徹底した顧客主義を支えるアマゾンの“仕組み”—佐藤将之『アマゾンのすごいルール』

「働く」を考えるベストセラー  第7回

2018/07/04
Pocket

著者:長瀬海
 

『アマゾンのすごいルール』

佐藤 将之 (著)
出版社:宝島
出版年月日:2018/4/6

amazonhonhon

破壊者なのか。支配者なのか。それとも創造者なのか——。1994年にアメリカはシアトルの小さな一つの倉庫から始まったアマゾンは、瞬く間に、世界を征服しつつあります。そのスピードはどこから来ているのか、その野望はどこへ
向かっているのか、その内実はどうなっているのか。佐藤将之著『アマゾンのすごいルール』は「ここまで言っていいのか!?」というくらい、アマゾンの全てをさらけ出した秘伝の書です。

著者はもともと某ゲーム会社の生産管理部門で働いていました。しかし、ある年のクリスマス、配送ミスによって新商品が多くのお客様の手元に届かなかったのです。そんな彼らの大失態を尻目に、躍進している企業がありました。それがアマゾンだったと言います。そして、2000年、Amazon.co.jpのオープンとほぼ同時期に、アマゾンへと転職。以降は、創業者のジェフ・ベゾスのもと、アマゾンの飛躍の15年間を見つめ続けてきました。著者は本書のなかでその15年間で学んだアマゾン流仕事術の秘密を綴っています。

アマゾンをアマゾンたらしめている一番大事な基本理念は何か。それは、「Customers Rule!(お客様が決めるんだ)」という考えです。お客様のために何ができるか、どうすればお客様が喜ぶか、お客様はこの瞬間何をもとめているのか、といったことを常に考え、事業を推進している、非常に愚直な会社。それがアマゾンです。

なので、アマゾンとは決して複雑な組織ではないと著者は言います。理念は限りなくシンプルに、顧客満足度だけを追い求める。「黒船」なんて仰々しい呼ばれ方をするこの会社は、何かとんでもない魔法を行使しているわけではない。強いて言えば、

普段我々が想像する未来よりも、ずっと遠くの未来を見ているだけ。
普段我々が考えるスピードよりも、さらに速いスピードを求めているだけ。
普段我々が想像する距離や空間よりも、はるかに広い範囲で物事をイメージしているだけ。(本書、5ページ)

ただ、それだけの会社だと、著者は言うのです。そして、そこにこそ、アマゾンがアマゾンであり続ける秘密が隠されているわけです。

アマゾンで合言葉のように口にされるのが「Scalable(スケーラブル)かどうか」というもの。これは、何か一つのサービスを考案した時に、それが現状の1000倍、10000倍の規模でも成し得るかどうかを念頭に置け、ということを意味します。ジェフ・ベゾスはよく言っていたそうです。「Good intention doesn’t work. Only mechanism works.(善意は働かない、働くのは仕組みだ)」つまり、「『善意』だけで従業員は働き続けられない。『仕組み』の土台の上で従業員の『善意』が発揮される」というわけです。日本独特の「おもてなし」とは一見、逆をいく考え方。しかし、今の働き方改革などで揺れる〈労働の現場〉で求められているのは、従業員に善意で働くことを押し付けることではなく、大きなスケールでものごとを考え、それが自動的に動くプロセスや仕組みを整えることでしょう。現場を疲弊させないために、それぞれのアイデアが「Scalableかどうか」は大切な判断基準なのです。

さらに、アマゾン内部で使われるマントラ(呪文)が二つほどあります。それは「カスタマーエクスペリエンス」と「セレクション」です。アマゾンでは、一つのビジネスが考案される際に、常に、「それってカスタマーエクスペリエンス的にはどうなの?」と問いかけられると言います。このことは先ほどの「Customers Rule」と通じ合います。あるアイデアによって、会社的にはコスト削減になって、利益も出るとします。しかし、それによって顧客にとってのアマゾンの使い心地が少しでも悪くなってしまうのであれば、意味がない。

