劔 樹人 家庭と仕事を両立させることは、もう欲張りなことじゃない【後編】

失敗ヒーロー!

2020/04/15
Pocket

「お互いのことを知って褒め合う」夫婦円満の秘訣

――すると、夫婦喧嘩もないのでは?

劔:振り返ってみると、そうかもしれません。お互いにイラッとすることがあっても、妻は一晩置けば、そのイライラが治まることを知っているし、一方の僕は物事を荒立てるのが嫌いなんです。だから、とにかくその場を立ち去ります。何だろうな。夫婦がお互いのことを知るのはもちろん、自分の性質をきちんと理解していれば、炎上は防げる気がするんです。

「自分のことを大事にできない人は、人のことも大事にできない」という言葉がありますけど、本当にそうだと思います。これは夫婦という間柄に限らず、自分の性質を理解していないと、キャパシティをオーバーしてしまう。僕は性格的に「自分が痛い目を見れば、それでいいや」と、何事も抱え込みがちなんですね。でも、抱え込んだ結果、結局は人に迷惑をかけるんです。それを知っていればこそ、対処の仕方が見えてくるというか。

――自分を知ればこそ、対処法が見えてくる。ビジネスにおけるマネジメントにも、応用できそうなお話ですね。

劔:マネジメントは、妻の得意分野なんですよ。彼女は“石橋を叩いて渡らない”というくらい慎重な人。何でも情緒を大事にしたいと思う僕とは正反対です。慎重なだけに、何事も論理的。専門書を何冊も読んでは、納得がいくまで調べるんです。お互いを褒め合うことの大切さについても、彼女のなかには理論的な裏付けがあるんですね。そんな妻に影響されて、僕も人を褒めることが身につきつつあります。慣れないうちは、恥ずかしさもありましたが(笑)。

でも、褒め合うことが当たり前になってくると、妙に納得するんです。褒められたら単純に嬉しいし、日本には愚妻なんて言葉がありますけど、「自分の奥さんを貶めて、何の得があるだろう?」って、そう思いますよね。自分の大切な家族なんだから、貶めたって意味がないというか。ただ、これは僕たち夫婦云々じゃなく、日本社会全体の変化だとも思うんです。愚妻という言葉は化石同然だし、そういう風潮は古いじゃないですか。

大事なことを大事にできる風潮が生まれつつある

――愚妻という言葉、確かに化石ですね。そこで聞かせてください。劔さんは、これからの未来をどのように歩み、どのような家庭を築かれていくのでしょう?

劔:繰り返しになりますが、家族がいて、音楽を続けられている今が、僕にとっては幸せなんです。娘を寝かしつけた後、眠い目をこすりながらベースの練習をするのは楽じゃありません。でも、好きでやっていることだから、無理している感じはないんです。とは言え、未来のことはわかりませんよね。万が一ですよ、映画化される『あの頃。 男子かしまし物語』がヒットして、僕の仕事が忙しくなったとしたら、今の生活を変える必要があるかもしれない。現状では、その予兆は微塵もありませんが(笑)。

ただ、そうなったとしても、自分にとって今、何が大切なのかを考えるだけだと思うんです。現時点の自分にとっては、それが家族と音楽。今、家族と音楽の両方を大事にできている僕は、ただただ幸せだし、無理しているわけじゃありません。やっぱり日本社会全体が、変わってきているんじゃないかな。何かを犠牲にするような無理はせず、大事なことを大事にできるような風潮が生まれてきているはずです。

――大事なことを大事にできる風潮。劔さんが感じている変化を教えてください。

劔:ミュージシャンの世界には「この人の代わりはいない!」といった空気が濃くありますよね。それが変わってきているんです。例えば、「くるり」のトランペッターであるファンファンさん。彼女は2015年から2年くらい、産休と育休を取っていたんです。こうしたブランクがあっても、今はちゃんと復帰しています。世間になぞらえれば、働き方改革ですよね。長く続けているバンドほど、一時的にメンバーが参加できないタイミングが出てくるだろうけど、受け入れて柔軟に対応する。それをファンも受け入れる感覚がもっと浸透していけば、無理がなくなってきます。

家族が大事で、音楽が大事。何か一つじゃなく、両方を大事にすることは、何もおかしなことじゃない。無理なく両立させる幸せは、けっして欲ばりなことじゃないというか。自分には何が大事なのかを見極めればこそ、バランスの取り方が見えてくると思うし、今の社会は、バランスの取りやすい方向に進んでいるはず。そうして「きっぱりやめるのじゃなく、細くでも長く続けてゆく」という歩み方ができれば、多くの人が幸せになれると思うんです。

マネたまご マネたまをフォローすれば最新記事をお届けします!
運営会社 | Copyright © kaonavi, inc. All Rights Reserved.