2017/09/26 公開

エクセルでLINEスタンプを作る73歳、田澤誠司。ビートルズを原点に「今が自分の時代」

「働く」を考える。

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もはや日常的なコミュニケーション手段となったLINE。同サービスの「スタンプ」は、言葉では伝えられない感情の機微を表現する手段として重宝され、サービスの象徴ともなっています。そんなLINEスタンプにおいて、2016年に「72歳のおじいちゃんがつくったスタンプ」が大きな話題に。

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田澤さんが手がけたLINEスタンプ「団塊の世代」

なぜか工事現場や団塊の世代がモチーフになっているという内容や絵柄も強烈だったのですが、なんと制作に使われたのが、ビジネスシーンに欠かせない表計算ソフトとして知られる「Excel」ということも大きな驚きをもって迎えられました。先日は77歳の緻密なエクセルアート職人、堀内辰男さんを取材しましたが、今回は73歳のLINEスタンプ職人である田澤誠司さんにインタビューを行いました。

絵を描くツールとしてExcelを選んだ理由は「シェア」

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――仕事でWindows 95を触ったときに「これからパソコンの時代が来る」と感じたそうですが、どこにこれまでと違う可能性を感じたのでしょうか?
 
田澤誠司 (以下、田澤) それまでも仕事でパソコンを使う機会はあったんだけど、システムを成立させて起動するだけでも大変で、すごく使いづらかった。でもWindows 95はそういう細かいところの手間がなくなって、これなら俺でもできるなと思ったんだ。

そうして自分でパソコンを買って独学で書類を作ったりしていたんだけど、そのうち絵を描いてみようかなと思ってExcelで描き始めた。少しずついろいろ描けるようになって、ある日仕事の資料に絵をふんだんに取り入れて提出したら「見やすい書類だ」とお客さんから好評だったんだよ。

――絵を描こうと思ったときに、どうしてExcelを手段として選んだのでしょうか?
 
田澤 絵を描くためにいろんなソフトがあるけど、Excelはパソコンを買えば、大抵は最初から付いて来るのが良かった。みんな持っているソフトだから、自分以外の人たちとデータの共有化ができる。私が作ったデータをいろんな人が加工しながら使えるところが良かったんだね。

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LINEスタンプを作っているパソコンも最新のものではなく、Windows98が搭載されたマシンだ

――そもそもExcelを使い始める前から絵を描いていたのでしょうか?
 
田澤 それがほとんど描いたことがなかった。だから自分は鉛筆や絵の具を渡されても絵は描けない。マウスじゃないと描けないんだ(笑)

――LINEスタンプを作ろうと思ったきっかけは?
 
田澤 70歳で仕事を辞めたんだけど、なにしろ暇なものだからパソコンで絵を描いていたんだ。それをデータとして保存しただけだと誰にも見てもらえないから、印刷して家に飾っていたら、それを孫娘が見て「これだけ絵が描けるなら、スタンプを作ってみたら?」と言われたのがきっかけなんだよ。

それでまずはスマホを買って来て、LINEを入れてみて、スタンプとはどういうものかを理解した。でも、何を作っていいか分からないんだよね。そこで仕事をしていた頃に、工事現場の業務で作業員に注意喚起を図る安全教育資料に使う絵をたくさん描いていたのを思い出して、それを活用してスタンプを作ったんだ。

――初めて見たとき「どうして工事現場!?」と驚いたのですが、そういうことだったんですね。
 
田澤 そして次は「自分の青春時代の思い出を作ってやろう」と思って作ったのが、団塊の世代。貧しくも良かった昭和をスタンプにしたら、それが受けたんだ。

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――その中の「まずいよ脱脂粉乳」というスタンプも話題になりましたね(笑)
 
田澤 いやあ、学校の給食で出て来る脱脂粉乳がまずくて飲めなくて。あれのせいで今でも牛乳飲めないんだよ(笑)

「夢は◯◯」と言えなくていい。今できることをやればいつか見つかる

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――今こうしてLINEスタンプ職人として活躍されているわけですが、子供の頃はどんな夢を持たれていましたか?
 
田澤 夢というよりも「衝撃」だったんだけど、二十歳の頃にザ・ビートルズが出てきた。あれにはものすごく驚かされたね。自分らの青春時代をビートルズと一緒に迎えられたのが人生の最大の宝だね。「イギリスの若い4人にできるなら、俺らにだってできるはずだ」と音楽的なセンスなんて持ってないのにグループサウンズを作って音楽をやっていたよ。ドラムをやる人がいないから俺はドラムをやった。その当時はドラムセットがものすごく高価で、給料半年分くらいしたんだけど、もちろん現金でなんて買えないから月賦で買ったんだ。そう言えば団塊の世代スタンプに「月賦でテレビ買ったよ」というのがあるんだけど「月賦って何ですか?」とよく聞かれるよ(笑)

