武田砂鉄 些細な仕事にも自負がある。成功の基準を社会の物差しに合わせてはいけない【後編】

失敗ヒーロー!

2020/02/13
Pocket

華々しい成功の裏には、失敗や挫折がある。その失敗エピソードから成功の秘訣をヒモ解く『失敗ヒーロー!』。前編に引き続き、日本社会における違和感や社会問題に対する鋭い発言で注目を集める、ライターの武田砂鉄さんが登場。ご自身の著書や連載で「働き方改革」にも言及されている武田さんですが、後編では、ずばり働き方にフォーカス。武田さんが実践する働き方から「一億総活躍社会」という言葉に対する違和感、さらには組織に物申すための勇気の持ち方まで、痛烈にして痛快な“武田節”が満載です!

武田砂鉄(たけだ・さてつ)
1982年生まれ、東京都出身。大学卒業後、出版社勤務を経てフリーランスのライターに。2015年に発表した自身初の著書『紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす』で、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。多くの雑誌やウェブメディアに連載を持つほか、TBSラジオ『ACTION』のパーソナリティとしても活躍。ほかの著書に『芸能人寛容論 テレビの中のわだかまり』『コンプレックス文化論』『日本の気配』などがある。

自分の裁量で明日に持ち越せる、それが健全な働き方

――前編ではコンプレックスと失敗について伺いましたが、後編では、働き方について聞かせてください。武田さんは「働き方改革」にも言及されていますが、健全な働き方とは、どのようなものだとお考えでしょうか?

武田砂鉄(以下、武田):労働時間の長さ云々よりも、ある程度、自分の判断で仕事を「今日はこんなところだな」とストップできるか、その場からいなくなれるか、ではないでしょうか。組織や上司が下した判断を待つだけではなく、主体的な判断によって仕事を裁量できることが、健全な働き方だと思いますね。それが難しい職場が多いのだと思いますが。

――武田さんはフリーランスの立場ですが、フリーランスには規定の労働時間がありません。ご自身は、どのような働き方を心掛けているのでしょう?

武田:夜更かしは絶対にしないようにしています。家のそばに仕事場を借りているので、毎朝8時前後に、出社するような感覚で向かいます。毎朝8時に出社して、昼まで仕事をして、家で昼ごはんを食べて、また出社して仕事をする。忙しい時でも、基本的には夜の22時、23時には切り上げるようにしていますね。

――意外です。物書きの方には、どこか不規則な生活のイメージがあります。

武田:もともと出版社に勤めていましたが、大御所ほど、締め切りを守るんですね。大御所から順番に原稿が届く。反対に「っていうか、早く送ってこいよ!」という人間ほど、締め切りを守らない(笑)。自分が編集者をしていたこともあって、あまり迷惑をかけないように、とは思っています。それでもちょこまか遅れてしまいますが、全く連絡が付かないとか、締め切り前日になっても全く進んでいないとか、編集者に迷惑をかけるようなことはするまい、と。とは言え、この記事が公開になったら、「いや、そんなことないだろう」と思う編集者がいるかもしれませんけど。

たとえ役に立たなかったとして、何が悪いの?

――ところで伺いたいのが、「一億総活躍社会」という言葉についてです。「働き方改革」の骨子のように掲げられたフレーズですが、どのような印象をお持ちですか?

武田:非常に傲慢な言葉だと思いますね。活躍したい人が活躍すればいいのであって、国民全員が活躍する必要はありません。「活躍したいとは思わない。淡々と暮らしたい」という人は、淡々と暮らせばいいはずです。そもそも、活躍ってなんなのか。家で育てている豆苗を昼ごはんのパスタに添えたら、我が家的には大活躍ですが、国家からの「活躍」には入らない。生き方を規定されることなく、淡々と暮らしたい人が淡々と暮らせることが、むしろ、生きる上での最低条件です。2016年7月、相模原市の障害者施設で殺傷事件が起きました。この事件を題材としたドキュメンタリー番組で、施設に障害を持つ息子を通わせていたお母さんが「役に立たなくてもいいし、ちゃんと存在しているだけで幸せだと思う。役に立たなくて悪い?」とつぶやいていたのが印象的でした。なぜ、社会が要請する「役に立つ・立たない」で選別されなければいけないのかと。

この世に生を受け、生を全うしようとしている人たちに「役立つか、役立たないか」を査定するようなことをしてはいけない。少し前に話題になった、厚生労働省「人生会議」(ACP=アドバンス・ケア・プランニングの愛称)のポスターも同様ですよね。我々は一人の例外もなく、この世に生まれてきたのは偶然です。たまたま生まれてきてどう生きようと、本来的には個人の勝手。それなのに「正しい家族」やら「理想の人生」とやらを提唱してくる輩がいる。そこにすっぽりとハマった人が、そうではない人を弾こうとする。それは大きなプレッシャーとしてのしかかります。

――おっしゃる通りですね。働き方にしても生き方にしても、理想像を規定される怖さを感じます。

武田:活躍のレベルにも強弱があって、他人が規定できるものではありません。自分は大学時代、映像制作会社でADをしていたんですが、今から考えると、あれこれパワハラが横行している理不尽な職場でした。当時はまだVHSを使っている時代で、関連会社に送るビデオのシールラベルを貼り替えるのもADの仕事。あれって、専用のスプレーを使うと、きれいに剥がれるんですよ。何百本、何千本と剥がしているうちに「スプレーの使用量を最低限に抑え、ここまで的確に美しく剥がすのはオレにしかできない」という、妙な自信が生まれて。

もちろん、VHSのラベルを美しく剥がせたところで、社会には何の影響も与えません。それでも小さな自負によって、自分が保たれる。自分的に大活躍でした。自分を保つためにも、活躍や成功の規準を設ける。社会の物差しに合わせる必要なんてないんです。最近、書店に出向くと、成功の秘訣を書いたような本がいっぱい並んでいますね。そこには成功に至るまでの期間、成功を立証する収入、具体的な人脈などなどが書かれています。こうした本を読んでいると、自分自身が揺らぐじゃないですか。「自分の活躍は、他の人が考える活躍の範疇にないんだ」と、自分を保つためのあれこれが矮小化して見えてしまう。これは非常に不健全です。誰よりもVHSのラベルを美しく剥がせるのは自分なんです。それでいいじゃないかと。

マネたまご マネたまをフォローすれば最新記事をお届けします!
運営会社 | Copyright © kaonavi, inc. All Rights Reserved.