チーム内のコミュニケーションを「感情労働」にしないために必要なこと

チームで仕事をするために必要なこと 第5回

2019/06/04
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著者:日野瑛太郎
 

「感情労働」という言葉がたびたび話題になることがあります。感情労働については以前、「感情労働」の疲弊から働く人を守るために必要なことという記事でも紹介しましたが、改めて感情労働という言葉の定義を示すと「感情の抑制や鈍麻、緊張、忍耐などを不可欠の職務要素とする労働」というものになります。要は、怒りや失望といった自分の素の感情を抑え込んで、無理して作り笑顔を見せたりしなければならない仕事のことだと思っていただければよいでしょう。

一般的に、感情労働にあたる職業としては、接客業の店員や教師、介護職、看護師といった人と接することを職務の中心とする職業が挙げられます。感情労働という言葉を最初に提唱したA・R・ホックシールドの本でも、やはり人と密に接することが多い職業である客室乗務員について、様々な聞き取り調査の結果が紹介されています。

もっとも、接客業のような人と密に接する仕事をしていない人でも、「自分は感情労働をしている」と感じている人はいると思います。たとえば、上司とのコミュニケーションの際に、自分の素の感情を抑え込んで話をしているという人は少なくないはずです。あるいは、同僚とコミュニケーションをする際に、不満や要望を言いたい気持ちをぐっとこらえて愛想笑いを浮かべてしまうという人もいることでしょう。広い意味で捉えるなら、こういった仕事も感情労働に含めてよいのではないでしょうか。

そこで今回は、このような職場の中における感情労働、特にチームの中における感情労働について考えてみたいと思います。

感情労働が発生するチームの問題点

チーム内のコミュニケーションが感情労働になってしまうというのは、当然ですが、チームにとってよい状態ではありません。顧客と接する場合など、社外の人とコミュニケーションを図るのであれば、多かれ少なかれ感情労働的なやりとりが必要になる場面はあります。あえて本音を隠したり、少し誇張した表現を使ったりすることは、誠実かどうかはともかく現代ではビジネス戦術として多くの現場で行われていることです。

しかし、チーム内のコミュニケーションであれば、感情労働的なコミュニケーションを行う必然性はありません。チーム内のコミュニケーションが感情労働になってしまっているというのは、チームがコミュニケーション上の問題を抱えていることを意味します。

では、チーム内のコミュニケーションが感情労働化すると具体的に何が問題なのでしょうか。ここでは2つ挙げたいと思います。

ひとつ目の問題は、メンバーの心理的負担を高めてしまうことです。素の感情が表現できない、思ったことや感じたことをそのまま言えないという状態が過大なストレスにつながることは、誰でも容易に想像できるはずです。前述のように、現代のビジネスシーンでは、顧客と接する際にどうしても感情の抑制をしなければならないことがあります。その上でさらにチームのメンバーに対しても感情の抑制をしなければならないとしたら、仕事中はつねに心が休まらず、ある日突然、燃え尽き症候群などになってしまってもおかしくありません。

もうひとつの問題は、意見の多様性が確保されなくなることから、チームのパフォーマンスが低下してしまうことです。メンバーが自分の感情を抑圧して本音を言わないようになると、チーム内でやりとりされる意見の幅は狭くなってしまいます。強い影響力を持った特定のメンバー(多くの場合、上司やリーダー)が気に入りそうな意見だけがやりとりされるようになってしまい、チームで仕事をする強みが失われます。

後者の問題は、顧客に対する感情労働とは違ってチーム内の感情労働で起きる固有の問題だと言えるでしょう。また、これは近年注目されている「心理的安全性」という概念とも深く関係する問題です。これは重要な概念なので、もう少し詳しく考えてみることにします。

チーム内で感情労働が発生するのは、チームの心理的安全性が低いから

「心理的安全性」とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、もう少しわかりやすく言い換えると、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味する概念です。要は「チーム内で自分の思ったことや感じたことをそのまま言っても大丈夫だと思えるか」を示す概念だと思ってもらえればいいと思います。

心理的安全性という概念は学術的には数十年前から知られていたものですが、Googleが自社の労働改革プロジェクト(プロジェクトアリストテレス)の調査結果として「心理的安全性が高いチームほどパフォーマンスが高くなる」という事実を発表してから一気に注目が集まるようになりました。

チーム内で感情労働が広く行われているということは、裏を返せば、そのチームの心理的安全性が低いということを意味しています。チームの心理的安全性が高ければ、個々のメンバーは上司や同僚とコミュニケーションを取るために、感情を強く抑圧しなくてもよくなるはずだからです。そういう意味では、チームにおける感情労働の割合は、チームの心理的安全性を測るためのバロメーターだと考えることもできるかもしれません。

チームの心理的安全性が低いという状態が、チームメンバーの居心地に影響するだけでなく、さらにはパフォーマンスも大きく損なってしまうということは今や常識になりつつあります。このような状態にあるチームに改善が必要なのは言うまでもありません。

チームの心理的安全性はリーダーの行動に強い影響を受ける

では、チームの心理的安全性を高めて、チーム内の感情労働をなくすためには何をしなければならないのでしょうか。

残念ながら「これさえやればチームの心理的安全性は高まる」といったようなお手軽な解決策はまだ見つかっていません。チームが心理的に安全な場所になるためには、どうしても日々の積み重ねが必要になります。また、たとえ現時点ではチームの心理的安全性が確保出来ていたとしても、それを維持する努力が行われない限り心理的安全性は容易に低くなってしまいます。

以上を前提とした上で、チームの心理的安全性を確保するためにはリーダーの振る舞いが重要だと言われています。もちろん、チームの雰囲気を作るのはリーダーだけではないのですが、リーダーがチームの雰囲気づくりのかなりの部分を担っていることは間違いありません。

チームの心理的安全性を高めるために、リーダーはまず「失敗を許容する空気」をチーム内に作る必要があります。そのためには、チームメンバーが失敗をしてもそれを頭ごなしに注意したりするのではなく、むしろ失敗からみんなで学ぼうという姿勢を見せなければなりません。また、自らも率先して難しいことに挑戦し、時には失敗する姿を見せるとよいでしょう。「完全無欠なリーダー」は、チームの心理的安全性を高めるという意味ではあまりよくはありません。それよりも「自分も時々失敗をやらかすリーダー」のほうがずっとよいと言えます。

また、リーダーが「自分の知っていることには限界がある」という態度を示すことも重要です。リーダーが「自分の知識はこれだけしかないので、詳しい人はぜひ教えてください」という姿勢でいると、チームメンバーは発言がしやすくなります。リーダーが「自分の知識には限界がある」という態度を示すことで、他の人も知識の限界を認めるようになり、チームメンバー間で知識のシェアが加速されます。これもまた心理的安全性を高めることにつながります。

チーム内の心理的安全性を高めていけば、自然とチーム内で感情労働を強いられることはなくなっていくはずです。そうなれば、個々のメンバーは精神的にもずっと働きやすくなりますし、チームとしてのパフォーマンスも高まります。そういう状態に達するまでには時間がかかるかもしれませんが、あきらめずに根気よく挑戦してみてください。


photo by reynermedia

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