名作を生み出した文豪たちも悩んでいた! 話題の書籍『〆切本』の編集者に聞いた、「〆切」をマネジメントする方法

変わり種マネジメント その8

2018/06/20
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〆切を守るための9ヶ条とは

――かくいうこの『〆切本』にも〆切があるわけですが、制作は予定通り進みましたか?

いえ、スケジュールはのびにのびました(笑)。『〆切本2』の時はその過ちを繰り返さないように、担当編集者ともども頑張ったのですが、2017年3月に出す予定だったのに原稿がなかなか集まらなかったので7月下旬に延期しました。そこでいったんは完成の目処がついたのですが、「もっとこんなものがあったほうがいい」と改良を重ねるうちに結局9月に延期となり、そこからさらにのびて、最終的に10月になりました(笑)。

――それは……かなりのびてますね(笑)。

最初の『〆切本』は、構成をどうするかも含めて手探りでつくったので時間がかかったのですが、『〆切本2』は前作に負けたくないと、さらにクオリティーにこだわったために遅れてしまいました。これは完全に言い訳ですね。

――『〆切本』については、スケジュールが延びてしまったとのことですが、普段は予定通りに仕事をするために、小柳さんはどのような工夫をされていますか?

実は『〆切本』を2冊出したことで、刊行遅延の反省から社内向けに「〆切の守り方9ヶ条」をつくりました。読み上げますね。

1. 根拠のない「なんとかなるさ」を持たないこと
2. 細切れ仕事はすぐにやること
3. まず30分仕事をして、全体にかかる時間をイメージすること
4. 〆切の3日前を、〆切だと思って進めること
5. やらないといけないことを「時間割」にする
6. 企画、目次、タイトル、帯などは常に潜在的に考える(ぎりぎりになってから考え始めてもいいものはできない)
7. 企画案、目次案、タイトル案、帯案などを提出する場合、完璧にして決められた時間をのばすより、8割方で決められた時間に出す(方向性が違っていればやり直しになるので、完璧を目指すのは時間の無駄)
8. 手放すことで相手(著者など)が進めてくれるものは、手元に持ち続けない
9. 〆切の遅れは、相手の貴重な時間を奪っていると自覚する

こんな感じで全9項目を箇条書きにして、社内に共有しているんです。転んでもただでは起きない精神です。

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〆切を守ってもらうには、「劇場型催促」が効果的!

――9ヶ条をもとに、〆切を守っていらっしゃると。では逆に、編集者として作家に〆切を守ってもらうために、どのような工夫をされているのでしょうか?

基本として、「月末までにお願いします」といったような曖昧な言い方はなるべくしないで、具体的な日時を告げるようにしています。メールをする時も、なるべくCCに関係者を入れて催促するようにしていますね。

――人目に晒すことで、少しプレッシャーをかけるわけですね(笑)。

はい、名付けて「劇場型催促」です。1対1のやりとりだと、〆切に遅れたとしても作家は担当編集者を1人裏切るだけで済みますが、CCをつけるとその人数分の期待を裏切ることになります。「こんなにたくさんの人が、あなたの原稿を待ちわびていますよ」ということを暗に伝えるんですね。

――編集者は、複数の作家を担当することもありますよね。そういう場合は、どのように〆切を管理されていますか?

作家によって、〆切の設定や催促の仕方を変えています。〆切を守ってくださる方にしつこく催促をすると怒らせてしまいますし、かといって〆切になってから書き始める作家も多いので、放っておくわけにもいきません。

なので、〆切の管理は「100人いたら100通りのやり方がある」と思っています。連絡手段一つとっても、電話は面倒だという作家もいれば、電話してくれたほうがいいという作家もいますから。

――本当の〆切ギリギリになっても原稿が来ない、という時はどうしていますか?

昔は執筆者の自宅に行っていました。それで不在だったら、ポストに手紙を残すんです。メールでの連絡でもいいのですが、プレッシャーをかけるという意味では、手紙をポストに残すほうが効果的なんですよ。

今はというと、電話で催促をしていますね。作家曰く、〆切が本当に差し迫っているのかどうかは、電話口の編集者の声色でわかるそうです。だからこちらも切羽詰まった声でお願いすることで、〆切を守ってもらうようにしています。これも戦いです。受話器を持ってお辞儀をしながら、時間がないことを伝えています。

――やはり原稿の催促には、精神的な圧力をかけるのが有効なんですね。

そうですね。原稿を受け取るまでは、やはり編集者が優位なんですよ。だから、「本当に間に合いませんか?」と編集者が聞けば、「はい、本当に申し訳ないですが……」と作家も謝るんです。

けれどいざ原稿が来て編集者が校正作業をしていると、「原稿の感想がまだ来てないぞ!」と作家から怒りの電話がかかってくることも……。作家が原稿を納品した瞬間から、急に立場が逆転するのがこの業界です。

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▲オフィスで原稿チェックをする小柳さん。良質な本を世に送り出すために、編集者も日夜〆切と戦っている

〆切を上手くマネジメントする秘訣とは?

――『〆切本』の中では、〆切より早く納品することが必ずしもいいとは言えないのではないか、と書いている作家もいました。小柳さんは〆切を守る作家と遅れる作家について、どう思われますか?

確かに、原稿を待った分だけ受け取った時に嬉しい、ということはありますね。編集者の間で、どれだけ原稿を待ったかが自慢話になることもあるくらいですから。編集者がもっともよく使うフレーズが「お待ちした甲斐がありました」です。

とはいえ本当にベストなのは、「〆切通りで、なおかつ原稿も素晴らしい」という状態です。その次でいうと、〆切を守ろうとして原稿の質が下がってしまうよりは、〆切に遅れても原稿が素晴らしいほうが嬉しいですね。そうでないと、商品として成立しませんから。

出版の世界はなぜか〆切を破っても生きていける特殊な業界ですが、普通はそうもいかないと思います(笑)。

――最後に、今まさに〆切に追われている人に、一つアドバイスをいただけますか?

作家に限らず、世の中の働く人のほとんどが〆切を抱えていると思います。きっと電車に乗っている50人の内、40人くらいは〆切に追われている。それを想像すると、「自分だけじゃないんだ」と気持ちが軽くなるのではないでしょうか。そんなことを想像する人はあまりいないでしょうけど。

それから、〆切の捉え方を変えてみるのもいいかもしれません。現代は物事がスピーディーにどんどん進んでいく時代ですが、「〆切まではテーマについて、いくらでも考えていいんだ」と解釈すれば、また違った時間の使い方ができるのではないかと思いますよ。

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