職場でどのように女性が戦うべきか ——ジェシカ・ベネット著『フェミニスト・ファイト・クラブ 「職場の女性差別」サバイバルマニュアル』(岩田佳代子訳、海と月社)

「働く」を考えるベストセラー  第12回

2018/12/05
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著者:長瀬海
 

フェミニスト・ファイト・クラブ 「職場の女性差別」サバイバルマニュアル

ジェシカ・ベネット (著)
岩田佳代子(訳)
出版社:海と月社
出版年月日:2018/8/31

今回の本について、男性である私が、我が物顔して紹介して良いものかどうか、大変逡巡しながら、この文章を書いています。ジェシカ・ベネット著『フェミニスト・ファイト・クラブ』(岩田佳代子訳、海と月社)。その名の通り、フェミニストによる、フェミニストのための、これからのフェミニストのあり方が綴られた本。そして、主にそれは、職場でどのように女性が戦うべきか、をテーマとして書かれた本なわけです。

もちろん、私は、アンチ・フェミニストでもない。どちらかといえばリベラルな方で、女性の権利を社会は認めるべきであると思っているし、男性のマチズモがはびこる社会で女性が戦いやすい雰囲気を男性の側から作っていくべきだと思っています。しかし、です。本書は、フェミニストに好意的な感情・思考を抱いている男性がいるのもわかっているけれども、そのような男性にも無自覚な「女性差別」的振る舞いがあることをわかってほしいといった想いを込めて書かれたものなんです。

本書を前に、緊張を隠すことは大変難しい。しかし、それでも、勇気を持って、今回、紹介したいと思います。

「フェミニスト・ファイト・クラブ」とは実在する女性の集いです。最初は小さな、愚痴を言い合うだけの、女性たちの集まりとして始まりました。有名なテレビ番組のアシスタントとして有能な働きぶりを見せていたのにもかかわらず昇進を見送られていた、ダニエル。広告代理店でプロジェクトマネージャーとして働く、けれども、コーヒーを入れる係を必ず任せられるノラ。生真面目なばかりに男性に自分の意見をはっきりと述べたあまり「あなたは男性に対して強気に出すぎる」と言われてしまったレイチェル。そして、タンブラー社で働いていて、それなりに快適な環境に身を置いていた ——ただひとつ、自分の机にピンポン球がひたすら飛んでくること以外は ——「私」(彼女が主人公)。こうした少人数のこぢんまりとした集まりが、やがて、全米で女性のための権利を主張する大きな団体となりました。この本はその成長を綴ったドキュメンタリーではなく、彼女たちの目から見て、今の社会の男はこれがおかしい、と宣告する、男性にとっては襟を正される思いをさせられる本なのです。

例えば、「敵を知る」と題された章では、「邪魔男」という存在について説明されています。そこで例に挙げられるのが、2009年のビデオ・ミュージック・アワーでのアメリカのミュージシャン、カニエ・ウェストの振る舞いです。彼は、シンガーソングライターのテイラー・スウィフトがスピーチを行っている途中に、急に乱入してきて、彼女の手からマイクを奪い、自分の話をし始めました。本書では、あのシーンは社会にはびこるすべての「邪魔男」の象徴である、と言ってのけます。ある研究では「男性は、専門的な会議の場で女性よりもたくさん発言し、女性よりもひんぱんに人の発言に割って入る。一方、女性が発言をすると、男性の2倍の確率で邪魔をされる。しかも男女双方からだ。(ちなみに、それが有色人種の女性だと、この確率はもっと高くなる)」(本書、44ページ)そうです。
 
その対策として、とにかく、話すのをやめない、横目でにらみつける、「女神の一声」を浴びせる。などが挙げられています。「ボブ、私はまだ発言の途中だから、もう少し時間をちょうだい」と、しかも、それを仲間である女性が言ってあげられたら、スピーカーはどんなに楽になるでしょう。
 
