2017/10/11 公開

リモートワークは、実は上級者向けの働き方

本当の「働き方改革」の話をしよう その1

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著者:日野瑛太郎
 

「働き方改革」という言葉が叫ばれるようになって久しいですが、その中でも「リモートワーク」は場所に縛られない働き方という明るいイメージとあいまって、働き方改革の目玉として語られることが少なくありません。たしかに、自宅からリモートで働くことができれば毎日満員の通勤電車に乗ってオフィスに通う必要がなく楽ですし、家族の面倒を見ながら働くなど従来の働き方では実現できなかった働き方も可能にします。リモートワークが様々な可能性を秘めた新しい働き方であることは間違いありません。

もっとも、実際に導入してみると問題点も多く見つかります。僕自身もリモートワークで数ヶ月ばかり働いたことがあるのですが、特にコミュニケーションの取り方で「思っていたより難しいな」と感じることが多々ありました。とりあえず制度として導入すればそれだけでうまく回るというほど、甘い世界では決してありません。37signalsやGitHubは全面的なリモートワークの導入でうまく回っていますが、米Yahoo!や米IBMはリモートワークを縮小しています。実は、リモートワークは上級者向けの働き方なのです。

今回は、そんな上級者向けの働き方であるリモートワークをうまく導入し、会社も社員も両方が幸せになる方法を考えてみたいと思います。

コミュニケーションはチャットとビデオ会議で本当に十分?

いったい、何がそんなにリモートワークを難しいものにしているのでしょうか。日々の働き方を見ている限り、比較的簡単にリモートワークに移行できそうな職種は割とたくさんあります。たとえば、プログラマーならコーディング作業は別にオフィスにいなくてもできそうです。コミュニケーションもSlackなどのチャットツールを使えば情報伝達はできますし、どうしても対面のミーティングが必要ならSkypeその他のビデオ会議ツールを使うという方法もあります。少なくとも、ツールの点ではリモートワークに必要なものは揃っているように思えます。

僕もそう考えて、実際に数ヶ月ほど、ある会社のプロジェクトにリモートワークという形で入ってみました。僕の実感としては、たとえば2日とか3日とか、そのぐらいの短い期間であればリモートワークでもコミュニケーション上の不具合は起きにくいと言えます。ところが、これが1ヶ月とか2ヶ月とか、そのぐらいリモートだけのコミュニケーションで仕事をしていると、「おや?」と思うことが増えてきます。どうもオフィスにいる人たちと自分とでは、プロジェクトについて思い描いているイメージが違うような気がしたり、共有されていない前提があったりと、「気持ち悪いな」と感じることが多くなってきます。この気持ち悪さは不思議なもので、定期的にビデオ会議で声によるコミュニケーションをしていても発生します。

リモートワークでは「文脈」の共有が難しい

なぜこのようなコミュニケーション上の気持ち悪さを感じるのでしょうか。これは純粋に、リモートワークでは伝わらない情報があるからです。自分がオフィスで働いていた時のことを思い出すと、オフィス内のコミュニケーションは別にチャットと会議だけがすべてだったわけではありません。「立ち話」や「ちょっとした相談」で決まることも少なくなかったはずです。それならこのような立ち話やちょっとした相談で決まった結果をしっかりと共有してもらえばいいのではないか、と思うかもしれませんが、これが結構難しいのです。たしかに、立ち話やちょっとした相談の「結果」を共有してもらうことはできますが、それがどのような「文脈」によってそうなったのかを、チャットや限られたビデオ会議の時間だけで説明するのは非常に大変です。

もうひとつ、リモートワークだと伝わりづらいのが「感情」です。対面によるコミュニケーションの場合は、同じ言葉でもイントネーションや間の取り方によって伝わり方には大きく差が出ます。「この仕事をやってください」とお願いした際に「本当なら頼みたくないけどしかたなく」であるとか、「この仕事は特に重要な仕事だから気合いを入れてやってほしい」であるとか、そういう情報を僕たちは言葉以外の手段によって伝達しています。これがチャットだと、字面だけになるのでどうしても意味がズレてしまうのです。

もちろん、チャットでも絵文字や顔文字などを使うことによってある程度感情を乗せることは可能ですし、工夫次第ではこちらのテンションを相手に伝えることもできなくはありません。ただし、それはかなり意識的にやらないと難しいですし、誰にでもできるものではないというのが現実です。

リモートワークの欠点をどう乗り越えるか

このようなリモートワークのコミュニケーション上の欠点は、どのようにすれば克服できるのでしょうか。

ひとつは、あくまでリモートワークは「サブ」として使うという方法です。100%出社不要、完全リモートワークという状態は最初から目指さずに、たとえば週に1日〜3日だけリモートワークにするという形にすれば、コミュニケーションのズレはかなり軽減されます。思うに、リモートワークは上級者向けの難しい働き方ではありますが、だからと言って100%ダメという硬直的な考え方は会社にとっても社員にとっても良くないでしょう。現実的なレベルで何日ぐらいまでなら行けるのか、そういう模索をしてみてもよいのではないでしょうか。

もうひとつは、リモートワークによって失われる情報があることにチームメンバー全員が自覚的になり、それを乗り越えるコミュニケーションをするために全員が努力をすることです。実際、37signalsやGitHubでは全面的リモートワークで会社を回すことができているわけですから、チームメンバー全員のコンセンサスさえ取れているならば、完全リモートワークという働き方にチャレンジしてみるのは意義があることです。ただし、この取り組みをするのであれば、リモートワークは大きなチャレンジであり、リモートワークをする本人だけでなくチームメンバー全員の協力が不可欠であるという認識でいなければなりません。少なくとも、メンバー内でリモートワークに強く反対している人がいるようでは、100%のリモートワーク実現は難しいと言えるでしょう。

これだけ通信インフラが整備されているのだから、「働く場所に縛られないで働く」というのは実現できてよいはずの働き方です。決して簡単なことではありませんが、ぜひみなさんも自分なりの方法でチャレンジしてみてください。

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日野 瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)などがある。
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