会社は取引先のひとつ? 会社内でも積極的に“交渉”することのメリットとは?

本当の「働き方改革」の話をしよう その14

2018/12/04
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著者:日野瑛太郎
 

ビジネスパーソンにとって重要なスキルのひとつに「交渉」があります。たとえば商談などで少しでも高く売る(あるいは少しでも安く買う)ために価格交渉を行ったり、プロジェクトのスケジュールについて少しでも自社に有利になるように顧客と交渉したりするなど、ビジネスパーソンは様々な場面で上手に交渉を行うことが求められます。

どんなビジネスでも必ず相手がいますが、相手の要求を無条件に飲むだけでは有利にビジネスを展開することはできません。時には強気に出て、重要でない部分では譲歩をしつつ、最終的に相手と自分の双方が納得できる「落とし所」に話をまとめる交渉力があればビジネスは有利に進められます。

ところで、この「交渉」は必ずしも社外の人間が相手になるとは限りません。社内で上司と仕事のアサインについて話し合うのも交渉の一種だと考えられますし、期毎に行われる評価面談は別の見方をすれば給与交渉だとも言えます。本来であれば、こういった「社内での交渉」についても、主張すべきところは主張し譲歩すべきところは譲歩して「落とし所」に話をまとめることが理想ですが、不思議なことに社内での交渉となると相手の言うことをそのまま受け入れてしまう人が多くいます。自分の会社と交渉するなんてとんでもない! という価値観が未だにあるということです。

これは非常にもったいないことではないでしょうか。一切の交渉を放棄するということは、交渉すれば得られたかもしれない利益を失うだけでなく、相手に「こいつは絶対にこちらの要求を断らない」となめられてしまう危険性があります。必要以上に会社を敵視する必要はありませんが、言うべきことはしっかり言える関係を維持することが「働き方改革」の時代に見合った個人と会社の関係だと言えるのではないでしょうか。そこで今回は個人が自分の会社と交渉をする際の心構えや、交渉の具体的なやり方について考えてみたいと思います。

会社と個人はあくまで対等な立場

昭和の時代ならともかく、平成もあと少しで終わろうとしている現代においては、会社と個人の関係は対等と考えるのが適切です。一部の経営者は未だに過去の日本的経営を引きずって「社員は家族、会社は家」といった古い標語を持ち出しますが、こういったやり方はもう今後は維持できなくなることが目に見えています。業績が悪くなれば当然会社は社員をリストラの対象にしますし、社員も会社の先行きが暗いとなれば転職を検討すべきです。つまり、個人にとって現在所属している会社はあくまで「現在、所属している」という以上の特別な意味は持っておらず、そういう意味では「取引先」の一種だと考えておくのがよいでしょう。

会社は取引先なのですから、給与や休暇、仕事内容といった働く条件について交渉をするのは当然です。もし、相手がサービス残業のような法令違反を強要してくるのであれば、証拠を集めて出るところに出るのも「対等な関係」である以上、やはり当然です。

会社の一員として組織の成長にコミットする姿勢は決して悪いことではないですが、時にはそのような関係を離れて、会社と自分の関係を客観的に考える時間を取るとよいでしょう。今の組織を離れて他の組織に行くという選択肢も、つねに心の片隅には置いておくべきです。会社はあくまで取引先でしかないということを忘れてはいけません。

交渉ではつねにアサーティブ・コミュニケーションを心がける

さて、では実際に対等な個人として会社や上司と交渉をする際には、どのようなコミュニケーションを心がければよいのでしょうか? ここで肝に銘じておく必要があるのは「ただ単に自分の主張だけを通そうとする」という姿勢では多くの場合うまくいかないということです。相手の言い分をすべて飲むのが交渉とは言えないのと同様に、こちら側の要求をすべて飲ませるのもやはり交渉とは言えません。

近年、コミュニケーションの現場で注目されているアサーティブネス(Assertiveness)という言葉があります。これは「自他を尊重した自己表現」のことで、このような表現に基づくコミュニケーションをアサーティブ・コミュニケーションと言います。言葉は大げさですが、簡単に言ってしまえば「言うべきことは言うが、相手の言い分もしっかり聞く」というバランスの取れたコミュニケーションだと思っておけば大きくは外していないと言えるでしょう。

交渉の時に求められるのは、このようなアサーティブなコミュニケーションです。自己主張するべきところは主張しつつ、一方で相手の事情にもしっかり配慮し、譲歩してもよいところは譲歩するようにします。

ちなみに、アサーティブでないコミュニケーションスタイルは3つ存在し、それぞれ「攻撃型」(一方的に自己主張してしまう)「受け身型」(一方的に我慢してしまう)「作為型」(態度で相手をコントロールしようとする)と名付けられています。自分がアサーティブでない他のコミュニケーションスタイルに近づいていないか、つねにチェックするとよいでしょう。なお、アサーティブ・コミュニケーションについてもっと詳しく知りたいという人は、認知行動療法の本などを参照してみてください。

対立するのではなく、問題自体に対処するという姿勢で話し合う

たとえば、上司から残業を命じられたが、今日は用事があって受けたくない、というシチュエーションを考えてみます。「今日は用事があるから無理です!」と強気に断るのもひとつのやり方ではありますが(攻撃型コミュニケーション)、残念ながらこれは交渉とは言えません。一方で、会社の命令だから絶対だ、と言って何も言わずに引き受ける(受け身型コミュニケーション)というのも、やはり褒められたものではありません。

こういう場合には、まずお互いに事情を提示した上で、よい解決策がないかを一緒に考えてみるのが良いと言えます。まず、自分がなぜ残業できないのか事情を話した上で、なぜ上司が自分に残業してもらいたいと思っているのかを明らかにします。たとえば、明日の会議に出さなければいけないデータがあり、そのために残業してもらいたいと上司が思っているというのであれば、解決すべきなのは「明日の会議に間に合うようにデータを準備する」ということだとわかります。仮に自分が残業する以外の方法でこの問題が解決できるなら、それでも別によいと言えます。

まだ業務時間が残っているなら他の業務を中断してデータの準備を最優先でやることで残業は回避できるかもしれませんし、場合によっては、事情を話して他の人にやってもらうという方法もありえます。あるいは、そもそも本当にそのデータが会議に必要なのかという点から攻めて、「あったらいいな」程度のものであれば今回は諦めてもらうという方法だってあるでしょう。お互いに譲って「会議に必要な最低限のデータだけ」を準備するために「少しだけ」残業するという落とし所もありえます。

大切なのは、交渉相手と対立するのではなく、問題自体に対処するという姿勢で話し合うことです。多くの場合、問題さえ解決できるならやり方は問わないはずです。それができれば相手との信頼関係にも傷はつきません。

なお、上の話はあくまで残業代が支払われる通常の残業での話です。これがサービス残業であるならそれは法令違反なのですから、そもそも交渉の余地はありません。どんな場合でも、不当な要求には応える必要がないということは忘れないようにしましょう。

個人が上司や会社としっかり交渉をするようになれば、社内のコミュニケーションは健全化します。組織の風通しもよくなり、結果的に働きやすい職場環境が作られることになるでしょう。交渉をするのは決して悪いことではありません。ぜひ社外の人とだけでなく、自分の会社の内部でも積極的に交渉をするようにしてみてください。


Photo by Matt Madd

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日野 瑛太郎

ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)などがある。