松岡修造を褒め足りない | マネたま

松岡修造を褒め足りない

現代偉人論 その1

2016/12/01
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「陽口(ひなたぐち)」という言葉をご存知だろうか。「陰口」の反対で、その場にいない人を褒める行為だ。たとえば、上司が部下のことを本人がいない状態で褒めた場合、それは「陽口」になる。実際そんな現場に出くわした方のTwitterの投稿で、私は「陽口」という言葉の存在を知った。素晴らしいと思う。

このコラムでも、どんどん誰かを褒めていく。現代偉人論ということで、偉人の褒め足りない側面に光をあてたい。今回の偉人は松岡修造である。誰もが褒める松岡修造について、それでもまだ褒め足りない部分に光をあて、思う存分、褒めていきたい。しかしながら松岡修造はここにいない。ここにいるのは私とあなただけだ。それではさっそく、陽口を始めよう。

2016年、松岡修造は「理想の上司ランキング」で一位を獲得している。ランキングを制作した明治安田生命は、「熱血」で「指導力」がある松岡の「頼もしい」イメージが一位獲得の理由であると分析している。つまり支持を集めたのは、情熱的で暑苦しいスポーツキャスターとしてではなく、テニス教室の生徒たちを叱咤激励する鬼コーチ・松岡修造の姿だったのだ。

松岡修造はタダモノじゃない、と私が感じたのも、バラエティ番組の企画で彼が少年たちにテニスを教える場面だった。松岡修造がすごいのは簡単にカメラのことを忘れるところだ。

テニス教室の最後の練習は、松岡が左右に放るボールを追いかけて打ち返す、というシンプルな練習だった。コートの端から端を何度も往復させられた生徒はスタミナが切れて足が止まり、ボールを追うのを諦めてしまう。諦めるな! 諦めずに走りきれ! 修造は声を荒げる。生徒はすでに泣いている。そこから松岡はカメラを忘れて、少年だけを見て、諦めないことの大切さを説く。ボールに届かなくてもいいから、諦めずに、最後まで走りきってみろ。松岡の叱咤激励は続き、泣いたまま少年は自分の限界を突破する。理想の上司1位へと結びついた「熱血」「指導力」「頼もしい」というイメージは、このようなテニス指導が印象に残った結果だろう。

2010年代は松岡修造の時代だったな。そう遠くない未来に、たとえば2020年の東京オリンピックが終わって一息ついたころに、我々はそんなことを思うのではないか。
2010年代のちょうど真ん中にあたる2015年は松岡修造にとって記念すべき一年だった。ひめくりカレンダー「まいにち、修造!」が大ヒットして流行語大賞のトップ10に入り、その年に各分野で活躍した男性を讃える「GQ Men of the Year」 を五郎丸歩や又吉直樹らとともに受賞している。

さて、「GQ Men of the Year」 は各分野で活躍した男性を表彰するわけだが、松岡と同時にラグビー選手の五郎丸歩も受賞している。五郎丸歩は現役のスポーツ選手だ。そうすると松岡修造はどの分野で活躍したことになるのだろう。公式サイトで確認すると五郎丸選手は「スポーツマン賞」で、松岡修造は「スポーツ・アイコン賞」を受賞している。「アイコン」とは、この場合は「象徴する存在」という意味で、スポーツ界の象徴としての受賞となる。
ここで再び問いかけたいが、松岡修造はスポーツ界だけを象徴しているのだろうか? すでに「テレビ」そのものを象徴しているのではないのか? 事実、お茶の間の私たちはずっと松岡修造を求め続けてきた。
気がつけば我々は松岡修造の「くいしん坊!万才」を16年も見ているのだ。まさか16年前には、こんなにもヒリヒリする「SMAP×SMAP」を見る日が来るとは思っていなかったし、その直前に流れる松岡修造に、余計に心を癒されるとも、誰も思っていなかっただろう。

「くいしん坊!万才」だけではない。2008年、2014年と松岡修造はCM出演本数で日本一になっている。2008年には木村拓哉と、2014年には櫻井翔と一位タイということで、テレビ・アイコンとしてのすさまじい求心力を感じていただけるのではないだろうか。

ようやくここで本題である。コンスタントにCMに出続けているせいで、松岡修造の演技力が異様に向上していることに私は興奮しているのだ。私は松岡修造の演技力を褒め讃えたい!

