「時間に縛られない柔軟な働き方」の実現には、法整備だけでなく組織デザインも大切

本当の「働き方改革」の話をしよう その10

2018/08/01
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著者:日野瑛太郎
 

政府が進める「働き方改革」の一環として、「高度プロフェッショナル制度」についての話題が世間を大きく騒がせています。この制度は年収1075万円以上の一定の業種に従事する労働者を対象に、労働基準法による時間管理の適用を外すことができるというもので、政府与党はこの制度によって「時間に縛られない柔軟な働き方」を実現できると主張しています。ところが、実際に内容を検討してみると、使用者のメリットばかりが目立ち、問題点も多く見つかります。たとえば、やろうと思えば労働者を連日にわたり24時間連続勤務させることも法的にはできてしまうという指摘をする専門家もおり、そうだとすれば今以上に長時間労働・過労死の危険性が高まる由々しき事態が到来します。

既に導入されている裁量労働制が、一部の企業によって「残業代を払わなくてよくなる制度」として運用されているという実態を考えても、高度プロフェッショナル制度が趣旨どおり「時間に縛られない柔軟な働き方」を実現する制度として運用される可能性は非常に低いと僕個人は考えています。そういう意味で、僕は高度プロフェッショナル制度の導入には反対の立場ですが、もっとも、だからと言って「時間給」という働き方が理想的だと思っているわけではありません。

たとえば、僕はあまり早起きが得意ではなく、そのせいで会社員をしていた頃はとても苦労していました。始業時間までに席についていなければならないので、なんとか必死に起きて会社までは行くのですが、午前中はほとんど頭が回らないということも多かったと思います。これならいっそのこと昼ぐらいに出社してから夜まで仕事をしたほうが、生産性という面では良かったに違いありません。こういうことがあるとやはり「時間給」ではなく「成果給」で働きたいという気持ちが出てきます。

そこで今回は、本当の意味で「時間に縛られない柔軟な働き方」を実現するためには、何をしなければいけないかについて考えてみたいと思います。

チームで仕事をする以上、ルールはどうしても必要になる

いったん、細かい法律の話を抜きにして考えてみましょう。仮に社員全員が勤務時間も勤務地も自由で、各々の都合で好きに働いてよいというお触れが出たとします。果たして、その状態で会社は問題なく回るでしょうか?

まず、僕のように朝が弱い社員は、午前中は会社に来なくなるでしょう。逆に、朝型の社員で早朝から出勤し、午後三時ぐらいに退社をするという人も出てくるかもしれません。そもそも出勤自体が無駄であるとして、一切出社せずに全部リモートワークで貫くというワークスタイルを選択する人だってありえます。

これらはすべて企業によっては導入実績がある働き方ですが、果たしてあらゆる企業が無秩序に「自由な働き方」を導入しても支障は出ないのでしょうか。たとえば、チーム内に夜型のワークスタイルと朝型のワークスタイルを貫いている人がいた場合、会議ができる時間はどうしても狭まってしまいます。ここにリモートワークをしている人までが加わると、さらに話は難しくなります。もちろん、こういったチームでもしっかり全員の参加できる時間をすり合わせて、Skypeなどのツールを使えば会議をすることはできますが、それよりも毎朝同じ時間に出社して、立ったまま5分程度で会議を済ませたほうが実は効率が良いということだってあるはずです。結局のところ、各自がどれだけ時間に縛られない柔軟な働き方ができるかは、一緒に働いているチームメンバーがそれをどこまで許容できるかにかかっているのです。

基本的に、チームで仕事をする以上、ルールはどうしても必要になります。そして、チームが巨大になればなるほど、ルールが柔軟である余地はなくなっていきます。たとえば、友人と組んでスマホアプリを作るというような話であれば(つまりこの場合は2人チームということです)働き方のルールはかなり自由度が高いものになるでしょう。お互いの打ち合わせの時間だけ確保して、あとは仕事の締切にさえ間に合うのであればどんな働き方をしていても仕事は回りますし、不満もでないはずです。これに対して、たとえば30人のチームでサービスを作って運営するというようなケースでは、各自が好き勝手自由に働いていては統制が取れなくなります。最低でもコアタイムのようなものはあったほうがいいでしょうし、場合によっては就業時間を定めてそのルールで全員に働いてもらったほうが、生産性が高くなるはずです。

仮に法律がどれだけ柔軟な働き方を許容したとしても、現実にチームメンバーに迷惑をかけて仕事が回らないのであれば、そのような働き方は実現できません。この点については、チーム内でよく話し合ってどのようなワークスタイルなら許容できるか、どこかで明確に線を引くべきです。それをせずになんとなく自由に働くメンバーが出てくると、他のメンバーから不平不満が出てチームの和が乱れることになります。

柔軟な働き方と組織デザインは切っても切り離せない

思うに、政府主導の働き方改革における「脱時間給制度」(裁量労働制の拡大/高度プロフェッショナル制度の導入)は、労働基準法の労働時間規制をどう外すかという法律論だけにしかフォーカスしておらず、それが組織内でどうやって運用されていくのかといった点についてまったく考慮されていません。しかし、実際に柔軟な働き方を社員が実現しつつ、さらに会社としても成果を上げていくためには、柔軟な働き方を受け入れるための組織デザインが必要不可欠です。

実際にどのような組織デザインならメンバーが柔軟な働き方をしやすいかは業種や職種によって個別具体的に異なると思いますが、ひとつの方針としては、上述のように、大きなチームよりも小さなチームのほうが柔軟な働き方の親和性は高いと言えるでしょう。そこで、たとえば今まで少数の大きなチームでやってきたような組織は、それを解体して小さなチームが多数あるような組織にデザインし直すことでより柔軟な働き方が実現できるようになるかもしれません。

また、時間による評価をやめるのであれば、成果による評価をどうやって行うのかという点についてもよく考える必要があります。成果がわかりやすい職種であれば別によいのですが、そうでないのであれば、100%の成果主義には移行しないという判断をする勇気も個人的には必要だと思います。 大切なのは働く人が気持ちよく働いて成果を出すことであって、よくわからない基準を持ち出して働く人を疲弊させることではないはずです。

働く人の希望に沿った制度や法律を

本来であれば、時間に縛られない柔軟な働き方は上から押し付けられるようなものではなく、働く人たちによる下からの意志によって実現されるものでなければいけません。それに近づけるためにも、まずは裁量労働制や高度プロフェッショナル制度などについて、実際に働く現場の人の声をよく聞いてみるべきなのではないでしょうか。そのうえで法整備の必要があれば法律を作るというのが、正しい順序ではないかと思います。

みなさんも、自分ならどういう働き方がしたいか、さらにそれを実現するためにはどのような組織デザインが適切で、もし必要ならどういうルールを作らなければならないか、ぜひ考えてみてください。

photo by Hiroyuki Takeda

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日野 瑛太郎

ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)などがある。