嬉野雅道 俺たちが成功するには『水曜どうでしょう』しかなかった【後編】

失敗ヒーロー!

2020/01/16
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華々しい成功の裏には、失敗や挫折がある。その失敗エピソードから成功の秘訣をヒモ解く『失敗ヒーロー!』。前編に引き続き、人気テレビ番組『水曜どうでしょう』のカメラ担当ディレクターを務める“うれしー”こと、嬉野雅道さんが登場。『水曜どうでしょう』は放送開始から23年を迎え、昨年12月には新シリーズの放送がスタートしたばかりですが、この長きにわたる人気の秘訣はどこにあるのか。成功の理由をヒモ解くと、反骨精神に満ちながらも優しさにあふれた、嬉野さんこその“組織で個人を貫く術”が明らかに!

適材適所が機能しなければ、チームの意味がない

――前編では、奥様に流されるように札幌にたどり着き、『水曜どうでしょう』の立ち上げに至るというお話がありましたが、番組制作はチームプレイ。『どうでしょう』チームが成功を収められた理由は、何だったのでしょう?

嬉野雅道(うれしの・まさみち)
1959年7月7日生まれ、佐賀県出身。北海道テレビ放送(HTB)所属のテレビディレクター。東京でフリーの映像ディレクターとして活動し、1996年に北海道へ移住。藤村忠寿ディレクターと共にテレビ番組『水曜どうでしょう』を立ち上げる。現在も同番組のカメラ担当ディレクターを務める。近年は社内で始めたカフェに端を発するコーヒーショップ「嬉野珈琲店」を主宰し、執筆にも従事。近著にエッセイ集『ぬかよろこび』、藤村ディレクターとの共著『仕事論』がある。

嬉野雅道(以下、嬉野):『水曜どうでしょう』にしても、賞をもらった『チャンネルはそのまま!』にしても、このチームが成功できたのは、チーム内の個々人が、自分にできることを理解していたからじゃないかな。要するに、チームの一人ひとりが自分には何ができるのかを明確にし、自分にできることだけを徹底して遂行することが成功の理由だよ。

――自分にできることだけ、ですか?

嬉野:そう、自分にできることだけ。だって、誰にでも得手不得手があるでしょう? 飲み会の幹事一つを取ってみても、俺は店探しが苦手だ。それでも「簡単なことだろう? 仕事の片手間に探しておけ」と言われる。その簡単な仕事が重荷になって、自分のすべき仕事ができなくなることって、往々にしてあるじゃないですか。俺はそうしたことから一切解放されて、個々人が自分のできることだけを遂行することが、チーム全体を機能させると信じているんだよ。

世の中はオールマイティな人間を作ろうとして、みんながオールマイティに振る舞おうとするけどさ、俺は不思議に思うよ。人類には何十万年もの歴史があって、人はそれぞれ孤独でありながらも、コミュニティを築いて生きてきた。この途方もない歴史が物語っているでしょう? 自分とは異なる人と共に生きるのは、集団であることに利得があるからだよ。人は本来、その利得を遺伝子レベルで知っているはずなのに、どうして抗おうとするのか。

――おっしゃる通りですね。ハッとさせられました。

嬉野:命じられた仕事に対して「できません!」と言うのは、確かにツラい。自分の不能を認めることだから、一朝一夕に言えるものではないと思う。でも、「できません!」と言うことができれば、自分にできないことをできる人間が現れる。「そうか、できないのか! 俺にはできるからやってやろう!」。これが集団の利得であり、適材適所というやつですよ。

適材適所って、みんなが知っている言葉だし、適材適所が重要であることも知っている。それなのになぜ、オールマイティに振る舞おうとするのか。俺は正直、根っこにあるのは保身だと思っているよ。できないことを認め、それを周囲に伝えると、チーム内での評価が下がると恐れている。でも、それでは意味がないよね。チームを組むことの目的は、利得のためだよ。その利得こそ、成功だ。成功のためにチームを組んでいる以上、自分には何ができ、何ができないのか、冷徹なまでに自己審判を下さなきゃいけない。

『水曜どうでしょう』は、面白さを追求する一心で結束していた

――『水曜どうでしょう』チームの適材適所は、番組を見ていても感じられますね。

嬉野:これはもう、出会いの偶然に感謝するしかないよ。でも、最初から4人の足並みがそろっていたわけじゃない。大泉洋にしても、鈴井貴之にしても、藤村忠寿にしても、それぞれにやりたいことは、微妙に違っていたと思う。それでも当時の4人は『水曜どうでしょう』以外に成功する可能性はないと、切実に感じていたんだよ。

だから「面白くしたい!」「面白くなるのなら!」という一心で結束していた。不満やわだかまりがあったとしても、自分で処理して抱え込んで、カメラの前では出さなかったと思う。その内圧の高まりを暴発させず、むしろ番組内の旅で弾けさせたのは、4人の冷静さだよ。常に自分のことを考えながら、同時に全体を俯瞰する冷静さが、適材適所の理由じゃないかな。

――そうして始めた『水曜どうでしょう』は、放送開始から23年。地方局の枠を超えた人気番組ゆえの苦労、組織と戦うこともあったのではないでしょうか?

嬉野:何かしら挙げるなら、編集スケジュールの問題かな。昔は奇数月にだけ放送される2週間の相撲番組が、『水曜どうでしょう』の休止期間になっていたんだよ。ところが番組の人気が高まったことで、いよいよ「休みなしで放送してくれ」と、会社からお達しが来た。

でもね、休みがないことには編集しながら次の企画を考えて、旅の準備まですることになる。そんな片手間な番組作りには現実味がないし、結果的に番組の質が下がることは、現場の俺らが一番理解している。だから、「できません!」。当然のこととして反発したし、これは現場の責務だよ。番組の質が落ちれば、会社の利益に直結するでしょう? 反発することは現場の責任であり、重要な仕事だと思うよ。

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