「下積みの苦しさを放棄しては、何者にもなれない」・宇多丸(ライムスター)

弟子入り!マネたまくん

2018/01/25
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今回、弟子入りさせていただくのは……

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宇多丸(うたまる)
大学在学中の1989年に「ライムスター」を結成し、日本語ラップの黎明期からシーンを牽引。トークスキルにも定評があり、2007年4月にスタートした『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(TBSラジオ)では、ラジオパーソナリティとしてもブレイク。ラジオでも発揮される批評視点や企画力により、テレビや雑誌、WEBメディアでも活躍する。

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宇多丸さん(以下 宇多丸) ライムスター結成当時、僕にもMummy-Dにも、自信がありました。「日本語ラップは絶対、日本人にフィットするし、俺たちなら他の誰より適切な方法で、それが伝えられる」って。でも、評価がついてこない。「俺たちのやり方を正解だと思ってくれる人間は、どこにいるんだ」と、Mummy-Dと二人、話し合ったことを覚えています。

当時は日本語ラップの黎明期で、ヒップホップという音楽はまだ文化として根付いていなかったように感じました。プレイヤーの中にさえ、僕たちの考えを理解する人間がいなかった。つまり当時の僕たちは、理解の土壌が育っていない場所で、理解を求めていたんです。

理解を得るには何をすべきか。その答えが理解される土壌を耕すことであり、僕なりの培養方法が「批評」でした。当時の日本にはロック的な文脈か、昔ながらのブラックミュージック的な文脈からしか、ヒップホップを語れる人間がいなかった。ヒップホップの批評軸すら曖昧では、土壌が育つわけがない。「だったら音楽活動と並行して、僕が批評活動をしよう」と。

理解も評価も得られない状況は、辛く苦しいですよね。どんなに強い人でも倒れそうになります。けれど下積みの苦しさに負けて走ることを放棄しては、何者にもなれません。だからこそ、闇雲に走ることから視点を変えて、理解され、評価されるための土壌を耕すことが大切。

この行為は、社会で言うところの根回しに近いのかな。ライムスターは結成から28年になり、ここまで長く続けてこられた理由の一つは、走り続ける勇気をもらえる程度には、評価を得ることができたからだと思います。そして評価の根っこには、僕ら自身が耕した土壌があるはずです。

自分を俯瞰する「メタ視点」の必要

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――早稲田大学の「ソウルミュージック研究会ギャラクシー」で出会ったMummy-Dさんとライムスターを結成。どうしてMummy-Dさんだったのでしょう?
 
宇多丸 サークル内にも大学内にも、もっと言えば東京という規模で見ても、僕やMummy-Dと同じくらいヒップホップ好きの人間はいなかった。彼と組まない理由がありません。そしてライムスター結成から数年後、驚くほどヒップホップに詳しい若者が入ってきた。それがDJ JINです。そもそも当時は人を選べる次元じゃないくらい、ヒップホップ好きの総人口が少なかった。そんな環境の中で彼らと出会えたことは、今考えてもとてもラッキーなことでしたね。

――運命的なものを感じますね。
 
宇多丸 ラッキーとは言え、運を呼び込むのも自分次第です。「自分はなぜ、これがやりたいのか」という自分なりの「行動基準」を正しく持っていないと、一緒に組むべき人材とは出会えません。

――果たすべき目的を明確にし、その目的を理解・評価してくれる人間を呼び込むという点で「理解を得るための土壌作り」に通じますね。
 
宇多丸 理解に値するだけの行動基準が自分にあるのか、きちんと分析することが必要ですよね。がむしゃらな姿勢は確かにかっこいい。だけど「メタ視点」からそんな自分を俯瞰してみると、違ったアプローチが見えてくる。かつての僕らで言えば、土壌の未熟さのようなものに気付けるかもしれない。

「自分はこう思う」を批評視点で伝えるラップは自分に向いていた

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――そこで「批評」という結論に辿り着くのが、宇多丸さんならではですよね。今回、生放送の現場にお邪魔させていた『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(※編集部注:2017年12月9日深夜放送分)の人気コンテンツは、映画批評です。
 
