【前編】『美魔女』ブームの仕掛人・山本由樹さんに訊く、”理想の女性マネジメント”とは?
「働く女性」の未来像

「女性活躍社会」という言葉は古いんです。あえて言うなら、「女性中心社会」かな。
女性が社会に出て活躍することが当たり前の時代になりつつあります。2016年4月には、女性の活躍の推進を目指す『女性活躍推進法』が施行され、同年7月には、共働き世帯が1,000万世帯を超えたことが厚労省からを発表されました。「男性は会社で働き、女性は家庭を守る」といった考え方は、もはや時代遅れなのかもしれません。
そんな女性の働き方をめぐる社会状況の変化をかんがみて、マネたまでは、これからの「働く女性」の姿を考える新連載を始めました。題して、『「働く女性」の未来像 』。「これからの社会で女性が活躍していくってどういうことだろう?」。そんな疑問に答えられるような連載にできればと思います。
初回となる今回は、『美魔女』ブームの仕掛け人であり、現在は日本テレビ系『スッキリ!』月曜コメンテーターとしても活躍される編集者・山本由樹さんにお話を伺いました。
光文社時代に『美ST』『STORY』などの人気女性雑誌の編集長を歴任された “女性雑誌づくりのエキスパート”山本さんの考える「『働く女性』の未来像」とはどんなものなのでしょうか?
女性リーダーの方が多い時代に
――本日は女性が働くこと、女性が行なうマネジメントをメインテーマとしたインタビューをさせていただきたいと思います。
山本由樹(以下、山本) 今日のインタビューは、非常にタイミングが良いと思っているんですよ。というのも最近、「活躍しているのは女性ばっかりじゃん!」と思っているからです。
例えば東京都知事には小池百合子さんが選出され、民進党の代表には蓮舫さんが就任しました。アメリカの次期大統領選挙にはヒラリー・クリントンさんが出馬し、ドナルド・トランプさんとつばぜり合いを繰り広げています。さらに、韓国の大統領は朴槿恵(パク・クネ)さん。女性リーダーが当たり前になっている、というより「女性リーダーのほうが多い」時代になっているのかもしれません。
――確かに。ドイツの首相はアンゲラ・メルケルさんですしね。
山本 都知事選は小池さんと鳥越俊太郎さん、増田寛也さん3人の争いでした。結果、小池さんが当選したわけですが、彼女は「女性だから」当選したわけではありません。彼女自身、「女性だから~~できる」といったことを政策の柱にはしていないのです。具体的に政策をどう戦わせるかの争いで、リーダーシップを持つ小池さんが選ばれた。それだけのことだと思います。
もはや、女性が女性としてゲタを履かされる時代は終わりました。「女性が活躍する社会をどう作るか」という問い自体が、実は時代遅れだと思うんです。
――「女性だから」「男性だから」ではないと。
山本 全然ないですね。「女性の管理職を何パーセントに」なんて考えている会社は潰れると思います。
男性は、組織を維持することに長けています。一方で、組織を維持することで疲弊し、結果として大きな損失を招いている例は多いのではないでしょうか。男性は空気を読むことは上手ですが、空気を読んで組織の悪弊を隠ぺいすることが、さまざまな事件の遠因になっていたりします。それに比べると、女の人って空気読まないところがあるじゃないですか。
――いくときはバッサリいきますよね。
山本 男性よりも女性のほうが、空気を読まずにビシッと決断することに長けている面はあると思います。だから、「女性活躍社会」という言葉は古いんです。あえて言うなら、「女性中心社会」かな。女性の活躍を特別視すること自体、もう時代遅れなんですよ。
子育てのサポートは、会社がやるべき
山本 サラリーマン時代に面接官をやっていて、気づいたことがあります。優秀な人を選ぼうとすると、大半が女性ばかりになってしまうんです。ただ、女性は出産や子育てといった、ライフスタイルに大きな変化が生じます。一定数は、どうしても男性を採用しないといけません。必然、あまり優秀じゃない男性の中に少数の優秀な女性がいる……という構図になります。
