2017/06/07 公開

未払い残業代ってどうやって請求するの? 実際に請求した人に聞いてみた

「働く」を考える。

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最近、長時間の時間外労働を強いられたうえ、残業代を支払わない会社に対し、未払い残業代請求の裁判を起こす人が増えています。彼らはなぜ裁判を起こすにまで至ったのでしょうか。そもそも、対企業の裁判に個人が勝つことは容易なのでしょうか。

今回、実際に未払い残業代請求の裁判を起こしたAさん(27歳)に、お話を伺うことができました。彼は新卒で入社したWeb制作会社で月90時間超のサービス残業を経験し、同社社長に対し未払い残業代を請求。最終的に簡易裁判で勝訴し、現在は同じ業界で採用・マネジメント職に就かれています。

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今回快く取材に応じていただいたAさん(27歳)

毎日終電まで働いても払われなかった残業代

――まずは当時の仕事内容と勤務状況を教えてください
 
Aさん 大学卒業後、正社員として入社したWeb制作会社でコーディングをしていました。従業員10名程度の小さな会社でしたが、明らかに仕事量がキャパオーバー状態でした。とくに僕含め3名しかいないコーディングチームにしわ寄せが来ていて、就業時間は10時から19時だったのですが、入社初日ですでに24時までタスクがびっしり入れられていて。それ以降、毎日終電まで仕事して、月の残業時間は90~100時間でした。

残業代については、採用面接の際に「月の残業時間が40時間を超えた分は支払う」と社長みずから言っていたのに、実際は一銭も支払われていなくて。結果、3ヶ月半くらいで辞めてしまいました。

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――その会社を辞めたのは、そうしたブラックな労働環境が理由ですか?
 
Aさん 社長のワンマン経営で、職場のピリピリした空気に耐えられなかったとか、いろいろ思うところはあったのですが……。決定的だったのは、一度、ものすごく効率よく仕事を進めて、20時にその日のタスクをすべて終わらせたことがあったんです。でも、営業の人に「手が空いてるんなら、この案件もやってくれよ」と予定外の仕事を振られて……。これはダメだ、辞めようと思いました。ちょうどポートフォリオもある程度できていたので、同業他社に転職するつもりで退職届を提出して、とくに引き止められることもなく受理されました。

残業代を催促するも無視され、訴える意向を伝えた結果……

――未払い残業代を請求したのは退職後なんですね。どんなアクションを起こしたんですか?
 
Aさん まず社長に直接メールを送りました。「条件通り、40時間を超えた分だけでいいので、残業代をください」と。僕としては、面接時に社長が払うと言ったんだから当然もらえるものだと、正当な主張だと思っていたんですね。でも、「いま出張中だから一週間待ってくれ」と返信が来たきり、一週間後に催促のメールをしても無視されることが、何ヶ月も繰り返されたんです。

何通もメールを送ったけどそんな対応でごまかされて、これじゃラチがあかないと思い、未払い残業代専門の社労士さんをネットで探して相談しました。それで社労士さんのアドバイスに沿って、「期日までに振り込んでください。何も対応がないようだったら簡易裁判所に訴えます」という主旨のメールを送りました。

――それで相手はどんな反応をしてきたんですか?
 
Aさん 会社側は弁護士を立てていて、「考え直せ」みたいなメールがきたんです。社内で使っていたタスク管理ツールの記録を証拠として提示されて、「これを見る限りでは残業はせいぜい数時間でしょ、認めません。裁判はやめろ」という感じで。しかも、そこが結構大きな弁護士事務所で、弁護士6名くらいの連名で書面が送られてきて。結構ビビりましたね。

実際、その会社はタイムカードがなくて、出退勤の記録が何も残っていなかったんですよ。でも、結局はそうした相手の対応に納得がいかなかったので、訴訟に至りました。

母が残してくれた証拠が切り札に

――裁判所ではどんなやりとりがあったんですか?

Aさん 小さな部屋に自分と会社側の弁護士、裁判官の3名で座って普通に話し合いました。さきほどのタスク管理ツールの記録も、そこでまた提示されましたね。でも、その記録はあくまで業務にかかる見込みの時間であって、実際は記録以外のコミュニケーションや修正など、見えない仕事がたくさんあったんだということを主張したら、裁判官は「確かにね」と納得しました。

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――Aさん側からは何か残業の証拠は提示したんですか?