宇多丸 小3のときに観た『スター・ウォーズ』に魅了されて以来、やっていることは何も変わりませんよ。映画を観て感動すると、エネルギーが湧くじゃないですか。僕の場合、そのエネルギーの発散が「この感動を誰かに上手に伝えたい!」的な方へ向かうんですよね。ラップも一緒です。抽象的な事象を詩的につづるのではなく、特定の事象に向けて「自分はこう思う」と批評の視点から訴えかけるラップは、とても僕に向いていました。

要するにラップも映画批評も、どんな風に表現するのかという“モードの違い”こそあれ、物事を解釈してアウトプットするという意味では、まったく一緒です。こうした僕のスタンスを分かってくれる人は「当たり前」として理解してくれるけど、そうじゃない人もいますからね。未だに「ラッパーのくせに批評家気取りかよ」と、ディスられることもしばしば。そういう奴らに向けては、ライムスターの曲で言うところの『スタイル・ウォーズ』ですよ。僕の武器である言葉は「オツムの足りない向きにゃ不向き」って(笑)。

――なるほど(笑)。宇多丸さんはどうして宇多丸さんなのか、その秘密が垣間見えるようなお話ですね。
 
宇多丸 もちろん僕も「映像作家になりたい」と夢見た時期がありましたよ。本当に一瞬だけね。高校2年生のときの学祭用に、8mmフィルムでミュージックビデオ風のショートムービーを作ってみました。ただ、それの撮影から編集からすべて自分でやりきった後に、映像制作の緻密さは自分には向いてないかも、と早めに悟ってしまいました(笑)。映像は、コストの差が出来に歴然と反映されやすいし、大勢の人間に関わってもらわないとならない。だから、長編映画を作れるような人は基本的にみんな尊敬してますよ。彼らの精神的スタミナには感服します。

下積みの苦しさが「君にしかできない仕事」を生む

――意外です。宇多丸さんには「緻密な人」というイメージがありますから。

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宇多丸 いやいや、めちゃくちゃ面倒くさがりですよ。だからラジオに関しても、絶対に生放送が好き。「面倒なことはいいからさ、ポンポンポーンとリズムよく行こうよ!」という人間だから、事前収録となると途端にしゃべれなくなる(笑)。正直、レコーディングも面倒だし、ライブ演出を考えるのも面倒。演出会議なんて「面倒くさ〜、誰かやってくれよ〜」とボヤくところから始まります(笑)。

――そんな、意外すぎます(笑)。
 
宇多丸 でも、会社の会議だって一緒でしょう? 真っ白なホワイトボードに向き合うときの絶望感たるや、筆舌に尽くしがたい(笑)! そんな状況から抜け出すためには、何でもいいから書き出してみることですよね。「何がしたい?」から始まって、「さすがにそれはない。だったらこんな感じ?」みたいな。

そうすると会議を起点に、いろいろな物事が走り始めます。そして走り始めたら、ある程度の成果が出るまでは立ち止まらないこと。休むことも、もちろん大事ですよ。けれど簡単に休んでしまうと、また重い腰を上げるところから始めなくちゃいけません。だから、ちょっとのことでは立ち止まらない。

――それは「働くこと」そのものにも通じますね。

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宇多丸 自分の仕事が評価されなければ、誰だって苦しい。立ち止まりたくなります。けれど20代30代に限って言えば、評価されなくて当然なんです。若い時代は下積みの時代なんだから。それでも下積みの苦しさを放棄しては、何者にもなれない。下積みなしに得られる仕事は、誰とでも交換可能な仕事とイコールだと思うんですよ。「そうじゃない、君にしかできない仕事を目指すからこそ、今、辛いんじゃないの?」って。もちろんブラック企業やパワハラの問題もあるから、いったい何が耐えるべき下積みなのか、きちんと見分けることは大切ですが。

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