私たちの新たな支配者と、地球の行く末——スコット・ギャロウェイ『GAFA 四騎士が創り変えた世界』

「働く」を考えるベストセラー  第9回

2018/09/05
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著者:長瀬海
 

GAFA 四騎士が創り変えた世界

スコット・ギャロウェイ(著)
出版社:東洋経済新報社
出版年月日:2018/7/27

GAFA

新しいルールを打ち立てるには、既存のそれを打ち壊さなければならない。我々は変革の過渡期にいて、昨日当たり前だったものが、明日は古い常識になっている世界に住んでいます。変革をしているのは四つの騎士。スコット・ギャロウェイの『GAFA 四騎士が創り変えた世界』は四騎士、すなわち、Google、Amazon、Facebook、Appleがいかにして破壊と創造を繰り返し、新たな秩序を生み出しながら、変革者となっていったのかを、ストーリー戦略の面から暴き出し、全世界でビッグセラーとなっている本です。

四騎士はビジネスや社会、地球にきわめて大きな影響を与えている。もはや政府や法律でさえ、これら四騎士の快進撃を止めるには無力なように見える。しかし四騎士自身の対抗心の中にこそ、安全装置が組み込まれているようだ。四騎士が互いを憎んでいるのは明らかだ。いまや彼らはそれぞれの分野では敵なしの状態になり、四騎士同士が直接ぶつかり合っている。(本書、25ページ)

本書は、まず、Amazonの神話を分析します。Amazonについては、一度、この連載で触れました。詳しくはそちら(第七回)を参照して欲しいのですが、Amazonがその力を手にいれることができた背景には、人間の狩猟民族としての本能が関係していると著者はいいます。人間は古来より狩猟と採集を生活の中心に据えてきました。それは現代においても、形を変えて残っています。どのように形を変えたか。消費と貯蓄という形に、です。狩猟社会と消費社会は地続きであり、Amazonはこの人間の本質的な性格につけこんで成り上がったというわけです。そこで、本書はリテール産業の歴史を丁寧に綴っていきます。小売業は、消費社会の出現以前から存在していた「我々の消費本能を利用して富を築いた最大の業界である」からです。
 
街角で店舗を構える、地域のコミュニティとして、あるいは社交場として機能していた、家族経営の小売店はやがてデパートへ飲み込まれます。「サービスを通じた差別化という概念」つまり、ユニークな販売システムを生み出したデパートは、ショッピングモールに形を変えていきます。さらに、ショッピングモールは消費社会の誕生とともに、小売店を大企業に育て上げます。ウォルマートやターゲット、Kマートです。こうした大規模小売店は社会的規範を大きく変え、小売の形をも変えました。その先に現出したのが、Amazonなわけです。こうした歴史を紐解くことでAmazonが決して突然出てきたキワモノではないことがわかります。Amazonはリテール産業の歴史の最終地点にある、小売業者なわけです。ただ一つ違うのは、彼らの成長速度、そして彼らがAIを駆使したテクノロジー企業ということであり、それこそがAmazonが破壊者と呼ばれるゆえんなのですが。

Appleは四騎士の中で最も宗教的な力を備えた企業です。つまり、「信者」が多いのです。例えば、著者はこんな事件を引き合いに出します。ある銃乱射事件が起きた。FBIはAppleに犯人のiPhoneのロックを解除することを命じた。しかし、Appleは応じない。それに対して著者は同社を糾弾する声をあげた。すると、「信者」から何千というヘイトメールが届いたと言います。それほど信者を作ってしまうAppleとはいったい。著者はAppleが成功した影には、彼らが自社の製品を高級ブランドとして売り出すことに成功したからだといいます。マイクロソフトやLinuxが、パソコンの進化に伴い、格安製品をメーカーと協力して生み出していったのに反比例して、Appleは自社の製品をまるでエルメスやグッチのようなブランド物、つまり、持つ者が選ばれた感覚を味わえる製品として、市場に流通させるというストラテジーを仕掛けたのです。

高級ブランドが成功する条件とはなんでしょうか。著者は言います。それはアイコン的な創業者がいることだ、と。ルイ・ヴィトンのようなリーダーです。それから職人気質。(Appleの製品に日本の職人技術が使われていることはよく知られています)。また、メーカー直営のおしゃれな店舗を構えること。そして世界展開。さらには、高価格であること。Appleは奇跡的になのか、それとも必然的になのか、この全てを兼ね揃えていました。その結果、パソコンという無機質な電子器具から、持てばカッコいいブランド品の仲間入りを果たし、何千万という「信者」を生み出したわけです。
 
Facebookの影響力は未曾有の速度で増大し続けています。著者はある調査を紹介します。人間の幸福レベルに最も強く影響するのは人間関係の深さと有意義さである、というものです。その調査と照らし合わせると、Facebookは最も簡単に、人間に幸福を与える戦士なわけです。ただ、それだけでFacebookが四騎士の仲間入りを果たしたわけではありません。Facebookは「マーケターの楽園」だという別の顔を持っています。これはどういうことでしょうか。

著者はいいます。Facebookは「気持ち悪い」と。巨大な学習エンジンであるFacebookは、商品を検索する人の記録を淡々と集めています。それだけではありません。例えば、iPhoneにFacebookのアプリをいれるとFacebookは全てを聞き、分析を行っている。そのために、ユーザーが何を欲望していて、何に興味を持っているのか、ピンポイントで商品を提示できるわけです。そんな恐ろしいことがFacebookでは行われている、と著者はいいます。人のプライバシーをないがしろにした上に成り立っているのがあの幸福を与える画像共有SNSなのです。
 

Appleは世界一革新的な企業と考えられている。Amazonは最も評判のよい企業。Facebookはいちばん働きやすい企業だ。しかし私たちがGoogleに置く信頼には並ぶものがない。(本書、209ページ)

著者をそう確信づける理由は、Googleに透視能力があることす。私たちの思考と意図の記録をつける。Googleの検索窓口に聞きたいことを打ち込むことによって「私たちは、Googleに司祭やラビ、母親、親友、医師にさえ話さないことを告白する」わけです。ある意味では、究極の懺悔(ざんげ)室なのです。しかし、そうすることで、Googleはひっそりと世界中全ての情報を集めています。

食い物にされる側は気づかないまま手遅れになってしまった。その結果、Googleによる知識の支配が完成し、他企業の参入は極めて困難になってしまった(MicrosoftのBingのシェアの低さを見よ)。そのため、この状況は、この先何年も続く可能性がある(本書、246ページ)

そのように著者はいいますが、まさしく、これこそが、四騎士の中でもGoogleが最も神に近づいている証拠でしょう。

本書では、紙幅を割いて、著者が『ニューヨーク・タイムズ』の株主となって、Googleと戦った記録がドキュメンタリー風に綴られています。それを読むと、いかに旧態依然の体質を持った企業が、新進気鋭の組織に対してストラテジーの面でいかに遅れをとっているかがわかります。

四騎士はこうしている間にも、着実に成長を遂げています。5年後、10年後、第五の騎士が現れて、彼らを打ち負かさない限り、私たちの社会は、地球は、四騎士に牛耳られるでしょう。しかし、第五の騎士が現れたとして、彼が味方なのか敵なのかわかりませんが。
 


photo by Marius Haffner

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長瀬海(ながせ・かい)

1985年千葉県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修了。ケーブルテレビ系の通信・放送会社勤務を経て、ライター・インタビュアー・書評家へ転身。音楽、文学が専門。現代日本文学、海外文学、エンタメ、SFなどジャンル問わず書評します。