強いチームは、十分な休暇からつくられる

本当の「働き方改革」の話をしよう その9

2018/07/03
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著者:日野瑛太郎
 

日本人の有給休暇取得日数は、世界的に見ても非常に低いということがしばしば言われます。最近は、働き方改革の一環として社員の有給休暇取得を促す企業のニュースも目にするようになりましたが、決して多くはありません。むしろ人手不足の影響もあって、未だに「よほど特別な事情がないと休めない」「有給休暇のほとんどは使えないまま消滅していく」という環境で働いている人は少なくないと思われます。

世界に目を向ければ、日本人よりも遥かに多く休みを取っている国はいくつもあります。たとえば「バカンス」という言葉を生み出したフランスの有給休暇は年に5週間もあり、ほとんどの国民は3週間以上の長期休暇を取得して家を離れます。また、ドイツでは、法律で最低24日間の年次有給休暇付与が義務付けられており、実際にはほとんどの企業がこれを上回る年30日程度の有給休暇を社員に付与し、ほとんどの社員がこれをきっちりすべて消化して、年に1、2回はやはり数週間の長期休暇(ウアラウプ)に出かけます。

我々日本人の場合は、長期休暇と言ってもせいぜい1週間で、それ以上連続して休もうものなら果たして職場に席が残っているだろうか……と心配になってしまうのではないでしょうか。

日本もフランスやドイツ並みにしっかり休むのがあたりまえという社会になってほしいと僕は強く思うのですが、現状が現状だけに、フランスやドイツに追いつくには残念ながらまだまだ時間がかかるでしょう。こうした積極的な休暇取得が日本で浸透しづらい原因のひとつには休みに対する意識の低さや、休むことへの罪悪感があるように思われます。まだ心のどこかで「休むことは怠惰である」とか「休むのは周りの人に申し訳ない」といった後ろめたい気持ちを抱いている人が多いのではないでしょうか。

実際には、休むことは悪いことではなく、むしろいくつかの面では仕事においても良い効果をもたらします。昭和期のサラリーマンの中には「お盆と正月以外は会社を休まない」ことを誇りとしていた人も多くいたようですが、今ではもうこのような考え方は時代遅れです。生産性が重視される現代では、うまく休むことがますます重要になるでしょう。

今回は、仕事を休むことのメリットについて、個人とチームのふたつの観点から考えます。

良いアウトプットは良い休息から生まれる

まず個人にとって休むことのメリットとして挙げられるのは、適度に休みを取ることで仕事の質が高められるという点です。これは純粋に体力・気力が回復して仕事の効率が増すということだけでなく、休んでいた時間で仕事以外から取り入れた情報が、良い仕事のアイディアへと昇華されることまで含んでいます。

「セレンディピティ」という言葉を聞いたことがないでしょうか。この言葉はイギリスの小説家ホレス・ウォルポールが『セレンディップの三人の王子たち』という童話から生み出した造語で、ざっくり言ってしまえば、ちょっとした偶然をきっかけに予想外のアイディアなどを生み出すことを表しています。自然科学やビジネスの世界には、このセレンディピティによって生み出された大発見や大発明が多数あります。たとえば、アルキメデスは入浴中に風呂から溢れる水を見て浮力の原理を発見したと言われていますし、サランラップの素材はもともと軍用品として開発されましたが、ある日それを技術者の妻がピクニックで野菜を包むのに使ったことがきっかけとなって今の形で商品化されました。

イノベーションの重要性が叫ばれる現代では、このセレンディピティを起こすことが非常に重要になってきます。もちろん、セレンディピティはその性質上、狙って起こすことはできませんが、セレンディピティが起きる確率を少しでも高くすることはできるのではないでしょうか。ひとつの方法は、意図的に偶然が発生しやすい環境に身を置く時間を多くすることです。そのためには、仕事を離れて他のことをする時間を意識して取るとよいでしょう。数日間仕事を休んで旅行に行ったり本を読んだり映画を観たりしたことが、思わぬところで仕事の成果につながるということは十分ありえます。

