嬉野雅道 流されるままにたどり着いた、『水曜どうでしょう』という岸辺【前編】

失敗ヒーロー!

2020/01/15
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華々しい成功の裏には、失敗や挫折がある。その失敗エピソードから成功の秘訣をヒモ解く『失敗ヒーロー!』。今回は昨年12月に新シリーズの放送がスタートした人気テレビ番組『水曜どうでしょう』のカメラ担当ディレクターを務める“うれしー”こと、嬉野雅道さんが登場。現在はテレビ番組の制作のみならず、文筆家やYouTuberとしても活躍する嬉野さんですが、過去には7年半にも及ぶ引きこもりを経験。いかにして引きこもりを脱し、『水曜どうでしょう』にたどり着いたのか。その歩みをヒモ解くと、けっして受動的ではない、“流される”ことの極意が明らかに!

自分ゴトなのに、自分ではコントロールできない

――嬉野さんは過去に、7年半にも及ぶ引きこもりを経験されているそうですね。そのきっかけは、頭髪の悩みだったとか。

嬉野雅道(うれしの・まさみち)
1959年7月7日生まれ、佐賀県出身。北海道テレビ放送(HTB)所属のテレビディレクター。東京でフリーの映像ディレクターとして活動し、1996年に北海道へ移住。藤村忠寿ディレクターと共にテレビ番組『水曜どうでしょう』を立ち上げる。現在も同番組のカメラ担当ディレクターを務める。近年は社内で始めたカフェに端を発するコーヒーショップ「嬉野珈琲店」を主宰し、執筆にも従事。近著にエッセイ集『ぬかよろこび』、藤村ディレクターとの共著『仕事論』がある。

嬉野雅道(以下、嬉野):そう、頭がハゲるという話ね(笑)。高校3年生の時に、床屋の店主から「この頭はハゲる」と言われて。しかも「俺は専門家だから、間違いない」なんて言い出すわけですよ。俺も素朴な人間だから、信じてしまう。すると人に頭を見られるのが嫌になり、床屋に行かなくなる。床屋に行かないから自分で髪を切る。自分で切るから不格好になる。こうなると、人に会うのが嫌になるでしょう? どつぼにハマっていったわけですよ。

でもね、7年半も延々と、ハゲることを考えていたわけじゃない。途中から頭がハゲることなんて、どうでも良くなっていたと思う。それでも外に出られないんだよ。「明るく生きればいいじゃない」と思っても、どうにも胸が苦しい。苦しさから脱却しようとする意思はあるのに、身動きが取れない。自分ゴトであるはずなのに、自分ではコントロールできない状況ですよ。

――自分ゴトなのに、自分ではコントロールできない。苦しいですね。

嬉野:そう、苦しい。この苦しさから脱却して、どうすれば明るい気持ちに戻れるのか、ずーっと考えていたわけです。どこかに道標はないかと、映画を見たり、本を読んだりして。こうした作業を延々と続けていたら、ふとした瞬間だよね。天井からぶら下がっている電球を見ていると、心が明るくなることに気づいた。その理由を考えてみると、答えは眩しさだった。電球は眩しい。眩しいから目を細める。目を細めるという表情は、微笑みに似ている。これはきっと、フィードバック効果ですよ。眩しさによって微笑みの表情になり、その微笑みが心を明るくする。

苦しむ自分を俯瞰すれば、苦しさから解放される

――その気づきが、嬉野さんを外の世界に導いたわけですか?

嬉野:いや、そのこと一つじゃないね。本当に延々と、出口を探し続けていたわけだから。例えば、自然科学の本もそう。俺が20代そこそこだった1980年代初頭って、自然科学系の本が流行っていたんだよ。何か答えが隠れていないかと、俺も読んでみた。ライアル・ワトソンという学者の『生命潮流―来たるべきものの予感』という本で、そこに書かれていた人体の巧妙さに引き込まれた。人の免疫機能一つを取ってみても、ものすごく精巧に仕組まれていて、その精巧なシステムを誰が構築したかといえば、宇宙規模の話なんだと。

もうさ、スケールが違うよね。そこで俺は気づいた。まるで昆虫観察をするかのように自分を眺めれば、心がラクになる。生命潮流という大きな流れからすれば、この平和な日本で、特に金にも困っていない若者がうんうんとうめきながら苦しんでいるなんて、おかしな話じゃないか。苦しむ自分さえも俯瞰の視点で見てみれば、その苦しさから解放される。心が健やかになることに気づいたんだよ。

――言い換えれば、自分の悩みがちっぽけに思えたということですか?

嬉野:そりゃ、宇宙規模で見たら、俺の頭がハゲるなんて小さな悩みだよ(笑)。そんなことを延々と考えているうちに、苦しむことに飽きてしまった。結果、7年半の月日が経っていたわけです。その間には大学も中退してさ、飽きた以上は外に出て、働くほかないでしょう? これ以上、親に迷惑もかけられない。

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