Twitterで「松岡修造 演技力」と検索すると、同じ気持ちになった方が少なからずいらっしゃって、みなさん特に「ファブリーズ」での彼の芝居に感嘆しておられる。私もまったくもって「ファブリーズ」のCMが素晴らしいと思っている口で、今すぐこのページを離れ、公式サイトで確認してほしいほどだ。「暖房の悲劇」や「妹の指摘」という作品に顕著なのだが、今、何かの匂いをかぐ男を演じさせたらば、松岡修造の右に出る物はいないのではないか。

このまま松岡修造の演技力が向上していったら、どうなっちゃうんだろう。そんなことを想像するとワクワクしてくる。願わくば、ピエール瀧やリリー・フランキーのような「異業種俳優」になってほしい。

ピエール瀧はもともとミュージシャンとして世に登場し、リリー・フランキーの肩書きも最初はイラストレーターやコラムニストだった。そんな二人がいつの間にか日本映画界に欠かせない俳優になっているのだ。というよりもむしろ、2010年以降、いわゆる「テン年代」と呼ばれるこの数年は、完全にピエール・リリーに日本映画は乗っ取られている。映画だけではない。この二人、大河ドラマにも出演しており、ピエール瀧にいたっては朝ドラの常連俳優と化している。

当たり前の話になるが、もともと俳優ではないピエール瀧とリリー・フランキーが芝居をするようになったのは、出演依頼があったからだ。彼らの心を動かすオファーがあったからこそ、俳優としてのキャリアが始まった。つまり、もし、松岡修造に俳優業にも手を染めてほしいのなら、彼の心を動かす出演依頼をする必要がある。

そんなわけで、松岡修造に演じてもらいたい登場人物を考えてみた。

松岡修造には、ぜひとも探偵役をやってほしい。表向きはテニス教室のコーチで、気のいい松岡は生徒たちの悩みを聞くうちに、探偵の仕事もするようになる。すると、彼の特殊な能力が目覚める。それは「励ます力」だ。探偵を始めたものの、事件や依頼は全然解決できない。しかし「励ます力」が異様に高いため、事件が未解決で終わっても依頼主の心がスッキリするのだ。

ボールを最後まで追いかけるように、あなたが諦めずに事件を解決しようと思った気持ちが大事なんです。猫は見つからなかったけど、大丈夫。がんばろう。彼氏さんは浮気してるけど、大丈夫。がんばろう。事件が解決して、その真相に心を乱されるよりも、未解決なまま、大丈夫な気持ちで生きていくほうが良いのかもしれない。そう思って依頼主は事務所をあとにする。そんな探偵を松岡修造に演じてもらいたいと強く思う。

ということで今回は、「陽口」として、松岡修造の褒め足りない部分、彼の演技力を褒めてきた。ところで、「陽口」を調べてみると、そんな言葉は辞書に載っておらず、インターネットの造語ということがわかった。その場にいない人を褒める、というのは素晴らしい行為だから、今後とも使っていきたい。使い続けて広めていけば、いつか辞書に載るかもしれない。
辞書で「ひなた」と引いてみると、「日向に氷」という表現が出てくる。日向に置かれ溶けていく氷のように、だんだんと消えていく様子を指す表現だ。知らない言葉に出会うのは気持ちがいい。この現代偉人論という連載も、消えることがないように、次回も誰かをとことん褒めたい。

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髙畑鍬名(たかはた・くわな)
映画監督。監督作『FUCK ME TO THE MOON』がDMMにて配信中。タイトルが気になった方は、ぜひチェックしてみてください。→http://www.dmm.com/digital/cinema/-/detail/=/cid=5492moosic00002/
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