「教わる」気持ちも大切に。新人教育がチームに与える効果とは?
チームで仕事をするために必要なこと 第3回

4月になり、新年度が始まりました。4月から新入社員を迎えたという会社も多いことと思います。これを読んでいるあなたも、もしかしたら新人の教育係に任命されることがあるかもしれません。
チームにとって、新人が入ることは基本的に好ましいことです。新人はすぐには戦力にはならないかもしれませんが、チームに「新しい空気」をもたらしてくれます。新人を受け入れずにずっと同じメンバーで仕事をやり続けるほうが効率的だと思う人もいるかもしれませんが、メンバーが長期にわたって固定化されると、チームは独善的になりがちです。定期的にチームに新しい人が加入することで、チームは「外部の視点」を導入でき、このような独善化を防ぐことができます。
さらにもうひとつ、新人を受け入れる大きなメリットがあります。それは、新人を教育することを通じて、教育する側も様々なことが学べるということです。何かを学ぶための一番よい方法は、学んだことを人に教えてみることです。自分では十分その仕事のことがわかったつもりでいても、いざそれを人に教えようとすると、理解が不十分でうまく伝えられないということはよくあります。チームに新人を受け入れれば、彼らを教育すると同時に自分たちもレベルアップすることができるわけです。
そこで今回は、既存メンバーと新人の両方がレベルアップするために、新人をどうやって教育するべきかについて考えてみたいと思います。
OJTという名目で新人を放置してはいけない
チーム内で行う新人の教育は、ほとんどの場合OJT(On-the-Job Training:オン・ザ・ジョブ・トレーニング)という形式を取ります。要は、実際に仕事をやってもらって仕事のやり方を学んでもらうということです。
ゴチャゴチャと説明だけするよりも、実際に仕事をやってもらったほうが理解が進むというのはたしかに正しい部分もあります。しかし、だからといって何も教えずにただ仕事だけ渡して終わりというのでは、教育とは言えません。おそろしいことに、OJTという名目でこのような教育の放棄をしてしまっているチームは数多くあります。
OJTというのはあくまで仕事を通して新人を教育することであって、新人に仕事を丸投げして放置することではありません。中途採用の経験者であればこのような方法でも情報をかき集めてなんとか仕事をこなせるかもしれませんが、それを新人に求めるのは明らかに過剰要求です。
忘れてはいけないのは、新人を教育するには相応の手間がかかるということです。新人を教育する期間は、チームのアウトプットが一時的に小さくなることも覚悟しなければなりません。いつもどおりの業務をしながら、アウトプット量も維持しつつ新人の教育を行おうとすれば、新人教育がおざなりになってしまうのもある意味では当然です。現実にはそう理想通りにはいかないかもしれませんが、できるだけ新人を教育するために特別な時間を確保してあげてほしいと思います。
「新人が自分から動こうとしない」と嘆くのは間違っている
新人に教育らしい教育を行わずにほとんど放置しておきながら、新人が自分から動こうとしないことを嘆く人をよく見かけます。「指示待ち人間」という言葉がありますが、はっきり言って、この場合に悪いのは指示を待っている新人ではなく教える側です。新人が自分から動けずに指示待ちになってしまうのは、新人が自分から動けるだけの十分な情報が与えられていないからに他なりません。
もし「新人が自分から動こうとしない」という不満を言いそうになったら、まだ自分は仕事に必要なことを新人にすべて伝達できていないと逆に反省するべきです。世間で言われるほど簡単には、人は自分から動けるようにはなりません。稀に、非常に察しがよくてあまり説明をしなくても空気を読んで行動できる人もいますが、それは例外と考えるべきです。基本的には、忍耐強く時間をかけていろんなことを教えなければ、新人は自分からは動けないのです。
僕の好きな格言に「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」というものがあります。連合艦隊司令長官だった山本五十六の言葉ですが、新人がそう簡単に自分から動けるようにならないのは、もうずっと前から変わっていません。今の若い人だけが特別に受け身で、指示待ちになりやすいということは絶対にないのです。
「全体像」の説明を省略してはいけない
新人が自分から動けるようになるための重要な情報のひとつに、仕事の全体像があります。実際にいま手元でやっている仕事がチーム全体、あるいは会社全体の中でどこに位置づけられていることを知ることは重要です。仕事の全体像と自分がやっている仕事の位置づけがわかっていれば、未知の状況に遭遇しても自分で考えてどう動くべきか判断できるようになるからです。
仕事の全体像がわかっていないまま、とりあえず手元の仕事をこなすという状態は、人を不安にさせます。新人をそのような不安な状態にさせてはいけません。日々の業務が忙しい中で新人を教育しようとすると、ついつい全体像の説明は省略してしまいがちですが、これは絶対に省略してはいけません。
仕事の全体像の説明は、いざしようとすると案外できないものです。もし自分がうまく新人に対して仕事の全体像を説明することができないのだとしたら、それは自分も仕事の理解が足りていないということを意味しています。これを機会に自分の仕事のチーム内、あるいは社内での位置づけを考えてみることをおすすめします。
新人であっても、人としては対等な関係
これは当然のことなのですが、新人と先輩社員という関係はあくまで職務上の関係に過ぎないということも忘れてはいけません。見かけ上は、教える/教えられるという上下関係のようなものが存在していますが、人としてはあくまで対等です。間違っても、新人に対して高圧的な態度を取ってはいけません。
一部の会社では新人を「叩いて伸ばす」といった行為が文化としてまかり通っている場合があります。フィードバックと称して新人の人格を否定したり、仕事の不備を指摘するために怒鳴りつけたりするのは、単なるパワハラです。僕は「厳しい指導」が正当化されるのは、本人がそれをぜひやってくれと言っている時だけだと思っています。たとえ自分が新人時代にそういった厳しい教育を受けたとしても、後輩に同じことをしていいわけではありません。悪い文化は自分の代で断ち切っていただきたいところです。
新人に教えるだけでなく、新人から学ぶことも忘れない
冒頭にも書きましたが、新人教育の大きなメリットは、教育することを通じて教育する側も様々なことを学べることです。どうせならできるだけ多くのことを学べるように、新人から質問を受けるだけでなく、こちらからも新人に色々と質問をしてみるといいと思います。
僕が会社員時代に所属していたあるチームでは、新人が配属されたらまずは新人に自分たちのチームで作っているプロダクトを使ってもらって、使い心地などを質問するという取り組みを行っていました。また、チームの会議体やルールなどについても、必ず新人に第一印象を訊いていました。新人はまだチームの中のことをほとんど知らないので、「外部の視点」を持っています。チーム内で本格的に働くようになればやがてこの外部の視点は失われてしまうので、そうなる前に色々と質問をして僕たちも彼らから学ぼうとしていたわけです。
新人教育というと、つい教えることばかりに注目してしまいますが、前述のように教える/教えられるという関係はあくまで見かけ上のもので、人としてはお互いには対等です。対等なのだから、逆に新人から教えてもらうということだって当然あるはずですし、あるべきです。
みなさんも、新人をしっかりと丁寧に教育すると同時に、ぜひ彼らから何かを学び取ってほしいと思います。
photo by DAXKO

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ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)などがある。