【後編】「世の中に新しい価値を実装する。それがTakramの仕事」田川欣哉(デザインエンジニア・Takram代表)

逆境ヒーロー!

2019/04/10
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華々しい成功の裏には、失敗や挫折がある。その失敗エピソードから成功の秘訣をヒモ解く『失敗ヒーロー!』。そのスピンオフ企画として新たにスタートした新連載『逆境ヒーロー!』。さまざまなフィールドで活躍しながら“ビジネスパーソン”として注目を集める人物にフィーチャーしていきます。前編では「デザインエンジニア」という職種に込めた田川さんのものづくりに対する想いをお話いただきました。続く後編では、自身をアウトローな人間だとおっしゃる田川さんが、Takramをどのように発展させてきたのか、また職域を「越境」することでたどり着く場所とは一体何なのか、詳しく伺っていきます。

重要なのは、「自分は何ができるのか」

――前編のお話では「一人のユーザーのためにできることは全部やる」という姿勢がとても印象的でした。Takram創業時は、どのようにその想いを伝え、お仕事の環境を整えていかれたのでしょうか?

田川欣哉(たがわきんや)
1976年東京都生まれ、熊本県育ち。熊本県立熊本高等学校卒業後、東京大学工学部機械情報工学科に進学。企業のインターンを経て、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートのインダストリアル・デザイン・エンジニアリング学科の修士課程に留学、2001年に修了(同校の客員教授を2015年より務め、2018年に名誉フェロー授与)。山中俊治氏のアシスタントを5年間務めた後、2006年にTakramを設立。2014年にはロンドンにTakram ltd.を設立し、東京とロンドンで総勢40名のメンバーを率いている。

田川欣哉(以下、田川):僕らがやっていることはかなり特殊なので、今でも理解してもらうのが難しいこともあります。最初の頃は特にそうでした。大きなメーカーに自己紹介して「手伝えることはありませんか」と聞いてみても、「うちエンジニアもいるし、デザイナーもいる。君みたいなタイプが役に立つイメージが全然湧かないんだけど」と言われていましたね。「うちはチームワークでやってるから大丈夫」と。

でも、そこで思ったのは「デザインエンジニア」という職種がどうこうという話ではなくて、結局「自分は何ができるのか」が重要ということです。どういうスタイルでやっているかを説明するのではなくて、自分が作ったプロトタイプをまず見てもらうようにしました。そうすると、「やり方の意味はよくわからないけど、作ってるものは良いじゃん」と言ってもらえるようになったんです。

――言葉で説明をするよりも、作ったものを通じて理解してもらえるよう努めていったのですね。

田川:普通の話といえば、そうなんですけどね。いくらきれいごとを並べても「じゃあ、あなたは何ができるの? 実力はどうなの?」と言われてしまうのは仕方がないことです。実際に作ったプロトタイプを見てもらうことで、エンジニアと比べても結構できるし、デザイナーと比べても結構できるな、と思ってもらえたんだと思いますね。「デザインとエンジニアリング、両方やっています」とだけ伝えてしまうと、薄まったジェネラリストのように受け取られてしまうんだなと、今となっては思います。

でも、創業してから1年くらいは暇でしたよ。企業の方も「デザインエンジニア」なんて人と仕事をしたことがないから、よくわからないし不安だったんだと思います。当時、僕らに仕事を依頼してくれた人は、相当新しいもの好きだったんでしょう(笑)。その後は成果が出たからという理由で、クライアントが次のクライアントを連れてきてくれるようになっていきましたね。

個人に閉じた学びでは、世の変化に追いつけない

――そして今につながっていくのですね。Takramでは3人1組という編成でプロジェクトを進めていらっしゃいます。なぜそのように人材を配置するのか、改めて教えてください。

田川:前編でお話しした通り、専門家が物事の断面を切り取って「はい、これがマーケティングです」「これがデザインです」という考えには無理があると思っています。専門家たちが協業することはもちろん必要なんですが、バラバラに考えていると新しいものづくりは厳しい。10年前の手法が、すでにものすごく古いように、テクノロジーはものすごいスピードで世の中を変えています。デザインとエンジニアリングも同様で、常々やり方をアップデートしていかなければなりません。

産業が安定している時代には、専門性を深掘ったほうがパフォーマンスが高かったと思うのですが、その構造はとっくに壊れていて、今は猛烈に変化が進んでいます。この猛烈な変化に対応していくためには、個人に閉じた学びではスピードが追いつかない。

なので、Takramでは積極的に新しい知識を吸収できる仕組みを持っています。一つのプロジェクトチームにそのプロジェクトが得意な人とそうでない人をわざわざ入れることで、知識のある人からない人へ、勝手に知識が流れるような仕組みです。各人2~3個のプロジェクトを担当していますが、そのプロジェクトの半分は自分が得意なこと、もう半分は不得意なことを担当します。つまり、働いてる時間の中で、半分は自分の価値を発揮して先生役をする時間、もう半分は自分の未来のためにストレッチする生徒役の時間の両方を生み出すことができます。

自動的に知識を相互流通させることで、フルスタックで何でもできる人間に成長していくことを目指しています。Takramではソフトウェアも、ビジネスモデルやブランド構築もできる「やってできないことはない」というチャレンジ精神が旺盛な人が多いと思いますね。今、日本で探してもそんなフルスタックな人間はほとんどいません。猛烈に変化する社会に置いて行かれないスピードで自分たちも成長したいと思っています。

――Takramの皆さんはどういったバックグラウンドの方が多いのでしょうか?

田川:デザインをバックグラウンドにしている人もいるし、テクノロジーの人、ビジネス系の人もいます。でも出自はあまり重要ではなく、登山の入り口が違うというだけなんです。究極的に僕たちは何でもできるフルスタックな人材になりたいと思っています。専門家の人には、考えが甘いと言われてしまうこともありますが、普通の人はやらないことだからこそ、その道を行こうと。

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