でも中学出たらすぐ日立製作所の養成所に入ったし、そういう意味では自分には夢はなかったかな。

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部屋に飾られたBEATLESのポスター

――なるほど。「夢はなかった」というのはちょっと重い言葉のようにも感じられますが。
 
田澤 けど、今俺は若い人らに言うんだ。「チャレンジすれば70歳になっても話題になれる」って。「何事も行動を起こすということが大切だよ」と。

「あなたの夢は?」という質問に端的に答えられる人なんて、そんなにいないと思うんだ。夢はそれでいいんじゃないかと思う。大切なのは、今自分に何ができるのかを考えて、それを最優先でやってみること。行動を起こしてやっていけば、何が自分に合っていて合っていないのかが分かってくるはず。それが分かるまでは「才能や素質がない」なんて思い込むのは間違いだと思う。才能とか素質なんてものは第三者が言うものだから。「可能性」という言葉を常に信じるべきだよ。

――何か行動を起こせば、何かが見つかる、と。
 
田澤 「お前はそんなに絵が好きなんだったら、なんでもっと早いうちにやらなかったんだ」と言われるんだけど、何事にもタイミングがあると思ってる。俺は自慢じゃないけど筆とか鉛筆では絵を描けない。マウスなら描ける。でも二十歳の頃にはマウスなんか無かったし、スマホもLINEも無かった。それが今あるんだ。だから「今がタイミングだ」と思うんだ。たしかに歳は取っているけど、今が自分にあっている時代なんだと認識しているよ。「年寄りが作ったスタンプなんて使えるか」とも言われるけど「そうじゃねえ」と。歳取ったって、考えていることは変わらないよ。身体は動かないけど(笑)

LINEスタンプで社会に良いインパクトを残したい

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――精力的に新作のLINEスタンプを作り続けていますが、かなりの集中力をお持ちですよね。
 
田澤 うん「集中力」に関しては、自分はかなり持っている方だと思う。女房と一緒にスタンプを作ってるんだけど、脇で騒がれても気にならないから(笑)。孫なんかもそうだけど、若い人はなんか集中力が無いなと思うね。スマホのせいじゃないかと思うんだけど、どうだろう。あれはあれで集中しているのかもしれないけど、我々の集中とはちょっと違う気がする。

――モチベーションの維持について工夫されていることはありますか?
 
田澤 毎日目標を持つことが大切。「今日はスタンプを一つ作る」と思ったら、そこに集中して他のことは考えない。でも若い頃というのはどうしても落ち着きがないと思うし、それはしょうがないよね。お金を持てば遊びたくなったりさ。自分もなかなかできなかったけど、今となっては身体もあんまり動かなくなってきたし、じっくりやれるようになったという感じかな。残った人生を有意義に使うには、じっくりやらないといけないから。

でも音楽で支えられている部分はあるね。いつも音楽を聴きながらスタンプを作ってる。スタンプを40種類も作るのはマラソンと一緒で途中がとても苦しいんだけど、メロディーが入ってきた時に閃くことが多いよ。

――LINEスタンプ作りを続ける中で進歩を感じることはありますか?
 
田澤 絵は今も上手いとは思っていないけど、少しずつ進化していることに自分で気が付くことはある。今までと違う観察力が働いてきて、それによって想像力も出て来たなと感じるよ。日々の生活の中でも「この人の特徴はこういうところだな」と気付いたりする。中でも自分が気を付けているのは「手の動き」。スタンプで重要なのは、目とか口よりも手の動きじゃ無いかと思う。だから手話なんかは最高に良いなと思って、本を買って来たりネットで実際の動きを調べて作ったんだ。もっと増やしていろんな方面、老人ホームとかでかたっ苦しくなく手軽に学べればいいなと思っているよ。

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手のパーツは、別のファイルでアーカイブしてすぐに使える状態にしているそう

――最後に、これからどんな活動をして行きたいか展望を教えてください。
 
田澤 もうすぐ戦後75年になるけど、そこを一つの目標に自分の戦争体験を踏まえた自叙伝というか自分の生き様を一つの漫画にしたいなと思っている。俺の場合は戦争の記憶がそんなにないけど、お袋が苦労してきたのは見ていたので。いろんな情報を得て作ろうかなと思っている。

それと、これからは少子化社会の時代なので、少子化を解消するためのかわいい赤ちゃんのスタンプを作ってる。そういう社会に貢献できるようなことをしていきたいね。

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田澤さんが、現在製作中のかわいい赤ちゃんのスタンプ

――スタンプによる社会貢献まで考えられているんですね。
 
田澤 うん。実は、70歳で仕事を辞めたときに「自分の人生は終わった」と思ったんだ。あとはゴミのように焼かれて灰になるだけだと。でも、そんな時に石川遼とか錦織とか若い人らがスポーツの世界で活躍しているのを見て「俺の人生はなんだったんだ。70年も生きて何も名前が残っていないじゃないか」と発奮したんだよ。何でもいいから名を残したい。そう思ったのが大きなきっかけであり、生き甲斐だね。

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2017年7月21日、小澤さんは読売新聞に名を残した

田澤 よく聞かれるけど、スタンプで収入を得るのは難しいと思う。でも自分はスタンプを見てみんなが元気になってもらえればいいなと思っている。スタンプを介すことで、老若男女隔たりなく同じ目線でコミュニケーションが取れる。それによって夢が広がればいい。そういうところがスタンプの魅力じゃないかな。

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