人生100年時代にシニア世代と協働するために考えなければならないこと | マネたま

人生100年時代にシニア世代と協働するために考えなければならないこと

本当の「働き方改革」の話をしよう その8

2018/06/05
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著者:日野瑛太郎
 

慢性的な人手不足解決の切り札として、シニア世代(65歳以上)の労働力を活用しようとする企業のニュースをたびたび目にします。「人生100年時代」という言葉が注目される現代では、60代半ばを過ぎてもまだまだ元気に仕事ができる人はたくさんいます。このような人たちにもっと活躍してもらいたいと考えるのは自然な発想だと言えるでしょう。

もっとも、シニア世代との協働は必ずしも簡単ではありません。たとえば、新卒入社の社員とシニア世代の社員とでは40歳程度の年齢差があるわけですから、考え方や価値観は当然違います。時にはこの違いが軋轢を生むこともあるでしょう。何かと新しいことに挑戦したがる若手と保守的なシニア世代の間に挟まれて、マネージャーが疲弊していったという話も聞いたことがあります。

さらに、実は一番難しいのが、シニア世代のモチベーション維持の問題です。ニュースなどで取り上げられるシニア世代の活用事例では、基本的に「モチベーションの高いシニア」が中心に取り上げられます。しかし、現実にはそのようなシニアばかりではありません。少し想像してみて欲しいのですが、それまで役職つきで責任のある仕事を任せられていた人が、定年によって強制的にその仕事を取り上げられ、再雇用後に今までよりも低い待遇で単純作業のような仕事を任されることになったとしたら、果たしてモチベーションが維持できるのでしょうか? これは定年という制度そのもののあり方と一緒に考えなければならない問題です。

今後、日本企業の人手不足はますます深刻化していくと思われますが、単純にシニア世代の雇用を増やせばうまくいくわけではありません。今回はシニア世代とうまく協働するためには何が必要なのかについて、現場と制度の両面から考えます。

企業はシニア世代に求める役割を明確にしよう

シニア世代を企業が雇用する際に陥りがちなのが、シニア世代を「単なる労働力」と捉えてしまうことです。とにかく人が足りない、雇えるなら誰でもいい、といった発想でシニア世代の雇用に踏み切る企業は数多くありますが、このような考えでシニア世代を雇用することはシニアの人格やそれまでの職業人生で積み上げてきたものを無視しているという点で、大きな誤りです。

真の意味でシニア世代に「活躍」をしてもらうには、シニアを単なる労働力を押し上げる「数」として考えるのではなく、一人の「人」として尊重することが絶対に必要です。シニアを雇用する際には、その人のそれまでのキャリアを把握した上で新たな職場でどんな役割を期待しているのかを具体的に示さなければなりません。これは普通の中途採用ならあたりまえにやっていることだと思いますが、シニア世代の雇用でも同じです。

実は、会社に深く貢献できる専門知識や経験を持ったシニアは数多くいます。このような能力の高い人たちに、定年を過ぎているからという理由だけで単純作業や小間使いのような仕事をやってもらうのは大きな損失です。「シニア世代」というとどうしても昔の老人(自分が子供の頃に見ていたおじいちゃん、おばあちゃん)を思い浮かべて「大した仕事はやってもらえないだろう」と考えてしまう人がいるかもしれませんが、それは誤った思い込みだということに気づかなければなりません。

シニア世代は自分のやり方に固執してはいけない

もちろん、協働のためにはシニア世代の側でも気をつけることがあります。よく言われることですが、人間は歳を取るほど保守的になっていくものです。年配の方ほど、自分が長く守ってきた仕事のやり方や考え方に固執して、新しいものを拒否する傾向があるのは否めません。

企業を取り巻く状況はつねに変化しています。ましてや、最近はどんどん変化も速くなっています。たとえシニア世代の慎重さが自身の長い経験に裏打ちされたものであったとしても、積極的に仕事のやり方を変えていかなければならない場面は数多くあるはずです。そういう時に柔軟に仕事のやり方を変えていくことは、年齢の離れた人たちとうまく協働していくコツでもあります。

一番やってはいけないのは、「昔はこうだった」という主張をして自分のやり方に固執してしまうことです。これは若者世代にもあてはまることですが、「自分のほうが100%正しい」と主張してしまったらバックグラウンドが違う他人とはうまくやっていけません。まずは相手の主張に耳を傾ける勇気を持って欲しいと思います。

以前、この連載で「ダイバーシティの推進は組織にとっても労働者にとってもメリットしかない」という記事を書きましたが、シニア世代と若者世代の協働も世代というダイバーシティ(多様性)に関する取り組みのひとつと考えることができます。この記事で僕は、多様性のある組織で働くことは楽しいことだ、と書きました。これはもちろん、世代という多様性についてもあてはまります。シニア世代も若者世代も、ぜひ自分と違う考え方をする人たちと一緒に働くことを楽しみながら働いて欲しいと思います。

シニア世代のモチベーションを下げる「定年」

以上は、シニア世代と実際に協働している現場目線での話なのですが、ここからはもう少し視点を引いて、シニア世代の雇用を巡る制度について考えてみましょう。ここで考えたいのは多くの企業が当然のように採用している「定年」という制度です。

厚生労働省の平成29年就労条件総合調査によると、定年を設けている会社は全体の95.5%にものぼります。そのうち定年が60歳の会社は79.3%、定年が65歳の会社は16.4%であり、つまり現状では日本の会社で働く人のほとんどが65歳までに一度は職場を去らなければならないということになります。

定年後も「再雇用」という形で再度シニア世代を雇用する会社もありますが、その場合も条件面では現役時代とは待遇や仕事内容が大きく異なっているのが普通です。多くの場合、待遇は現役時代のものよりも大きく下げられ、しかも雇用が延長されるかどうかわからないという冷遇が待っています。

この記事の冒頭で述べたシニア世代のモチベーション低下の根本原因には、この定年という制度によるキャリアの強制終了があります。実は最近、僕の父親も定年に達して一度退職した後、同じ企業に再雇用されたのですが、待遇は現役時代の半分以下にされてしまい、本人のモチベーション低下はかなりのものだったようです。シニア世代に活躍を期待するのであれば、このような形で本人が望まないキャリアの強制終了が発生しないような仕組みを考えなければならないでしょう。

定年という制度の今後

日本社会ではこれまでこの定年という制度があたりまえのように受け入れられてきましたが、よく考えてみるとこの制度は「年齢差別」と言われてもおかしくない内容です。特に働けなくなる事情が存在するわけでもないのに、ある年齢になったら強制的に解雇してもよいというのは筋が通りません。

もちろん、定年があることで組織の新陳代謝が促されているという実際上の恩恵はあります。特に日本企業で典型的な年功序列でピラミッド型の組織の場合、上がつかえてしまうと下の人間が出世する機会が奪われてしまいます。年齢という絶対的な基準で強制的に人員を入れ替えていくというやり方が、日本型組織では理にかなっていたのはたしかです。

しかし、平均寿命が延びた現代では、60歳から65歳はまだまだ元気に働ける年齢です。今後の少子高齢化なども含めて考えると、少なくとも定年の年齢を引き上げることは不可避のように思われます。そもそも、定年という制度自体を不当な差別として撤廃していくことも考えられるでしょう。

真にシニア世代との協働を目指すのであれば、定年という制度の今後についてもっと活発に議論していかなければなりません。寿命が延びた現代では何歳ぐらいが定年として妥当なのか、あるいはそもそも定年という制度は必要なのか――みなさんもぜひ、考えてみてください。

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日野 瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)などがある。
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