名作を生み出した文豪たちも悩んでいた! 話題の書籍『〆切本』の編集者に聞いた、「〆切」をマネジメントする方法

変わり種マネジメント その8

2018/06/20
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どんな仕事にもつきまとう「〆切」。その形式は様々だとしても、社会人なら誰しも〆切に苦しんだことが一度はあるはず。〆切に追われると精神的にも追い詰められて、急がないといけないとわかっているのに、なぜかつい現実逃避をしてしまうこともあるのではないでしょうか。

実は、世に名作を残してきた偉大な作家や漫画家たちも、〆切との戦いの中でおおいに悩んだり苦しんだり、現実逃避をしたりしていたよう。
そんな〆切にまつわるエピソードをまとめたのが、株式会社左右社から出版された、『〆切本』と『〆切本2』です。

そこで今回は、仕事をするうえで避けては通れない〆切のマネジメントについて、本書を企画された左右社の代表・小柳学さんにお話を伺いました。

どうして人は〆切を守らないのか? 素朴な疑問から生まれた『〆切本』

――なぜ〆切をテーマとした書籍、『〆切本』を出版しようと思われたのでしょうか?

そもそも、〆切を守る執筆者は10人中1人くらいのもので、私も編集者として朝まで原稿を待つことなどはごく普通に何度もありました。そこで「どうして人はこんなにも〆切を守らないのだろう」と思った時に、夏目漱石や谷崎潤一郎といった文豪たちはどうだったのかが気になって、図書館に行ってみたんです。すると、作家自身が〆切について書いている文章を見つけました。「これは他にもありそうだな」と調べ始め、それらを集めて本にすることにしたんです。

――本書を拝見して、文豪から漫画家までそうそうたる面々が、こんなにも〆切について書いていることに驚きました。

私も、最初はこんなにあるとは思いませんでした。その分人手がいるので、スタッフ数人で約1年かけて資料を集めましたね。

――原稿を集めるにあたり、何か具体的な基準はあったのでしょうか?

「〆切」という言葉が入っている原稿に限定しました。「書けない」という言葉だと、原稿の数があまりに多く、意味合いも広くなってしまうので。

――〆切のエピソードを拝見すると、名作を生み出している作家や漫画家もみんな、あの手この手で〆切から逃れようとしているのがわかって、とても意外でした。思わず笑ってしまうような、おかしなエピソードもたくさんありますよね。中でも印象的な〆切を守れる作家と守れない作家は、誰ですか?

三島由紀夫はしっかりと〆切を守る、珍しい作家だったのではないかと思います。彼のいろんな原稿に目を通したところ、学生時代に卒論か何かの〆切に遅れそうになった、というエピソードは見つけたのですが、作家になってから「〆切に遅れそうだ」と書いてある原稿は見つけられませんでした。

逆に〆切を守れないのは、谷崎潤一郎ですね。「遅筆の病」があると自らエッセイに書いているくらいで、曰く「二十分とは根気が続かない」そうです。机の前に座って10分経ったらタバコが吸いたくなって、また10分したらお茶が飲みたくなって、さらに10分したら散歩に行きたくなり、それで1日が過ぎると言うんです(笑)。

――「まるで自分みたい!」と思う読者が少なくなさそうですね(笑)。

そうですよね。他にも〆切から逃れるために、愛知県の宿に逃亡して雲隠れをしていた野坂昭如もいます。担当編集者は、野坂を追って東京から夜中タクシーをとばして急襲したという、まるで逃亡犯と刑事のようなエピソードもあります(笑)。

〆切を守らないとはいえ、谷崎潤一郎は全集が出せるくらいの原稿量を書いています。他の文豪も、みんな「書けない」と言いながら、なんだかんだでしっかりと多くの作品を残しているんです。それもすごいですよね。

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〆切のおかげで、名作が生まれた!?

――『〆切本』には様々な時代で活躍した作家・漫画家の原稿が収められています。〆切に対する価値観は、時代によって変わってきていると感じますか?

価値観というか、伝達手段が変わったなと思います。パソコンや携帯電話がない時代は、手紙を送るか本人に会わないと、連絡がとれないですから。例えば、〆切をのばしにのばしたあげく、「ちょうど一年だけ後れる訳になりますが」と都合のいい言い訳をしている島崎藤村の手紙が残っています。それから武者小路実篤(むしゃのこうじさねあつ)のように、「頭よ早くよくなってくれ」と書けずに苦悶している様子を日記に残している作家もいますね。

――郵送の期間を見越して、前もって手紙で「〆切に間に合いません」と連絡できるなら、スケジュール的にはけっこう余裕があるんじゃないか、と思ってしまいますが(笑)。

そうなんですよね。「手紙を書いて郵送する時間があるなら、書けるのでは?」 と私も思います(笑)。
『〆切本』の制作を通して、改めて手紙や日記の面白さに気付けました。日本では手紙や日記もれっきとした文学なんです。

それから昔は、作家と編集者は直接会うのが当たり前の時代だったので、高見順や梶井基次郎のように作家が電車に乗って、わざわざ地方から東京の出版社に、〆切の遅れを直接謝りに行っていたんです。その移動時間があれば書けるのではと思う一方、人間関係の濃さみたいなものが今とは違うなぁと感じました。

――〆切のエピソードを集める中で、見えてきたことはありましたか?

〆切があるからこそ新しいものが生まれる、と感じました。
作家側が、自分が書き上げた原稿が本当にいいものなのかどうか迷うことはありますし、同じように原稿を受け取った編集者も迷うことがあります。でも〆切があるから、「もしかしたらたいした原稿ではないかもしれないけど、ひとまず世の中に出してみよう!」と思い切れるわけです。

もし〆切がなければ、そうした勇気や決断は生まれないかもしれません。逆に言えば、もし〆切がなかったら、いつまでもクオリティーを求め続けてしまうがゆえに、世に出ない名作がたくさんあったかもしれない、ということなんです。

――数々の名作が生まれる後押しとなったのが、〆切という商業的な要素だった、というのは面白い構図ですね。

そうですね。編集者は「原稿を必ず回収しないといけない」というプレッシャーがあり、一方で作家は「こんな原稿じゃ編集者には送れない」と考える。その両者の葛藤と戦いもまた、〆切が生み出しています。

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