武田砂鉄 お腹に抱えたコンプレックスは「自分とは何か」を示す心の名刺【前編】

失敗ヒーロー!

2020/02/12
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華々しい成功の裏には、失敗や挫折がある。その失敗エピソードから成功の秘訣をヒモ解く『失敗ヒーロー!』。今回は日本社会における違和感や社会問題に対する鋭い発言で注目を集める、ライターの武田砂鉄さんが登場。独自の視点からコンプレックスに斬り込み、考察した評論集『コンプレックス文化論』を上梓されている武田さんですが、ご自身はどのようなコンプレックスを抱えていたのか。中学時代に刻まれたという“控え”の記憶をヒモ解くと、解消するでも転換するでもない、“再燃させる”というコンプレックスとの付き合い方が明らかに!

武田砂鉄(たけだ・さてつ)
1982年生まれ、東京都出身。大学卒業後、出版社勤務を経てフリーランスのライターに。2015年に発表した自身初の著書『紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす』で、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。多くの雑誌やウェブメディアに連載を持つほか、TBSラジオ『ACTION』のパーソナリティとしても活躍。ほかの著書に『芸能人寛容論 テレビの中のわだかまり』『コンプレックス文化論』『日本の気配』などがある。

“控えキーパー”という中学時代のコンプレックス

――コンプレックスを題材とした『コンプレックス文化論』を上梓されている武田さん。まずは、ご自身のコンプレックスについて聞かせてください。

武田砂鉄(以下、武田):いまだに根深くあるのが、控えの記憶ですね。中学時代に所属していたサッカー部で、入部から引退まで控えのゴールキーパーだったんです。比較的、身長が高かったので、「キーパーなら活躍できるだろう。場合によっちゃ、チヤホヤされるかもしれない」と。現実には、控えどころか、中3になると、控えキーパーの座まで中2に奪われた。当然、練習はサボりがちになるし、休日に試合があれば「頼むから負けてほしい!」と念じるようになります。勝つと、翌週も試合ですからね。表面的には大声で応援しつつ、内心で負けを願う。こうしたズレが生じると、当然、偏屈になりますよね。

しかも、サッカー部のスタメンって、出来心でバンドを組み始めたりするでしょう。となると、付け入る隙もなくなる。遠く離れたところから、ちょっかいを出すことでしか、自分の存在を示せない。ちょっかいの質ばかりが向上していく。一方の彼らは冷静です。結構、仲良くしてくれる。もしかしたら同じグループに属しているのではないかと思い始めるんですが、クラスの女子たちとどこかに遊びに行くとなると、自分は振るい落とされる。その時に感じた「なぜ、うまくいかないんだろう」という感覚は、今も色濃く記憶されています。だから、同窓会があると、極力、行くようにしています。「今日、嫌な思いするんだろうな」と思いながら出かけて行き、嫌な思いをするんです。

――物書きとして、ネタを探しに行くような感覚でしょうか?

武田:薪をくべるようなイメージでしょうか。火の勢いが弱まった当時の感情を再燃させに行く。同窓会に行って、「ねぇ、中2の6月の話だけど」って当時の話をしても、彼らはちっとも覚えていないんですよ。「あの時、誘ってくれなかったよね」なんて言っても、完全にリセットされている。するとまた、こちらの苛立ちがいい具合に再燃します。この感情が、日頃の原稿書きのエネルギーになったりしているのかもしれません。

お腹に抱えたコンプレックスにはオリジナリティがある

――それはつまり、コンプレックスを強みに変えられた、と。

武田:いや、変えられたわけではないんです。コンプレックスはコンプレックスのまま。だからこそ当時の感情が再燃します。『コンプレックス文化論』にも書いたことですが、コンプレックスって、往々にして、解消すべきものとして語られますよね。解消して、経験として良いものとして転換させるべきだ、と。しかし自分のお腹に居残っているコンプレックスは、解消しなくていい。何かに変える必要もない。備蓄しておけばいい。再燃させることでエネルギーを得るような感覚なんです。

――コンプレックスとは、すなわち劣等感。劣等感を再燃させては、かえって落ち込んでしまいそうです。

武田:とっても青臭い言い方をすれば、誰しもが「自分とは何者なのか?」「他人に自分はどう映っているのか?」なんて考えるじゃないですか。特に原稿を書く時には、常にそういう考えが頭の中に残っている。自分にカメラを向けてみると、自然とフレームインしてくるのが自分にとってはコンプレックスなんです。「自分はこういう人間である」という、心の中の名刺のようなものですね。名刺だからといって簡単に差し出すことはしませんが。

老舗のカレー屋とかラーメン屋とか、ルーやスープを継ぎ足している店がありますよね。ちょっとした不衛生さも感じつつ、人気の理由はその継ぎ足しっぷりにあったりする。鍋底には、ルーやスープのなにがしかがこびりついている。自分にとってのコンプレックスって、そのこびりついている部分ってイメージなんです。いろいろな経験を積み重ねて、新たな気づきを得たり、吐き出したりを繰り返しても、コンプレックスはそう簡単には取り払えない。でも、鍋底の黒ずみのようにこびり付いたコンプレックスが、実はいい味を出している。そう信じ込もうとしているところがあります。

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