武田砂鉄 些細な仕事にも自負がある。成功の基準を社会の物差しに合わせてはいけない【後編】

失敗ヒーロー!

2020/02/13
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粗雑な形で組織への帰属を求める、一人歩きを始めた流行語

――では、組織についてはどうでしょう? 個人が健全に働くためには、組織の有り様を見直す必要があるはずです。

武田:いつだって帰属意識を求めるような組織には、危険を感じますね。ラグビー日本代表の「ONE TEAM」という言葉が、2019年の「新語・流行語大賞」に選ばれたじゃないですか。あれに関連したニュースを見ていると、世の中の上司と呼ばれる人たちが、興奮気味に「オレたちもワンチームになろう!」と騒ぎ立てている。本来の「ONE TEAM」って、非常に緻密なものですよね。スクラムにしても足の位置から角度まで、数センチ単位の調整をして、個の力を最大化していった結果です。そして様々な年齢、立場、人種を受け止めたうえで、ひとつにまとまった。流行語に選ばれた途端に、その緻密さが置いてきぼりにされ、単に「よっしゃオレたちも一致団結するぜ!」と暴走を始めた。

個人の意思を無視した一致団結は、とても危険です。会社の飲み会がハラスメントとして議論されがちなのも、個人を無視した強要が残っているからですよね。昨年の暮れに「忘年会スルー」という言葉がバズりましたが、これをベースにすべきです。忘年会なんてスルーするのが基本であり、行きたい人だけが行きたいところにだけ行けばいい。そもそも忘年会という催しそのものが、おかしいですよね。例えば、12月28日まで働いて、1月4日には仕事始めだとする。ブランクはたったの一週間です。そんなの今週→来週じゃないですか。仰々しく区切りを付けて、飲み会をする意味がない。

――心ではそう思っていても、組織に忖度してしまう人は少なくありません。武田さんはご自身の著書で、「物申すことの大切さ」を訴えていますね。

武田:全ての人に物申すことを課しては、プレッシャーになりかねません。ただ、目の前の理不尽に対して、もっと怒ってもいいはずだ、と思います。「文句を言っても仕方ない。前向きに生きましょうよ」という風潮が強まって、怒りを露わにしても「何を怒っているのか。もっと前向きに考えればいいのに」と揶揄される。しかし今の日本社会を冷静に見れば、そうは言っていられない局面がありすぎる。

オリンピックなんて典型例ですね。賄賂やらコストの高騰やら、明らかな問題を抱えているにもかかわらず、「東京オリンピックというお祭りを用意したんだから、とにかく楽しみましょうよ」と言い張るのが、今の日本社会です。これを日常生活に置き換えてみてください。虫歯に悩んでいたら、まずは治療しますよね。「痛いなんてネガティブなことを言っていないで、まずは楽しいことをしようよ」とはなりません。まずは痛みを訴えて、その痛みを取り除くことから始めるはずです。

反発されても攻撃されても、共感する人は必ずいる

――訴えなければ、始まらない。どうすれば、訴える勇気を持てるのでしょうか?

武田:怒りにせよ、痛みにせよ、社会に何かしらを訴えるには勇気が必要です。ただ、あまり怖がる必要もないと思うんですよ。僕は2014年からcakesというサイトでテレビ・芸能人批評のコラムを連載していて、これまでに300人近い芸能人を取り上げていますが、直接的にクレームをもらったのは一人だけ。しかも、中身がどうのこうのではなく、取り上げられたことに対する憤りでした。5年も続いてこんな感じの一人なら、十分、御の字じゃないですか。

――なるほど。確かにその数字は、御の字ですね(笑)。

武田:もちろん、「お前ごときが何を怒っているのか」と、反発されることもあります。こうした時に思い出すのが、「何を言われようとも、あなたを見ている人が必ずいるから」という言葉です。これは自分がフリーランスとして独立する時に、尊敬する詩人の方から掛けてもらった言葉。大切にしています。喜怒哀楽のどの感情であっても、何かを訴えれば反発され、攻撃されることもある。ただ、その一方で、自分の書いた言葉を受け止めて、誰かどこかで考えてくれているはず。そう考えることによって、日頃あまり自覚しない「勇気」を感じることが多いです。

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