落語への先入観を壊し、真打としてもっと落語を世に広めたい【後編】

変わり種マネジメント

2020/04/30
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知識がまったくない状態から落語の世界に飛び込み、瀧川鯉昇さんのもとで下積みから始め、2019年5月に落語家の最も上位の階級である真打に昇進を果たした瀧川鯉斗さん。実は暴走族の元総長だった過去もある瀧川さんに、総長時代にどうチームメンバーをまとめていたのか、そして落語界に入った後の下積みから真打時代まで、段階ごとにどのように成長を遂げてきたのかをお聞きしました。

失敗できる立場のうちに挑戦して恥をかくことが大事

――鯉斗さんは瀧川鯉昇師匠のもとに弟子入り後、約4年で前座修行を終えてその次の階級の二ツ目に昇進されました。この時期にはどのような経験を積まれたのでしょうか。

二ツ目は一人前と見なされる階級とはいえ、まだ修行期間です。誤解を恐れず言うと、何をやっても許される時期。なので僕はこの時期に大いに恥をかく、ということをしてました。もちろんわざと失敗するわけじゃないですよ。落語を披露する寄席の高座の上でいろいろ挑戦して、恥をかいて覚える。二ツ目のうちにやっちゃったな、という経験をしておかないと、真打に昇進したときにもっと恥ずかしい思いをすることになりますから。

――これは大恥かいたな、というエピソードを教えていただけますか?

当時、春風亭小朝師匠の独演会で時間をもらって、初めて披露するネタを高座で演じるネタ下ろしの機会があったんですけど、小朝師匠は1人で1,200人のお客さんを集めちゃうすごい人なんですよ。そのとき演じたのが『犬の目』という、ヤブ医者が盲目の患者を診察して、眼球を取り出して犬の目に入れ替えてしまうという、面白おかしい滑稽噺なんですが……。

会場がシーーンとなるほど、ダダスベリしたんです。演目が終わってから小朝師匠には、「鯉斗君、もう『犬の目』はしなくていいから」と言われました。今でもはっきりと覚えています。

――それはキツい……。

いやー、キツいですよね。だけど得たものも大きかったです。スベったのは表現の仕方が上手くなかったり、話の運び方が悪かったりという要因があったので、反省するのはもちろんですが、それよりも、そもそも僕のキャラに滑稽噺は合っていないんだな、という発見がありました。そのあたりからですね。人情噺や色気のある噺を中心に演じるようになったのは。

先ほども言いましたけど、二ツ目時代にこういう挑戦をして、恥をかいていなかったら真打になってからもっと困っていたはずです。これはたぶんビジネスの場でも言えることで、失敗できる立場のうちに挑戦の回数を増やして、恥をかいておくことは大事だと思います。

瀧川鯉斗
地元である名古屋の暴走族総長を務めた後、役者を目指して上京しアルバイトをする日々を送る。ある日たまたま見た瀧川鯉昇の落語に感銘を受けて弟子入り。以降、前座見習い・前座・二ツ目を経て、2019年5月に真打に昇進。二枚目という特徴を活かし、人情噺や艶噺を得意とする。

より多くの観客と落語を一緒に楽しめたら本望

――10年の二ツ目時代を経て、現在は真打という立場で活躍されています。二ツ目と違って大きな失敗が許されない立場かと思いますが、表現の幅を広げるために日々どんなことをされていますか?

自分と向き合う時間を多くとっています。当たり前ですけど真打になってからも師匠のモノマネをしているだけではダメなので、僕ができる意味のあることって何だろう、とか、この噺を自分のものにするにはどうすればいいか、と自分と対話しているんです。

落語の技術的なところでは、情報のキャッチアップを常にしています。時事ネタを話の流れで入れることが多いので、使うネタの鮮度が古くなる前に入れ替えています。最新のニュースを仕入れるというより、みんなが知っているニュースを咀嚼して面白くする、という頭の使い方です。なので、世間の人が目にするようなテレビ番組を見たり、移動中にLINEニュースを見たりしています。

――鯉斗さんはこの先どういう落語家になっていきたいですか?

落語の世界をどんどん世に広めていきたいです。そのために自分ができることは何だろうと考えたときに、みんなが持っている落語の感覚をブチ壊す、というのが僕の役割かなと思っています。先入観を壊して、新しいスタイルの落語の形を提示する落語家になって、お客さんたちと一緒に落語を楽しんで死ねたら本望です。

落語の世界を広げるためには、落語だけしていてはダメだなとも思っているんです。まず僕という人間を知ってもらって、そこから落語に興味を持ってもらう、という流れも大事なので、最近は落語以外のお仕事にも積極的に挑戦しています。

直近だとテレビのバラエティ番組のお仕事が多いですが、ゆくゆくは役者の仕事もやりたいんですよ。前田慶次というめっちゃ強くて思いやりもある武将がいて、この役は自分しかいないと思っているので、もし時代劇の監督さんやスタッフさんがこれを読んでいたらぜひ声をかけてほしいです。配役が決まったらその日から体づくりを頑張って、ボディビルダーみたいにバルクアップするので(笑)。

あと、今はまだ弟子はいませんが、気合いのある方からの志願があればとろうと思っています。もし師匠になったら、個性重視で指導します。それに先輩への敬意や周囲への思いやりを持つことの大切さも教えたいですね。

気がきいて謙虚、でも自分を持っている人が仕事のデキる人

――落語に限らず、仕事全般についての質問です。鯉斗さんから見て、この人はデキるな、と思う人の特徴を3つ教えてください。

まず1つ目は、気がきく人です。これは最低限必要な要素だと思います。よく気がきく人はどの世界でも可愛がってもらえるし、次の仕事にもつながることがあるので、どんどんいい経験が積めると思います。真逆なのが空気を読めない、KYと呼ばれる人たちで、そういう人とは一緒に仕事をしたくないですね。

気がつかえない人はそのことを誰からも指摘されなくても、気がつかえないやつだな、とたぶん思われています。そうだとしてもライバルは教えてくれないから、自分で気づくしかない。僕自身も、気づかえるように日々意識して動いています。

2つ目は謙虚な人。デキる人って例外なくちゃんと周囲に感謝を伝えたり、自分がミスをしたときに素直に謝ったりすることができるんですよ。そういう人って魅力的だなと思います。

3つ目は自分を持っている人。自分が何が好きかを知っている人は強いと思っています。そういう人はたいてい、好きなことをするためにはどうすればいいか、という逆算思考ができるので、あとはするべきことを見極めて突っ走るだけでどんどんうまくいくんですよ。

僕はありがたいことに、今までずっと自分がカッコいいと思っている人たちに囲まれて生きてきました。過去に身を置いていた暴走族のチームでも、いま身を置いている落語の世界でも、僕がこの人はデキるしカッコいいな、と思った人たちはみんな今挙げた3つの特徴を持っていました。

――最後に、落語家という話芸のプロの視点から、人前で話すときのコツをぜひ教えてください。

仕事で人前で話すときは、用意した資料を見ながらマニュアル通りに話すのは避けたほうがいいと思います。何か資料を用意するなら、事前に頭に叩き込んでおいて、当日はなるべく資料に視線を落とさずに話すのがいいですよ。

話すことを頭に入れておけば相手の話を聞く余裕が持てますし、そういう状態で人前に立つべきだと思います。でも一番大事なのは、私はこれを伝えるんだ、という強い気持ちを持つことです。

取材/文 観音クリエイション

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