リーディングカンパニーとして再君臨するMicrosoft ——上阪徹著『マイクロソフト 再始動する最強企業』

「働く」を考えるベストセラー  第11回

2018/11/07
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著者:長瀬海
 

マイクロソフト 再始動する最強企業

上阪 徹 (著)
出版社:ダイヤモンド社
出版年月日:2018/8/9

Microsoftは停滞しているんじゃないか ——。株式市場などに疎い私は、ソフトウェアのリリースなどだけみて、ぼんやりとそんな勘違いを抱いていました。前回の連載で触れたGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に比べて、ニュース性のあるイノベーションに乏しいのではないだろうか。このまま、オールドカンパニーになってしまうのかな、なんて思っていたのです。しかし、それが大きな勘違いであることを、著者の上阪徹氏が綿密な取材を重ねて執筆した『マイクロソフト再始動する最強企業』(ダイヤモンド社、2018年)を読んで気づかされました。Microsoftは終わってない。むしろ、進化し続けていて、これからの社会を引っ張るリーディングカンパニーとして再君臨する可能性があるのだ、と。

Microsoftが変化を見せはじめたのは2015年の秋頃のことだったと著者は言います。創業から40年目にして、株価で最高値をつけたのです。このことは、世界の投資家がMicrosoftに期待をしていることを示しています。その後も、Microsoftの株価はどんどん上昇を続けていきます。一体どうしたのでしょうか。
 
この変化の背景には、CEOにサティア・ナデラ氏が就任したことがあげられます。創業者ビル・ゲイツ、そして2代目CEOスティーブ・バルマー、その後継者として選ばれたのがインド生まれのナデラ氏だったのです。
 
ナデラ氏はMicrosoftの新しい価値を再発見することを目指しました。その結果、まず、アイデンティティを見直すことに着手したのです。以下が、同社の各CEOの掲げたミッションです。

ビル・ゲイツ:A computer on every desktop and in every home.
(すべてのデスクと、すべての家庭に1台のコンピューターを)

スティーブ・バルマー:To help people and businesses throughout the world realize their full potential.
(世界中のすべての人々とビジネスの持つ可能性を最大限に引き出すための支援をすること)

サティア・ナデラ:Empower every person and every organization on the planet to achieve more.
(地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする)

ミッションの変遷は、そのままMicrosoftの成長具合を示します。最初のミッションはとてもわかりやすい。コンピューター革命として、一家に一台PCを普及させる。そして、それによって、世界をひとつのネットワークでつなぐということ。いまや当たり前のことですが、ビル・ゲイツ就任時には「明るい未来」として掲げられたものでした。もちろん、我々が知っている通り、そのミッションは達成されました。
 
しかし、次のミッションは少し抽象的になっています。そのため、どこが到達点なのか、わかりにくい。実際にこのミッションはすっと頭に入ってこなかったとMicrosoftの社員は著者によるインタビューで述べています。

そして、ナデラ氏になって、ミッションは大きく変わりました。「on the planet」というのはとても壮大な計画です。ですが、これこそ、ダイバーシティが叫ばれる現在の労働環境の最終目標でしょう。なにせ、人種、国籍を問わず、「地球上のすべての」人類に貢献できる会社にしようというのですから。

そして、そのミッションのもと、まずナデラ氏が変革したのは会社のカルチャーだったと言います。Microsoftに根付く文化、もっと言えば、哲学を変えようと。そこでキーワードとなったのが「グロース(成長)マインドセット」というタームでした。すべての物事を成長で捉えていこうというわけです。

何か絶対的に正しいものがあるのではなく、常にオープンでいろんなシグナルに対して前向きに取り組んでいく。自分をどんどん変えていく。チャレンジや変化を促進し、積極的に新しい取り組みをやっていこうというメッセージがここには込められているのです。(本書、33ページ)

 

「常にオープンで」いることは、さらなる変革をもたらします。それは競合他社を「敵」ではなく「パートナー」と見做すことです。具体的にいうならば、Appleです。ナデラ氏は就任からすぐにシリコンバレーを訪れ、かつて敵であったAppleを始めとした企業とタッグを組み、彼ら向けに製品を開発し始めたのです。そうすることで、Apple社製品を含むあらゆるデバイスにWindowsがインストールされることとなった。スマートフォン黎明期には時代に乗り遅れたMicrosoftも、ここにきて、「ポスト・スマホ」時代の覇権争いに手を挙げたのです。

また、成長というキーワードのもと、Microsoftは保守的な姿勢をがらっと変え、新たなシステムサービスを開始します。それが、クラウド(Office 365)です。ただのソフトウェアの提供から、クラウドサービスの開発へ。Microsoftは大きく舵を切ったのでした。

もちろん、彼らの「グロースマインドセット」というカルチャー変革で変わったのは製品開発や他社との関係性のあり方だけではありません。働き方じたいも大きく変わりました。

本書の第5章では、実際に著者がアメリカと日本のMicrosoftを訪れて見聞した働き方が記されています。本書を見ればわかりますが、とても風通しの良い職場の写真が掲載されています。著者は「まるで海外のレストラン」のようだったと言います。フリーアドレスとクラウドサービス、さらにはSkype for businessなどのサービスが整ったことで、誰がどこにいても仕事ができる環境になったのだというわけです。これは極論すると、会社に来なくても仕事ができる。実際にテレワークとして、週に数度在宅で仕事をする社員もいて、それは決して珍しくないと言います。この働き方改革は、育児をしなければならない女性などに大きなベネフィットを生み出しました。そして離職率も40パーセント減。育児休業明けの女性の復帰率は100パーセント。ライフワークバランスも大きく改善されたようです。著者は言います。

 

ドラスティックに環境が変化していくなか、働き方が縛られていたのでは、すばやく変化に合わせて動くことができない。社員も生き生きと働けない。変化の激しい時代に対応し、イノベーティブに組織が活動していくには、フレキシブルな働き方が欠かせないと考えたのである。(本書、201ページ)

スピーディーな時代への対応が可能となる。それはオールドカンパニーからの脱却にも繋がります。こうしてMicrosoftは来るべき新時代の覇者へと名乗りをあげました。前回触れた、GAFAへの力強い対抗馬として、いまも成長し続けているのです。
 


photo by Marco Verch

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長瀬海(ながせ・かい)

1985年千葉県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修了。ケーブルテレビ系の通信・放送会社勤務を経て、ライター・インタビュアー・書評家へ転身。音楽、文学が専門。現代日本文学、海外文学、エンタメ、SFなどジャンル問わず書評します。