【後編】「芸はビジネスと一緒。緻密にデータを取って作り上げられていくもの」髭男爵・山田ルイ53世(芸人)

失敗ヒーロー!

2018/09/12
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芸はビジネスと一緒。「売れる」には明確な理由がある

――この『一発屋芸人列伝』を書こうと思ったきっかけは何でしたか?

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山田:担当の編集者さんが連載の話を持ってきてくれたんです。でも、僕は嫌やなって思ってたんですよ。芸人が芸人に話を聞くだけでちょっと抵抗があるのに、一発屋が一発屋に話を聞くって傷の舐め合いみたいじゃないですか。だからうまいことできるかなっていう不安があって。だから、最初は断ってたんです。でも、「とりあえずやる」じゃないですけど、ひとまずレイザーラモンHGさんは一番尊敬している先輩やから「HGさんから始めてみよう」ってやってみました。そうしたら、反響含めて手応えがあったので「これ、面白くできるな」って思ったんです。

一発屋芸人ってね、ネットの世界でめっちゃ叩かれるんです。死んだ、消えたは、まだええとして、「おもんない」って言われるんです。いやいや、そんなことないよって。面白いから一発当てられるんやって。だから、いかに一発屋って呼ばれている人が才能があって、すごい芸人なのかを記録として残しておきたかったんです。私怨も込みですけど。でも、僕がこうして書かないと芸人さん、誰もいわないでしょ。ハードル上がるだけですし。そこに付け込んで、ネットで悪し様に叩かれてるのが納得いかなかったんです。まぁ、そういう風に軽んじられるカテゴリーだっていうのはわかるんですけど「そうじゃないよ」っていうのを書いておくのもいいかなって。

――本を書いてみて、書く前にはわからなかった“一発屋芸人像”は何か浮かび上がってきましたか?

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山田:きっちり取材して、話を聞いて、自分で咀嚼して書いていくうちに、やっぱり売れるには明確な理由があるんやなっていうのがわかりましたね。どの芸も、人の芸と被ってないし、緻密に作り上げられてるんですよね。HGさんのハードゲイのパフォーマンスにしても、そう。結局ね、芸って、ビジネスと一緒だと思うんです。まずアイディアが出る、それを机上で練りまくるんです。こういうキャラクターで、こうボケて、こうツッこまれる。そこから客前で試してデータを取るわけです。何回かデータを取ったら、確実にウケる部分っていうのがはっきりとわかるから、そこを抽出して、ブラッシュアップしていく。みんなそういう作業をしているわけで、決して思いつきだけでやってるわけじゃないんですよ。だから、書いてみて、改めてみんなすごい力のある人たちなんやって、真面目に仕事に取り組んでる人たちなんやって、思いました。みんな狂ったように努力している。それで生きていけるか、金稼げるか、飯食えるかもわからへんのに。もう、狂気ですよね(笑)。

――山田さんは右手に引きこもりの話があって、左手に一発屋の話があって、それを両方とも書かれたわけじゃないですか。山田さんにとって「書く」という作業はどのような意味を持つものなんですか?

山田:かっこいいっすね、今の言い方(笑)。盾と矛みたい(笑)。でも、こういうとカッコつけてるみたいですけど、僕にとっては芸人として芸をしているのと一緒なんですよ。文筆家なんて意識はありません。ただ、手前味噌ですけど、こういう風な本を書くと、文章力あるよね、比喩表現が良いよね、みたいに褒められることが、あるんです。一応、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」って名誉ある賞もいただきましたから。一発屋のカテゴリーに入って以降、ずっと給水所なしのマラソンをやっていたみたいなところがあって。あまり褒められる給水ポイントがなかったんです。特に、シルクハット被って、「ルネッサーンス!」って言うてる芸人やと、デリケートな部分で褒められない。でも、もともとは褒められるのが非常に好きな人間ですから、素直に嬉しいし、それは芸人として評価してもらったのだと思うことにしてます。

我の強い人間とチームを組むための秘訣は「やらせてみる」こと

――山田さんは樋口さんとコンビ、言ってみれば「チーム」を組まれてるわけじゃないですか。前編で樋口さんは我が強いということをおっしゃっていました。我が強い人とチームを組むなかで、山田さんはどのようにマネジメントされているのでしょうか。

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山田:そうですね。とにかく樋口くんは我が強い! でもね、そんな彼にも一つだけ信用できるところがあるんです。それは、「絶対、こいつ、辞めへんな」って思わせてくれるところ。僕にとってはそれがすごく重要なんです。僕は、引きこもったり、大学を辞めたりして、社会の縦と横のつながりが全部なくなったんですよね。その時に、唯一、樋口くんだけが友達って呼べる人間で。だから、辞められるのが一番困るんです。その点で言えば、樋口くんはすごく安心できる人間でした。コンビ組んでて、相方が辞めへんっていうのは、大前提なんです。だっていくら失敗しても、続けることができるから。樋口くんは我が強いから、昔は自分で書いたネタをやりたがった。それを、どんなに面白くなくても、とりあえずやらせるんです。全部やって、オーディション行こうか、ライブでやろうか、ほら、スベったでしょ、ダメだったでしょ、じゃあネタに関しては、僕に書かせてねって。一度、全部付き合ってあげた上で、データを出して、客観的にわからせるってことをコンビというチームを運営していくなかではやっていましたね。

――なるほど。無理やり抑え込むのでなく、やらせてみるのが大事なんですね。一方で、マネジメントにはリスク管理が必要だと思いますが、その点はどうしていますか?

山田:芸人にとってリスクと言ったら「スベる」ことなんですよね。一方で、一発屋系の芸人のネタに多いんですけど、「スベり返し」みたいなのがあるんですよ。要するに、一度、スベるようなことを言ってシーンとなる、その後の一言で爆笑を取る。それをするには、いろいろライブに出て、ネタを披露して、お客さんの反応を見て、データを取る必要があるわけです。その上で、テレビ番組だったり賞レースで披露するわけですから。商売の世界で言ったらモニターみたいなもんですよね。試食みたいな。「これ美味しいって思ってもらえるかな?」みたいな。だから、芸人って非常にビジネスパーソン的やと思います。そういうのを積み重ねた人が、やっぱり売れるわけやし。お茶の間の人が見る段階では既に、かなり仕上がってる状態なわけです。本人たちがネタに飽きてるくらいの感じ。

――そうなんですね。緻密なデータ取りの作業を経てネタを作っているわけですね。

山田:特に我々、一発屋と呼ばれる芸人は人とは違うトリッキーなネタをするわけなんで、リスク管理ができていないと、いびつなものになってしまうんです。でもその分、成功した時の喜びはとんでもないですけどね。だって、今まで世になかったスタイルのネタで爆笑を取るわけですから。

――最後に今の30代にこれだけは身につけておいた方が良いっていう考え方を伝授していただければ。

山田:身につけておくっていうのとはちょっと違うかもしれないですけど、「自分の限界を知る」っていうことですかね。僕は今、43歳ですけど、この歳になるとできることとできへんことってすごくわかってくるんです。そりゃあ僕かて、正統派の漫才で、スーツをビシッと着て、センターマイク一本で勝負したかったですよ。でも、どう考えても、僕と樋口くんっていう髭男爵の二人の総戦力を考えた時に、それで他の人には勝たれへんなって思ったので。自分の可能性を見限ってあげる、諦めてあげることってすごく大事やなって今になっては思います。なるべく早くできへんことを見つけてあげて、可能性を潰していって、選択肢をすっきりさせるっていう作業は、とても大事なんじゃないでしょうか。それがその人を成長させる最大の近道なんだと僕は思っています。

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