見えないところで苦しんでいる人の声を聞く――小川たまか著『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』

「働く」を考えるベストセラー  第23回

2019/11/07
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著者:長瀬海
 

「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。

小川たまか (著)
出版社:タバブックス
出版年月日:2018年7月

昨年、発表された日本のジェンダー・ギャップ指数は149カ国中、110位でした(世界経済フォーラム発表)。ジェンダー・ギャップ指数とは、経済、教育、健康、政治の4つの分野における男女の平等をデータとして可視化して、男女格差を測る国際的な指数です。内閣府男女共同参画局は、この発表に対して、「2017年に比べ、経済分野のスコアが大きく上昇しており、これは労働参加率の男女比や同一労働における賃金の男女格差などが改善したことが要因です」と、なんだか喜んでいる様子。いやいや、この結果をどうすれば肯定的に捉えることができるんでしょうか。ちなみに、経済分野の日本の順位は117位です。日本がいかに男女平等において後進国であるかが露呈しています。こうやって、現実の格差を直視せず、そこで苦しんでいる人の声を聞かないから、いつまでも、男性と女性が互いのことを尊重し合い、ともに働きやすい社会を作り上げることができないんだなあと思います。

見えないところで苦しんでいる人の声を聞く。小川たまか著『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(タバブックス)は、真摯に、そのことに取り組んだ姿が見える一冊。ここで語られていることの多くは性暴力についてです。レイプや痴漢、そういった性犯罪にあってきた人たちの声をいかに見えるようにするか。声を聞くことで、性犯罪が身近で、誰にでも起こりうる(起こしうる)ことを暴くのです。

被害がどうやって生まれ、加害者がなぜ性犯罪を犯すのか。ここにあるのは、支配・被支配の構造であると著者は言います。

自分が人より「上」の立場に立ってしまったときに、「下」にいる人を、支配しようとしたり操作しようとしたりしてしまう気持ちは、おそらく誰にでもある。言うことを簡単に聞かせやすい場所で、自分の支配欲や暴力性に気づいた経験のある人は男女関係なく少なくないと思う。(本書、95ページ)

私たちの国の男女格差の陰にあるのは、この空気だと思います。状況によっては、それこそ、会社のなかでは、どうしても誰かが「上」になり、誰かが「下」にならざるを得ない。組織というのは階層をあえて作ることで成り立つものです。しかし、そこに、支配欲が介在してしまったら。「上」の人が、「下」の人の従属性を利用してしまったら。そのとき、不条理な暴力が生まれてしまいます。ハラスメントの仕組みは、ここにあると言って良いと思います。

そして、ここから生まれる性暴力は、被害者から言葉を奪います。強姦を、暴力性だけで問うことは、その本質を見失ってしまう。セックスが同意のもとであったか否か。例え、恋人同士という関係性のなかでも、同意なきセックスは、相手が嫌がっていることを理解しないでことにおよぶセックスは、強姦なのです。抵抗の度合いだけで性犯罪の有無を見るような社会のなかでは、被害者は声をあげづらくなってしまう。あげることが怖くなってしまう。その結果、事件は世間には見えないものとして処理されていく。だから、「事件化して報道されることになる性暴力事件はごくわずか。被害者があまりにも力を奪われていて、通報できないこと、社会に復帰できないこと、誰にも被害を言えないこと、自分が悪かったと思いつづけることがたくさんある。服従されたという事実は被害者からたやすく言葉を奪う」(本書、130ページ)のです。私たちは、社会が性暴力の被害者に圧力をかけ、声を失わせているか、にどれほど自覚的でしょうか。著者は議論すべきトピックとしてあるアイドルの歌詞を取り上げています。

欅坂46の「月曜日の朝、スカートを切られた」という曲。まさに性暴力の被害をアイドルが歌ったものですが、このなかに、スカートを切られたことに対して、「憂さ晴らしか 私は悲鳴なんか上げない」という歌詞があります。このことに関しての議論はネットで調べていただければわかると思います。賛否があり、この歌詞が同グループの代表曲「サイレントマジョリティ」に繋がるものであって、アイロニカルな歌詞としてあえて書かれているということも肯定派の意見も理解できます。だけれど、そのアイロニーを出すために、「スカートを切られた」という性暴力を安易に出してしまうこと。そこに私たちの社会の性暴力への無自覚さ、いかにそれが「矮小化されて伝えられてきたかとその弊害」があるのだと著者は記します。

規制は求めない。でも、性犯罪被害者の視点がもう少し知られれば、表現は変わらざるを得ないはずだと思っている。だから伝えていきたい。「半分だけわかる」でいい。知ってもらえるだけでいい。話を聞いてもらえるだけで。「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。(本書、146ページ)

最初にジェンダー・ギャップ指数の話をしました。私たちの社会は、とても大きな問題を抱えています。弱者の声を聞けない。支配・被支配の構造を見抜けない。被害者から言葉を奪っている。確かに、賃金や、会社内での女性のポジションの改善なども大事なことだと思います。しかし、それ以前に、やらなければならないことがたくさんあります。本書の後半には、著者が性被害にあった際の様子が綴られています。その凄惨な光景に手が震えました。これが私(男性)の周りで、なかったこととされていることか、と。私たちの社会が消去しようとしているものがなんなのか知る。そこからしか始まらないんじゃないでしょうか。


photo by Robin Mehdee

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