【後編】「世の中に新しい価値を実装する。それがTakramの仕事」田川欣哉(デザインエンジニア・Takram代表)

逆境ヒーロー!

2019/04/10
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極小だけど存在する“成功の場所”を見つけていく

――Takramでは「越境」というのが一つのキーワードになっています。「越境」する人材とはどんなスキルを持った人なのか、教えてください。

田川:自分の中に存在するそれぞれの専門性を持ったいくつかの人格を「融合」させるのではなく、「分裂」させたまま物事を考えられるのが「越境」する人材です。個人の中に高いスキルのエンジニアと、高いスキルのデザイナーの2つの人格を育てるが、必ずしもその2つの人格同士が仲良しなわけではないといったイメージです(笑)。その2つの人格が相談しながら問題解決しているような感じですね。例えば、自分の中にいるエンジニアとデザイナーを「融合」させてしまうと、エンジニアリングの能力を個別に使えば簡単に解決できるものが、解決できなくなってしまうことがあります。病気に例えると、胃と脳に病気がある人に両方を融合した「脳胃外科」なんてものは必要ないですよね。本来は胃と脳をそれぞれ手術すれば治るのに、「脳と胃をつないでいる食道を手術しましょう」みたいな的外れなことになりかねない。本来の目的に対して、こちらの都合に合わせた手段が優先される感じが出てきてしまいます。

――「越境」する人材になることでたどり着ける深みとはどんなものでしょうか?

田川:例えば、とある仮説が10,000通りあった時、テクノロジーの視点で6,000個がダメ、デザインの視点で3,000個がダメだと判断したら、残り1,000個まで絞れますよね。そうやってさまざまな軸で絞り込んで出た答えに対して、自分の中に複数いる専門家全員が「イエス」と言った時、成功する確率が高いことが分かっています。

「これなら全部が成立する」というようなスイートスポットって、本当に極小だけど確かに存在している。普通見逃してしまうくらい狭いスペースまで絞って、“成功の場所”を探していくんです。なぜこれが世の中に通用するのかを見抜く力量のあるフルスタックな人材に進化することで、ようやく一人のユーザーと正直に向き合ったものづくりができる。それが「越境」する効果の本質なのかなと思います。

「越境」が面白いのは、ある分野で常識的なことが、ほかの分野では比較的、常識ではないようなことがあって、それらをお互いに掛け合わせて思いも寄らないイノベーションが起こることなんですね。

新たな価値を実装するのが、Takramの仕事

――自分の中に分裂された専門家を育て「越境」することで、理想とするユーザーに正直に向き合ったものづくりができると。しかし、田川さんのように常に新しいことに挑戦していくことを難しいと感じる人もいるかと思います。

田川:でも意外と、スタートアップの経営者はみんなこういう感覚だなと思いますよ。必要なことは何でもやらないといけないし、物事を成立させることのシリアスさを全身で受け止めている方が多いと思うので。

ただ、もし新しいことにどんどん取り組んでいく僕のような人間が社会の構成要員の100%を占めるというような状況になると、蛇口をひねっても水が出ないということになりかねません(笑)。9割くらいの人たちは、きちんと物事を動かしていくような人材でオペレーション品質を担保しておかないと。世の中の全員がイノベーション体質だと、電車も飛行機も動かなくなっちゃうと思います。

社会の1割くらいはリスクを取りながら新しいことをやるスタートアップの経営者のような人で、現状を動かしていく人が8割。あとの1割は、不必要なものをせっせと折りたたんでなくしていくような役割を担う。このようなバランスが成立すればいい社会になると思うんですが、現在の日本には最初の1割と最後の1割が手薄です。日本社会は排出系の設計も手薄で、会社組織はその典型かと。会社に合わない従業員も抱えなければならないし、従業員側も積極的に転職することができない。テクノロジーの進化で本来はなくなっていいはずのものが、長く残ってしまう状況です。排出ができないと、新しいものもなかなか入ってこないですよね。

そんな世の中で僕たちがやっていくのは、新しい価値や誰もまだチャレンジできていなかった部分を自分たちで作っていくことです。世の中にまだ発見されていない、認められてない価値を実装していく。そしてそういう志を持った企業のチェンジメーカーやリーダー、スタートアップの経営者たちの後押しをしていく存在でありたいとも思っています。それが、僕らTakramの役割なんです。

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