男だって「自分で始めた女たち」からヒントを得て何が悪い! ――グレース・ボニー著『自分で「始めた」女たち』

「働く」を考えるベストセラー  第19回

2019/07/03
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著者:長瀬海
 

自分で「始めた」女たち 「好き」を仕事にするための最良のアドバイス&インスピレーション

グレース・ボニー(著)、月谷真紀 (訳)
出版社:海と月社
出版年月日:2019/5/16

例えば、グラフィックデザイナーでアーティストのヴェロニカ・コーゾ・デュカートは、言います。「すべてをやることはできない。自分にとっていちばん大切なことを選んで、それを追求しなくちゃ。大切なことは人生の時期によって変わることもあるからそのときどきで柔軟に対応することも大事。自分にとって大切で得意なこと、自分だけができることに努力を注ぐべきだよ」(223ページ)と。これは彼女のビジネス上の理念と受け取って良いでしょう。

目の前には誰にだって、多くの、実にたくさんの、選択肢が広がっている。そのなかで、今、自分が大切だと思えるもの、それを掴み取って、「追求」する。選択肢を選ぶだけでなく、その選択肢の矢印を誰よりも深く掘り下げていく。だけれども、同時に、大切なことというのは人生のその時々によって変わるということも覚えていかなければならない。その上で、努力というものは積み重ねていくべきである。そういうことが彼女の理念の軸にあるのでしょう。

グレース・ボニー著『自分で「始めた」女たち 「好き」を仕事にするための最良のアドバイス&インスピレーション』(月谷真紀訳、海と月社)は、こうして、100人以上の独創的で、目の前に立ちはだかる「社会の常識」という壁を撃ち壊す力を持った女性にインタビューし、その溢れる魅力だけでなく、実際に生きていく上で役に立つ言葉を紹介していきます。陶芸家のフランセス・パーマーの次の言葉も実に有益でしょう。

「『段は段であり段である』。ガートルード・スタインの『薔薇は薔薇であり薔薇である』のもじりなの。1段編むたびに、そのぶん完成に近づく。昔はよく編み物をしてたの。私はこの言葉を、何でもやりとげることの比喩に使っている。人はまとまった時間を求めがちだけど、物事は少しずつ段階を踏んでこそ美しく完成する、と思う。陶芸と園芸はとくに」(148ページ)

一言で言えば、焦るな、ということでしょう。完成に向かっていく時に焦ってはいけない。一段、また一段、と登り続けること。段飛ばしなんてもってのほか。このことは何も、陶芸や園芸に限ったことではありません。全ての、あらゆるビジネスに通じる言葉です。大事なのは、そのことを伝えるときに、スタインは「焦るな」と言わないことです。先の気の利いた言葉で持って諭すのです。

本書が特別なのは、二点。自分で生きるための何かを始めた112人を載せていること。もう一つは、それが全て女性であること。そこには、尋常ならざる力強さがあります。同時に、社会的な通念、我々が当たり前だと思っていること、を覆すアイディアが詰まっています。彼女たちが、成功を収めることができた理由はそれぞれですが、通読してみると、そこには上記のような共通点がいくつか見つかるわけです。

最初に紹介したヴェロニカは「ミスから学んで成功につながったことはある?」という質問に対して次のように答えています。

これまでの人生で、成功を他人に頼りすぎたことが二度あった。責任を負うのが怖くて、この人たちなら私のためにやってくれるんじゃないかと思って任せてしまった。恐怖心と自信のなさから自分はできないと思って相手に主導権を渡してしまったんだね。それでうまくいったためしはない。成功も失敗も自分で責任を引き受けなければならないとわかるまで、時間がかかった。成功するためには、自分をもっと信頼しなければならない。そのためには、ときには弱みもさらすべきだと理解したの。恐怖心と自信のなさとは、いまだにときどき格闘している――誰でもそうだよね。でも経験を重ねるたびに少しずつ、思い切りよく飛び込むのは上手になってきたかな。(222ページ)

この彼女の何気ない言葉のなかから、読者はどれだけ多くの彼女が通った苦難の道を思い描くことでしょうか。「自分をもっと信頼しなければならない。そのためには、ときには弱みもさらすべきだと理解したの」と語る彼女の勇気は、全ての何らかのスタートラインに立っている人々を鼓舞することでしょう。

また彼女は、「世の中にもっとあってほしいものは? 減ってほしいものは?」という問いに対して、「成功についてもっとオープンに、正直に、語られるべきだと思う。(中略)家賃を払うためにつまらない仕事に就いていること、作品が突き返されたこと、落ち込んだり不安になったりしたこと、高収入の仕事をして生活を支えているパートナーがいること、今の場所にたどり着く前に挑戦しては失敗してきたこと……そういうことは語られていないから、結局は虚像と自分を比べているわけ。格好つけるのはやめて、別の仕事で食べているアーティストの実態について、もっと正直にいうべきだね」(222ページ)と答えています。

多くのビジネスマンやアーティストは自分の成功を着飾って表現するために、虚像を作り上げてしまいます。でも、成功ってそうじゃないでしょ、と彼女はいうわけです。成功って泥臭いもの。だからこそ、夢を掴むというのは誰にでも開かれているのだということ。成功をもっと正直に語ろうよ。偶然か必然か、この本は、まさにそのような成功を泥臭く語っている女性で輝いています。

現在、女性の言葉の力の強さが以前より大きくなっています。いや、抑圧されていた女性の言葉の力が解放されてきたというべきでしょうか。それはとても良いことだと思います。#me tooの運動にしろ、社会のフェミニズムムーブメントにしろ。この本がどのような文脈で読まれるかはわかりませんが、ビジネス書としても、自己啓発書としても、哲学書としても、最良の一冊。今だからこそ、編まれた本なのかもしれません。ぜひ、手にとって、「自分で始めた女たち」のなかから自分のパートナーを見つけてください。きっと、それが。読者にとって、生きる指針となるでしょう。


photo by Tomasz Baranowski

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