内向型のセルフマネジメント術、教えます。——モラ・アーロンズ・ミリ『内向型のままでも成功できる仕事術』

「働く」を考えるベストセラー  第8回

2018/08/07
Pocket

著者:長瀬海
 

内向型のままでも成功できる仕事術

モラ・アーロンズ・ミリ (著)
出版社:辰巳出版
出版年月日:2018/5/30

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ここには自分のことが書いてある! そう思えるかどうかで、ビジネス書や自己啓発書と読者の相性というのは、大いに変わってきます。
 
そういう意味では、モラ・アーロンズ・ミリ著『内向型のままでも成功できる仕事術』と私の相性はぴったりでした。だって、この本には私のことがずばり書いてあるのですから。

少し個人的な話をします。私は、こうして書評を主としたライターに転身する前はいち会社員でした。いつも上司の顔色を窺いながら仕事をし、言いたいことも言えず、うじうじしていた情けないサラリーマンだったのです。営業成績が伸び悩んでいた頃には、上司からのプレッシャーに負けて、鬱を患うなんてことも。とにかく、会社員時代は不安で不安で、仕方ありませんでした。今度の商談、破談してしまうんじゃないか。上司から良い評価をもらえなかったらどうしよう。他の同期や後輩が自分よりも出世してしまったら独りぼっちになっちゃう。今思えば、つまらないことで悩んでいたものです。しかし、当時はそれが私のいる世界の全てでした。家に帰っても、仕事のことばかり気にして何も手につかない。あーあ、もう全てを投げ出して消えてしまいたい! なんて思っていました。

著者のモラ・アーロンズ・ミリはアメリカのソーシャルインパクトカンパニー「ウィメン・オンライン」の創業者。二度の大統領選、世界最大のチャリティー基金、アメリカ最大の労働組合、アメリカ最大の非営利法人、アメリカ最大の銀行といったビッグネームのパートナーとして活動している。しかし、本人は、全般性不安障害を抱え、さらに双極性障害も患い、現在は対人恐怖症と重度の飛行機恐怖症に悩まされています。「恐れない、なんて無理。何もかもが怖い。起業家でありながら、起業家としての日々の仕事が怖くてつらくて仕方がない」。講演会の前にはトイレに隠れてしまう。人前が怖くて仕方がない。誰かに会う時には抗不安剤を飲まなければやっていけない。そんなネガティヴな心境を吐露する彼女のエッセイに、私は「まさに自分じゃないか!」と感動したのです。
 
本書の主張の軸はシンプルです。不安を乗り越えろ、でもなく、不安を掻き消せ、でもなく、不安とともに生きよう、というもの。不安と寄り添いながら、仕事をする。しかもただ仕事をするだけじゃなく、成功を収める秘訣が本書には綴られているのです。

著者のような人間にとっての大敵はFOMOと「達成ポルノ」だと言います。FOMOとはFear of Missing Outのこと。つまり、見逃してしまうことの不安や恐れです。では一体何を見逃してしまうのでしょうか。それは、他人の成功の場所に自分がいないことです。SNSには華やかな写真、煌びやかな言葉の数々が、毎日流れています。誰々のパーティーに行きました。現在手がけているプロジェクトが大成功。何々の賞を受賞しました。昨年の業績が評価され次期プロジェクトのリーダーに就任しました。などなど。

こうした成功の横にどうして私はいなかったんだろう。どうしてパーティーに出席しなかったんだろう。著者は言います。「見逃す恐怖、FOMOはSNSが発達した時代の呪いといえる」と。インスタグラムやフェイスブック、ツイッターの隆盛している現代において、FOMOはまさに「時代の呪い」なのです。

「達成ポルノ」も同じ。この言葉は著者が作った言葉です。インスタグラムやフェイスブックは誰かが何かを達成したことをアピールする、とっておきの場。そこには究極のナルシシズムが潜んでいます。人にはできなかったことを自分はしたんだぞ! という記事を投稿して悦に入る。しかし、それを目にして心から祝福できる人は、聖人といっても過言ではない。他人の「達成ポルノ」によって、小心者の著者のような人物は怯み、不安になり、嫉妬にかられると言います。

FOMOや「達成ポルノ」によって生み出される不安。しかし、それは考え方によっては、自分の仕事を成功に導く道具にもなります。他人から与えられる不安は人に自分自身を省みる目を開かせます。なぜ、他人の成功を前に不安になるのか。それは自分の今いる場所が、目標とする地点から離れているからだ。じゃあ、そこまで到達するにはどうすればいいのか。週にこれだけのタスクをこなす。そのためには1日これだけの仕事をする。これだけの人に会って話をする。こうして不安は、自分を成長させる材料になるわけです。

また、本書にはワークライフバランスではなく、ワークライフフィットを目指せ、という言葉が綴られています。そもそも仕事とプライベートのバランスをとるというのは非常に困難なもの。それは強迫観念を生み出し、仕事に追われてしまうことでプライベートが削られると、逆に不安を生み出してしまいます。そうではなく、仕事とプライベートを仲良く寄り添うように考え方を変える。すると、今日は仕事で忙しくても、明日はプライベートを大事にしてあげようという風に、心に余裕が生まれるのです。

こうして本書は、引きこもりの著者のような人間に、不安と寄り添いながら仕事を進める方法を教えてくれます。でも一番大事なことは、上司に、同僚に、自分が引きこもりの不安症な人間なんだってことを理解してもらうこと。その上で、自分だけのワーキングスケジュールを作り出すこと。半年間頑張ったら、一ヶ月休んだっていいじゃない。ちゃんと成果をあげるなら週に5日も働かなくて良い! その代わり、仕事の時間とペースを、他人よりしっかり、厳密に管理すること。それさえできれば、ほんの少し遅れて職場に行くとか、早く上がるとかしたって、別にいい。それは「同僚よりがんばらないわけではなく、ちょっと違う働き方をすることなんだ」と著者は言います。私も、働くって、そうあるべきだと思います。それが窮屈な日本の労働社会に風穴をあける一手なんじゃないでしょうか。

著者はこう綴ってもいます。

わたしにとって不安は才能であり、呪いでもあった。目指す場所にたどり着くために、自分の中の怪物をギリギリのところで押しとどめながら必死で働いたのは不安だったからだが、ノーと言えるようになったのも不安のおかげだ。一番大切なのは、不安があったからこそ、わたしの心を犠牲にしなくても家族と一緒に過ごせる人生を作れたことだ。広い世界にいることも好きだけど、それは少しでいい。仕事を20年も続けてきてようやく、わたしは自分の時間やスペース、スケジュールをうまく使えるようになったと思う。(本書、105ページ)

不安と一緒に仕事をすること。その上で、成功を収めること。それは、内向型なら内向型らしくセルフマネジメントをすることに鍵があるわけです。本書にはその鍵を見つけるヒントが散りばめられています。
 

photo by Lyncconf Games

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長瀬海(ながせ・かい)

1985年千葉県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修了。ケーブルテレビ系の通信・放送会社勤務を経て、ライター・インタビュアー・書評家へ転身。音楽、文学が専門。現代日本文学、海外文学、エンタメ、SFなどジャンル問わず書評します。