同じように、顧客が買い物をしようとした時に、「選べる(セレクト)買い物」でなければダメなのです。品揃え、支払方法、配送方法、受け取り方法。アマゾンは常に顧客が一つでも多くの選択肢から選べるように、仕組みを整えています。
 では、そんなアマゾンの体内を流れる人材理念とはいかなるものでしょうか。アマゾンには、その文化を語る上で決して外せない、「Our Leadership Principle=OLP(リーダーシップ理念)」というものがあります。これは、全てのアマゾニアンに備わっていなければならない、働く上で自己をあるいは他者を動かす力、アマゾンのなかでの「生き方」そのものです。

14ヶ条あるこの理念のうち、興味深いのは、「Invent and Simplify(創造と単純化)」という項目。全てのアマゾニアンは創造力を持ち、革新的でなければならない。アマゾンは常に既存の考えを壊し、新たなサービスを生み出してきました。これからもドローンでの配送など、想像もできないサービスを創造するでしょう。ただ、この項目が面白いのは、Inventだけではなく、その後にSimplifyがくっついていることです。創造や革新だけならどこの企業でも目指している。アマゾンはその上で、常にそのサービスが「簡単」でなければならない。例えば、Amazonプライムのサービス。年会費も使い方も複雑ではありません。「まとめてドンッ!」とお客様に使わせてしまうのが、アマゾンなのです。

14ヶ条の理念それぞれについては是非、本書を読んでほしいのですが(どれも努力次第で身につく力です)、この理念から見えてくるリーダー像があります。それは、〈どんな時でも問題点をしっかり深掘りし、周りの信頼を勝ち取りながら、素早く、かつ、必要以上の浪費は避け、短期的な成功だけではなく、中長期的な成功を見据えながら、創造的な力を行使し、高い目標を常に乗り越えるために主体性を持った、何よりも顧客のことを第一優先で考えられる人物〉です。それが今のアマゾンを動かしている一人ひとりの戦士たちなわけです。

では、彼らの具体的な働き方はいかなるものでしょうか。アマゾンは世界中のどの企業よりも数字に厳しい会社です。彼らは「数字=メトリックス」を細部まで徹底管理し、PDCAサイクルを回しています。今週の目標も、先週の目標達成率も、今日の進捗状況も全て数字で管理し、メトリックス(通常ではKPIと呼ばれるものです)によって動き方を決めていきます。メトリックスで動いているからこそ、PDCAを高速で回すことが可能であり、その結果、業務にスピード感が出るわけです。アマゾンが持つスピードの秘密の一端がここにあります。

「メトリックスに常に目を通し、把握しておく」「目標達成が難しそうなところはないか、チェックしておく」「問題を解決できる方法を考えておく」「数字を改善する代替アクションのアイデアを考えておく」。この循環が、アマゾンの成長を生み出し、新たなサービスを成功に導くわけです。

私たちの生活に今やアマゾンは欠かせないものとなりました。アマゾンは私たちの生活にスピード感を与えてくれます、生活の利便性を向上してくれます、なにより生活を幸福にしてくれます。なぜ、彼らにはそのような魔法が可能なのでしょうか。その秘密は彼らの理念に則った働き方、具体的な数値で示された目標管理の仕方にありました。そうしたワーキングモデルのもと、彼らは、これからも、新しい慣習を作り出し、世の中を微笑みの絶えない社会にしていくことでしょう。本書はそのことを教えてくれる一冊です。

photo by Emmanuel_D.Photography

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長瀬海(ながせ・かい)

1985年千葉県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修了。ケーブルテレビ系の通信・放送会社勤務を経て、ライター・インタビュアー・書評家へ転身。音楽、文学が専門。現代日本文学、海外文学、エンタメ、SFなどジャンル問わず書評します。