このような形で、本書ではいわゆる、傾向と対策が次々と、(男性である私たちにとっては)心苦しいまでに綴られていくのです。
 
あるいは、「月経毛嫌い男」のこと。アメリカ人女性初の宇宙飛行士、サリー・ライドは一週間のフライト用にタンポンをどれくらい用意すれば良いかという話の最中に、あるエンジニアに「100個でどうだろう」と言われたのです。サリーは答えました。「いいえ、そんなにいりません」。ここでこのエンジニアは、単に生理用品の数を気にしているわけではありません。初の女性宇宙飛行士を前に皮肉を述べています。つまり、これは暗に、月経があるから女性は宇宙飛行士になるべきではない、ということを言っているのです。このシーンもまたひとつの男性のマチズモな振る舞いを象徴しています。
 
ドナルド・トランプはFOXニュースのアンカーであるケリーが女性に対する彼の攻撃(口撃)について質問した際に「君はどこかから血が出ているに違いない」と返答しました。これも生理と女性の怒りを結びつけたひどい例ですね。
 
ここまで極端ではなくても、日頃の、男性の振る舞いのなかに、女性の生理を毛嫌いする、あるいは、何かにつけてすぐに女性の生理を問題視する、そんな思考が隠れているのです。女性がイライラしていると、男性は「どうせ、あの人は生理なんだろう」とか、元気がないと、「どうしたの? 生理なの」と声をかけてくる。すべての男性は覚えておくべきです。男性が怒っているのは「怒っている」からだけれども、女性は「ホルモン」のせいにされる、ということを。
 
ちなみにこのダブルスタンダードに処する方法としては、ある論文いわく、「イライラしている理由を強調」する必要があるとのこと。「私が怒っているのは、○○だから」だと。それは「誰々のこうした発言にたいして、こういう意味で納得いかないから」だと。理路整然と、冷静に、滔々と説明してあげなさい、そう著者は述べます。でなければ、男性は身体的な問題から「女性特有のヒステリー」を起こしているとすぐに思い込んでしまう。そう、警鐘を鳴らします。
 
また、敵は決して男性だけではありません。女性のなかにもフェミニストにとっての「敵」がいるわけです。例えば、「永遠の信奉者」と呼ばれる存在です。先日、MicrosoftのCEOサティア・ナデラ(前回、Microsoftの救世主として出てきた人物です!)が言いました。「問題は、実際に昇給を求めることではないのです。大事なのは適切な昇給がもたらすシステムがあると信じることなのです」と。著者は言います。「信じる???」 とんでもない! 「信じたからといって、勘定を払ってもらえるわけでもなければ、おごってもらえるわけでもない」。けれども、サティアのこの言葉にうっとりとしてしまう「永遠の信奉者」は女性のなかに少なからずいます。この「永遠の信奉者」と本書でカテゴライズされる人たちは、職場で高い役職についている男性の、いかにも救いであるかのような言葉――サティアは「実際に昇給を求めることではないのです」なんて言葉で欺いているのですが、実際は、そんなことはありません――を素直に信じてしまいます。そんな彼女たちに向かって著者は怒りの声をあげます。

はっきりさせておこう。職場には、神の摂理など存在しない。あなたが手にできるのは、あなたが要求するものだけだ。(本書、118ページ)

 
何かに祈って、自分を守ってもらうのではない。自分自身の手で自分を守らなければならない。受動的にではなく、能動的に。要求できることはすべて要求せよ。著者は、強く、そう言うのです。
 
本書を通読して感じるのは、男女平等がうたわれるこの世の中にあって、いかに無自覚な女性蔑視の視線があるかということ。それはフェミニストを名乗る男性のなかにもあります。そのことを気づかされる数々の指摘に、胸を痛めずにはいられません。彼女たちは、戦う。今日も明日も。

  FFC(フェミニスト・ファイト・クラブ)とは女性たちの同盟だ。対象年齢に制限なし。世界中にこれを普及させるべく頑張る、あるいは頑張りたいすべての女性、さらには、そんな女性をサポートする男性と連帯する。
 性差別の現状に終止符を打つのは女性だ。
 自分たちが怒っていることにまだきづいていないのも女性だ。
 ようこそ、我がクラブへ。あなたは終身メンバーだ。(本書、35ページ)


photo by Fernando Coelho

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長瀬海(ながせ・かい)

1985年千葉県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修了。ケーブルテレビ系の通信・放送会社勤務を経て、ライター・インタビュアー・書評家へ転身。音楽、文学が専門。現代日本文学、海外文学、エンタメ、SFなどジャンル問わず書評します。