あるいは、経験したことがある人もいると思いますが、良いアイディアは一生懸命考えている時よりも、一度考えることをやめて他のことをしている時のほうがひらめきやすいものです。このようなひらめきを得るという意味でも、やはりどこかで仕事から離れる時間は必要です。

メンバーが自由に休みを取れるチームはそれだけで強い

そうは言っても、やはり自分の会社では簡単に休みなんて取れない、と思う人もいるかもしれません。では、なぜ休みが取れないのでしょうか。仕事を回すのに十分な人数がいないからでしょうか。あるいは、休むと周囲の目が厳しいから休めないのでしょうか。このように、メンバーが自由に休めないチームの特性は一言で表すことができます。それは「余裕がない」ということです。

余裕がないチームは、実は非常に脆いチームだと言えます。メンバーが休めないほどギリギリの状況で仕事を回しているとしたら、当然ひとつひとつの仕事は雑にならざるをえないので、仕事の質はどんどん低下していきます。「とりあえず目の前の仕事を回すことで精一杯」という状況では、未来への投資も行われません。現状維持ができればいい方で、普通、状況は日に日に悪くなります。今より状況がよくなることは当然ながら見込めません。

僕自身、会社員時代に何度か「余裕のないチーム」でエンジニアとして働いたことがありますが、このような余裕がないチームは最終的にはビジネスとしても失敗に終わることが多かったように思います。とりあえず目の前の課題を解決するためだけの雑なコードを書き、そのために技術的負債が積み上がって、最終的にはその負債に足を引っ張られてプロジェクトは死を迎えました。もうちょっと余裕があったら、別の結末があったのかもしれません。

これに対して、メンバーが自由に休みを取れるチームは、それだけ余裕があるということになります。人員の面でもスケジュールの面でも、ギリギリではなく少し余裕があるから全員気兼ねなく休みが取れるわけです。このような状況を「非効率な状態」と考えて人員削減をしたりスケジュールを縮めたりしたがる経営者がいますが、それは間違っています。本来、チームを柔軟に運営するためには、むしろこのような余裕が必要です。

つまり、メンバーが自由に休みを取れるチームを構築することが、結果的に柔軟で変化に強いチームをつくることにつながります。もし、あなたの会社の有給休暇取得率が低いようであれば、組織改善の余地は多分にあると言えるでしょう。

「休むこと」に対して寛容になる文化をつくろう

本格的に日本人の休暇取得を促すのであれば、組織の余裕を見直すことに加えて「休むこと」に対して寛容になる文化をつくることも必要です。これは組織内の人に対してだけではなく、取引先など組織の外の人に対して、あるいは仕事を離れているプライベートな時間での対人関係でも、全てにあてはまります。

冒頭で挙げたフランスやドイツでは、長期休暇で何週間も連続して仕事を休むことになるわけですが、当然その間、その人の受け持っていた仕事は止まります。フランスでは、店主がバカンスを取るという理由で数週間にわたって店が休業になることも珍しくありません。それでも大クレームが発生せずに社会が回っているのは、相手が休みを取っていることに対して「自分も休暇は取るわけだし、お互い様だ」と思える心を持っているからです。

それに対して日本の職場の多くでは未だに、有給休暇は事前に根回しをして同僚から苦情が出ないように空気を読んで取ることが求められます。このように他人の休暇取得に非寛容な人が多いうちは、日本人の「休み方」が根本的に変わることはないでしょう。他人の休みに不寛容になることが、結局は自分の首をしめているということに早く気づかなければなりません。

いつか日本でも休むことに対して寛容な人が増え、休暇に入る同僚を職場の全員が笑顔で送り出す日が訪れるでしょうか。そのような日が一日でも早くやってくることを、心から祈っています。

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日野 瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)などがある。
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