖度し始めたんですね。 僕が書いた記事に憤慨した人間がいた場合、書き手を守るのが雑誌の編集長の仕事。それが書き手を守るどころか、その人のところに連れて行かれた。記事に対するお叱りを受けるのは、全く構わないんですよ。当時の僕が書きすぎていたのも事実なんで。でも、編集長が取材相手に忖度するようになっては、書き手の自由が損なわれてしまう。雑誌としては完全にアウトなんですよ。それをきっかけに編集長とのあいだに溝ができ、「紙のプロレス」を離れることになったんです。

善か悪かは関係ない。僕の仕事はおもしろい事実を伝えること

――ただ、吉田さんはかなりの大物にもインタビューをされますよね。忖度を求められることはないのでしょうか?

吉田:あえて原稿にしないことはありますよ。でも、それはマナーの問題ですよね。忖度という言葉には悪いイメージしかないし、権力に対する忖度のようことは絶対にしたくない。ただ、忖度という言葉も広義じゃないですか。人の気持ちを推し量るという意味では、取材のプラスに働くこともあるんですよ。これも生まれつきの客観性でしょうね。僕は人が弱っているのを察知する能力が、妙に高くて。「どうしていちばん弱っているタイミングでインタビューしに来るんですか!」なんて言われたりもする(笑)。

いずれにせよ、誰にだって触れられたくない部分はありますよね。そこは当然のマナーとして、話を聞く前にNG項目を確認するし、事前にはNGなしだったがはずが、内容がまるっと書き換わるような赤字を入れられることもあります。そうなったら、自分の署名を取ってもらいますけどね。自分の意図とは全く違う原稿なのに、僕が書いたことになってしまったら、読者に対する裏切り行為になってしまうから。そこで原稿が無駄になったとしても、僕は構わないんですよ。いつかネタになると思ってるんで。どれだけ痛い目に遭っても、最終的にネタにすれば回収できるから、酷い目に遭ってる時にも内心では「やった!」って興奮したり、早く言い触らしたいと思ってウズウズしていたりするんですよ(笑)。

――そのウズウズこそ、吉田さんの真骨頂という気がしますね。多くの人が、吉田さんこそが知る裏情報を待ち望んでいますから(笑)。

吉田:人のデタラメな部分って、おもしろいですからね。おもしろいから、世間の人に知ってほしいんですよ。2016年に不倫問題で叩かれた乙武洋匡くんなんて、最高におもしろいじゃないですか。かつては聖人君子のように見られていましたけど、実際はめちゃくちゃ不道徳な人ですからね。本人も別に、そういう自分を隠していたわけじゃない。僕のインタビューではデタラメな部分をちゃんと話してきたのに、世間がそこを見ようとせず、「そんな人だとは思わなかった!」「騙された!」とか言い出すという。あなたが知らないだけで、乙武くんはずっと「そんな人」だったんですよ。

不倫も浮気も褒められたことじゃないし、世間的には悪かもしれない。でも、善悪のジャッジをするのは僕の仕事じゃないから。僕の仕事はおもしろい事実を伝えること。「この人はこういう人ですよ!」「それを知った上で、あなたが自由にジャッジしてください」「僕はその資料を揃えます」という意識でインタビューをしているんです。端から悪と決めつけて人を嫌うなんて、損じゃないですか。だからこそ、いかに自由に取材するかがテーマなんです。大物に取材することもありますけど、大物だから興味が湧くわけじゃない。大物へのインタビューは、むしろ制約が多くなりがちで、面倒なことが多いですからね。それよりも制約のなさそうな人、もう何を書かれても気にしない高齢の方とか、何も守るものがない代わりに有名でもない人に話を聞いて、自由に書きたいんですよ。そこで酷い目に遭おうとも、いつかネタにする自由だけは確保しておきたいんです。

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