Aさん 実は、母が僕の帰宅時間をほぼ毎日メモに残してくれていたんですよ。僕があまりにも毎晩遅い時間に帰宅するので、「何かあったときに、こういうメモでも有効に働くから」と。ただ、最初に提示して対策を立てられたくなかったので、最後のカードとして残しておいて、裁判のときに裁判所に提出しました。

――決定的なものではないにせよ、証拠としては使えると。
 
Aさん はい。そうしたら裁判官がかなり優しい感じの人で、「会社さんの主張も分かるけど、これもう和解にしません?」って感じで話を進めてくれて。「彼は30万とかって請求してるけど、25万くらいでどう?」みたいな。そうしたら、会社側の弁護士はそもそも戦う気がなかったのか、「じゃ、それで」と。あまりにも話が早くて、肩透かしをくらいましたね。

――法律はそもそも労働者のためにあるもので、会社側は訴えられたら100%勝てない。だから、いかに早く和解して、いかに支払い額を少なく抑えるかに戦法をシフトすると聞いたことがありますね。

Aさん そうなんですね。僕だって、最初に個人的にメールを送った時点では40時間を超えた分だけ、もっと少ない金額で請求していたわけで。なるべく穏便に、早く和解しようと思っていたんですよ。でも、相手の対応がいい加減だったことにムカついて、社労士さんに相談した結果「これもう全額請求しちゃいましょ」って話になって。社労士さんも「絶対に負けることはないと思います」と言っていて、勝てる見込みがあったので、裁判に踏み切ったのが正直なところです。

――恨みレベルとともに、請求額が上がっていくという(笑)。その後はスムーズに進んだんですか?
 
Aさん そうですね。「1ヶ月以内に残業代を振り込みなさい。期日を過ぎるとまた金額が上がるよ」という内容の文書が裁判所で作成されまして、和解後はすぐに入金されました。相手側からは「この件は口外しない」ということが条件でした。それくらいは飲もうかなと。最終的に、最初にメールを送ってから、裁判を起こして、入金されるまででトータル10ヶ月くらいかかりましたね。

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ブラック企業ならすぐに訴えを起こすべき?

――裁判を起こしたことで、再就職の影響など、デメリットはなかったですか?

Aさん 社労士さんや、裁判に向けてのやりとりと並行して転職活動をしていたのですが、そういう情報は特別開示する義務もないので、再就職にはとくに影響はなかったですね。結果、同業他社に転職しましたが、前の会社とは一切つながりはありません。業界的にも、あまり影響力のない小さな会社だったので……。

強いていうなら、かなり疲弊はしました。普通の平社員が社長と喧嘩するのは、やっぱり疲れますよ。時間も労力もかかりますし、それ対して支払われた20数万円が果たして相応だったかと聞かれると答えられないです。
でも、その当時はそのお金がないと本当に生活が苦しかったですし、やればちゃんと勝てるんだということが分かったので、結果として訴えて良かったと思っています。

――Web業界のみならず、ベンチャー企業はおしなべてブラックな環境になりがちですが、そこで我慢して働いている人たちは、もっと訴えたほうがいいと思いますか?
 
Aさん うーん。そこは、会社次第、社長次第かなと思います。社長がすごくいい人で、残業も意味のある残業で、その会社にいたことが自分にとってもプラスになるなら絶対に訴えないほうがいいと思いますし。そうじゃなくて社長がヒドイ人で、その会社が従業員のサービス残業で成り立っているような会社だったら、裁判という手段は選択肢に入れてもいいんじゃないでしょうか。

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――なるほど。ここまで、残業があるという前提でお話を進めていましたが、そもそも残業に対してはAさん自身はどう考えていますか?

Aさん それはもちろん残業はないほうがいいと思いますが、将来どうなりたいかとか、その人のポジションとか、人によりますね……。仕事よりプライベートを優先させたいなら、その価値観は人それぞれなので。

残業をしなくても高い利益が出せるなら、どんな人間でも働く時間は短いほうがいいですよね。もし、それを理想に掲げていて、でも現時点の自分がそれを叶えるだけのスキルがないと思ったら、自分の成長のために「いい残業」をして頑張ったほうがいいのかもしれません。

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――「いい残業」といいますと?

Aさん 僕は、残業にも「質のいい残業」と「質の悪い残業」があると思っているんです。「いい残業」というのは、自分のスキルアップとか成長につながるもの。きちんと成果が出せて、それが周りからもきちんと評価されて、その先に任せられる仕事の領域が広がるといったものですね。

反対に「悪い残業」は、明らかに仕事量がオーバーしている、ただただ作業をこなすだけで生産性のない残業のことです。僕が訴えたときも、とにかくサイトを量産していて、僕よりレベルの高い先輩が終電まで残業しても終わらないんだから、それはやっぱり仕事量が異常だったんだと思います。

まとめ

一言に「残業」といっても、仕事の内容や労働環境によって、その捉え方は変わるもの。いま毎日の残業の多さに悩んでいる人は、まずはそれが「量的な忙しさ」によるものなのか「質的な忙しさ」によるものなのかを、一度立ち止まって考えてみては。

そのうえで未払い残業代を請求する場合、社長や会社との関係が絶たれたり、請求金額と労力が見合わないなどリスクが伴うことも考えられます。正当な要求であっても戦う価値がある裁判なのかを、専門家に相談しながら判断しましょう。

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