女性は一人前になりかかったところでキャリアを中断する、それを繰り返す時代がありました。これまで男性中心で会社を作らねばならなかったのは、よく理解できます。しかし、今は「もう一度働きたい」「結婚・出産しても働き続けたい」という女性が非常に多くなってきているわけです。会社にとっては今後、子育てしながらキャリアを構築できる雇用環境なりシステムなりを用意することが義務になってくるでしょう。
以前の会社の後輩に、VERYの編集長(今尾朝子氏)がいます。彼女は結婚・出産を経てずっと編集長をしていて、すごい数の雑誌を売り続けています。彼女がキャリアを中断することは、会社にとって大きな損失を招く危険があるわけです。そこで会社は、彼女が働きながら子育てができるスペシャルな環境を提供したといいます。それを特例とせずすべての女性社員に提供することも、考えるべきじゃないかと思いますね。
女性がキャリアを中断する結果生じる損失を最低限に抑えるためには、働きながら子育てができる環境を整えること。政治や行政に求めていたら時間がかかりすぎます。待機児童問題にしても、今は解決策が個人に委ねられています。保育園が見つからないから未認可のところに預けるとか、お母さんに田舎から出てきてもらう、とか。それらのサポートは、会社がやるべきだと思います。
――「子育て支援をしてくれる会社だ」という評判が立てば、転職者が選ぶきっかけにもなります。
山本 子育てでキャリアが中断することがマイナスにならない環境は、素晴らしいですよね。現状、「子育て期間は子どもと一緒に」と思っても難しい判断を迫られます。中断をいかに少なくするか、復職後どうサポートするか、キャリアダウンしない制度をどう設計するか………向上心ある女性をサポートする仕組みを作るべきです。
――そういう意味で、時短勤務やリモートワークなどを取り入れる企業が増えてきているのは、良い傾向ですね。
株式会社「編」代表取締役社長、「DRESS」エグゼクティブプロデューサー。
1986年に光文社に入社し、以降週刊女性自身で16年にわたり編集を担当。その後2002年に『STORY』創刊メンバーとなる。
2005年から2011年まで同誌編集長、2008年に『美STORY(現美ST)』を創刊。2010年には「国民的美魔女コンテスト」を開催、『美魔女ブーム』の仕掛け役となる。2013年に同社を退社、『DRESS』を創刊し現在に至る。
『美魔女』というフレーズを作った理由
――山本さんは16年間『女性自身』の編集に携わられておられましたが、その経験で今も活きているものはありますか?
山本 僕の著書(『欲望のマーケティング』)にも書いたんですが、「本質的に、人の持つ欲望はそんなに変わらない」ことを学びました。週刊誌は、すべての人の欲望を満足させるものを生み出します。欲望の本質を見る習慣がついた気がします。
――「欲望の本質を見る」……例えば、どういうところを見るのでしょう?
山本 例えば『美魔女』というフレーズは30代、40代のきれいな女性を指す言葉です。それまでは、『熟女』という言葉しかありませんでした。でも、『熟女』と言われてうれしい人はいない。他の言葉を作ってあげれば、その人たちが自分を肯定できるのでは、と考えました。年齢を重ね、経験を積んだ女性の美しさを認知させたい。このフレーズを作った表向きの理由です。
――表向き、なんですね。実際はもっと違うと。
山本 本質的な部分でいうと、40代で結婚している女性は、女として満足していないケースが多いです。夫とセックスレスだったりして、自分を女として見てくれる人がいない。それって、すごく寂しいことですよね。彼女たちに、「もう一度女として認められる場所」を提供したい。それが、『美魔女』のコンセプトです。
10代の女の子から50代、60代まで、女性は同じ欲望を持っています。「モテたい」「セックスしたい」、そういう普遍的な欲望を含めて。例えば、「40代で幸せな結婚生活を送る美しい人」といえば、なんだか完璧なイメージがあります。「これ以上欲しいものはないでしょ」と。でも、そんなことはない。だから、「この人たちを女として認められる言葉と、その環境を作ろう」と思いました。
『ちょいワル親父』がブームになった『LEON』が売れたのだって、「40代・50代になっても若い子にモテたい」という欲望があったからです。老若男女、欲望の本質って大きくは変わらないんですよ。
――『美魔女コンテスト』では、回を重ねるごとに応募者の変化はありましたか?
