エリートの構造が変わる!?——ニューエリートの誕生

「働く」を考えるベストセラー  第6回

2018/06/06
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著者:長瀬海
 

『ニューエリート グーグル流・新しい価値を生み出し世界を変える人たち』

ピョートル・フェリクス・グジバチ (著)
出版社:大和書房
出版年月日:2018/2/23

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世界で起きている価値観の転換を先読みし、現状を打破する方法を綴り話題を呼んでいるピョートル・フェリクス・グジバチ著『ニューエリート』は、冒頭に次のような言葉が置かれています。

今は産業革命に匹敵する変化の時代と言えるでしょう。(24ページ)

では、その「変化」とは一体何に対する変化なのでしょうか。かつてグーグルの人材育成、組織開発部門で活躍し、現在は独立し二つの会社を経営するピョートル氏は本書のなかで、エリートのあり方そのものが変わってきていると言います。

ポスト資本主義の時代に到来した現在、旧態依然のエリートのふるまいは古めかしいものとして、時代錯誤なものとして、ニューエリートの目には映る。こうした変化は特に海外で顕著だ。しかし、そのことに気づいていない人々が、特に日本の社会には多数いる。だから、一度、世界の成功者と一向に回復に向かわない日本経済の世界で働く人々を比較してみると良い。ピョートル氏はそのような厳しい眼を持って、日本社会を見つめます。

では、オールドエリートとはどのようなタイプの人々でしょうか。それは固定化された「地位」にしがみつく人のことを指します。有名大学を卒業し、「◯◯大学卒」という肩書きのもとに生き続ける学歴エリート。一部上場の大手企業に入社したことで満足し、係長・課長という戦前から続く階級のなかで安定したポジションに居座るエリート社員。ピョートル氏ははっきりと言ってのけます。彼らはいままで欲しい物や名声を手に入れるため、欲望に忠実に、計画性を持ってしゃかりき働いてきた。だが、これからの時代、彼らには、「成長の余地」が、ない、と。

彼らは確かに強欲です。ステータスを求めます。計画的な行動をとります。ルールを守ることにも長けています。しかし、その人間関係はクローズドで、誇示的な消費行動、つまり、「見せびらかすための消費」に走りがちなのです。そのことをピョートル氏は本書の中で詳細に分析しています。

もし、現在の環境が変わらないのであれば、彼らのような人間が勝ち続けるのでしょう。だけど、今や、環境は変化し続けます。新しいものが続々と登場します。例えば、UberやAirbnbというサービスなんて、10年前には考えもつかなかったでしょう。けれど、それが今や、既存のビジネスを凌駕する勢いで伸びています。

だからピョートル氏は言います。今の時代、成功とは固定化した「地位」にしがみつくことではない。成功とは、「持続的に成長していること」であり、その結果、「ゼロから1を生み出す」力を身につけることである、と。その時、働き方のステージも変わります。戦後日本は生産経済を舞台に焼け野原からのし上がりました。企業戦士に必要だったのは、服従する力と勤勉さでした。けれど、高度経済成長が終わり、新たなワーキングステージに進んだ時、求められるものは、知能と企業へのロイヤリティーとなりました。ピョートル氏は、この「知能とロイヤリティー」が必要なステージを「ナレッジエコノミー」と名付けます。

だが、ナレッジエコノミーの時代は過ぎ去りました。今は革新に次ぐ、革新が起きる時代です。それは、ピョートル氏の言葉を借りるなら、「クリエイティブエコノミー」のステージとして私たちの目の前に現れます。本書によると、情熱・創造性・率先というこれまでと異なるパワーを持った人々(ニューエリート)がそこでは活躍するというのです。

では、ニューエリートの正体とは一体——? 簡単に要約すると、利他主義(他人の欲望を叶えるために動けること)であり、社会にインパクトのある貢献を残したいという熱意に満ちた人間であること。さらには、学ぶことに貪欲で、人間関係はオープン。新しい原則を作ることに長けていて、ミニマリズムな人物(シンプルな考え方をデザインできる人)です。今、グローバルな視点で見て、ビジネスのニューシーンに現れているのはそのような人々です。

日本には、こうしたニューエリートが誕生する土壌が肥えていません。ピョートル氏は次のように言います。

これまで日本人は、1を10にすること、既存の仕事をいかに発展させるかに力を注いできました。象徴的なのが、NTTなど、かつて「三公社五現業」と言われた企業、そして東京電力や東京ガスなどのインフラ企業です。(32ページ)

こうした企業の力は凄まじかった。だから日本は先進国として上り詰めることができた。しかし、ウェブ2.0以後の時代には、「既存の仕事をいかに発展させるか」だけでは、国際的な戦いに勝てないのです。ピョートル氏は、こうしていかに日本がいまだオールドエリートのスーツを身にまとった人々によって支えられているかを説きます。それは女性の活躍が進んでいないことと無関係ではありません。このスーツを脱ぐ方法は詳細に本書に記されています。(日本の企業のリーダーは部下を性悪説で見ている、などは面白い指摘です。)

新しい価値観を提供し、常にイノベーションできる会社、あるいは、そうした創造性を持った人物。彼らにはこれまでになかった様々な力があります。本書から一つ代表的なものをあげるなら、「自己効力感」(セルフエフィカシー)です。それは、「『自分がある状況において必要な行動をうまく取れる』という可能性認知」の力のこと。つまり、しかるべき状況において、最適解を叩き出せる力。グーグルにはこの「自己効力感」を高める手法に基づいた社風と制度があるそう。一つがG2G(Google to Google)というもので、社員同士が自分の「できる」ことを教えあう、それによって「自分はできる人間だ」という効力感を高める制度です。

また、面白いのが、グーグルの採用基準の変遷。かつてはグーグルは「T字型人材」が必要とされていました。「T字型人材」とは、専門知識を縦軸に据えながら、横軸で幅広い知見を持っている人材のこと。それが、やがて「π字型人材」、つまり、専門知識を2つ持ち、視点を切り替えて考える人材が求められるようになり、今では、「H型人材」の時代になったというのです。要するに、「強い専門性が一つあり、他の人の専門性つなぐ横棒を持ち、別の専門のコミュニティと繋がることでHになるという、人と繋がりやすい人材」の時代なのです。

最後にピョートル氏は日本の職場に足りないのは次の5つの段階で物事を考えられる人材だと言います。1、自己認識をする/2、自己開示(自分の考えや不満を曝け出す)をする/3、自己表現をする/4、自己実現をする/5、自己効力感をあげる。

このように考えると、根本的なところで、日本が後進国となってしまったかのような印象を受けます。しかし、悲観することはありません。そんななかでも、グローバルに活躍する日本人をピョートル氏は各章で紹介しています。彼女・彼らのような人材が増えていくことで、日本でもニューエリートの活躍できる土壌が肥えていくのでしょう。本書は、わずかな焦りを与え、現在を確かなまなざしで見つめる力を与えてくれる一冊なのです。

photo by Matt Cornock

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長瀬海(ながせ・かい)

1985年千葉県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修了。ケーブルテレビ系の通信・放送会社勤務を経て、ライター・インタビュアー・書評家へ転身。音楽、文学が専門。現代日本文学、海外文学、エンタメ、SFなどジャンル問わず書評します。

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