山本 僕は第2回目までしか関わっていないので、変化といっていいのかはわかりません。けれど、明らかに社会のほうが変わってきていますよね。「美魔女になりたい」という選択肢ができたということです。2回目までは『美魔女』というフレーズが世の中に定着する前だったので、コンテストを受ける人たちにも一定の勇気が必要だったと思います。40代のミスコンって、当時はなかったですから。

僕の知らないところで、神様が生まれていた
――美魔女よりも下の世代に、興味は持っていらっしゃいますか?
山本 美魔女コンテストは、35歳以上の方を変えるために作ったもの。ですから、年齢に下限を設けました。でも、下の世代に興味を持っていないということではないですよ。いまローソンさんと行なっている『LAWSON DREAM ARTIST AUDITION』もそう。これは、ローソンでアルバイトをしている女の子を対象にオーディションをして、中田ヤスタカさんプロデュースでデビューしてもらう取り組みです。この企画をプロデュースさせていただいています。
企画を考えるとき、僕は「彼ら・彼女らに何が欠落しているのか、どういう欲望、夢を実現してあげれば、何が生まれるのか」を常に考えています。そこは、あまり年齢では切っていないですね。それに応援団の三戸なつめさん、舟山久美子さん、ゆうたろうさんたちと交流していると、新しい発見があります。
――どのような発見がありましたか?
山本 簡単にいえば「僕の知らないところで、神様が生まれていた」ということですね。
――えっ、どういうことですか?
山本 彼ら3人で、30分のLINE LIVEをやったんですよ。そうしたら、開始が10分遅れたりしたのに、結局最終的に再生数が155万人視聴まで行きました。
――155万人! テレビ並の数字ですね……。
山本 若者たちにとって、彼ら彼女らは神様なんです。ものすごい影響力を持っているんだな、このほわんとした子が、と。書き込みも何百件も入っていて、ローソンアルバイトのイメージもどんどん上がっていきました。
僕はマスメディアの時代にいました。メディアはスターを作り出しますし、スターとともにメディアは大きくなっていきます。でもマスメディアが影響力を失った今の時代、僕の知らないところで神様が生まれていたことを実感しました。衝撃でしたよ。三戸なつめさんなんて話を聞くと面白い子なんだけど、すごく向上心があったり、「大スターになってやろう」とギラギラしていたりするわけではないんです。
――今はギラギラしていると一歩引かれてしまうところがありますよね。
山本 若い子から学ぶこともありますけれど、先ほどもお話ししたように、老若男女を問わず人の欲望に大きな違いはありません。それをどうすくい上げるかは、編集者でありマーケッターでもある自分の仕事かなと思っています。
――「若い子はあまり夢を持っていない」という話を聞きますが、実際に接していてそういう印象は持たれましたか?
山本 持っていないわけではないけど、見つめていない気はしますね。ふわっとさせている、というか。だから、一歩踏み出させるための企画なんですよ。結果的にローソンでアルバイトをしたい人を増やすという目的なので、面白いことはできたかなと。
――それにしてもこのコピー、印象的ですね。「夢に賞味期限はないと思う」。この「思う」は、上の世代に向けたコピーではきっと使わなかった文言ではないかと思います。
山本 ありがとうございます。ここは、共感させようと思いました。
――「夢には賞味期限はない」で言い切ってしまうと、おそらく敬遠されますよね。
山本 押し付けになってしまいますよね。最初は中田ヤスタカさんをビジュアルに起用し、「夢には賞味期限があると思う」というコピーにしていました。「賞味期限があるから、今この瞬間にも一歩踏み出せよ」という意図で。
――なんと、当初は全く逆のメッセージだったんですね!
山本 そうなんです。でも、中田さんと応援団の人たちを入れ替えることになったとき、このコピーはちょっと違うなと。ローソンクルーさんにも年齢の幅が結構ありますから、年齢層が上の人たちが見ると傷ついてしまうのではないかと思って変更しました。実際、「ないと思う」のほうでは、肯定感が強いですよね。
――共感できますし、目線がそろっている気がします。
<後編へ続く>
【前編】『美魔女』ブームの仕掛人・山本由樹さんに訊く、”理想の女性マネジメント”とは?
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