【前編】「一人のユーザーと向き合うために全部やる。それがものづくり」田川欣哉(デザインエンジニア・Takram代表)

逆境ヒーロー!

2019/04/09
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「隣にいる人さえ見えなくなる」専門性の罠

――現在でもデザイナーとエンジニアは専門職として分けている会社が多いですよね。

田川:戦後間もない頃はみんな何でもやらないといけない時代があったんだと思います。デザイナーも設計のことを考えるし、エンジニアもデザインを考えるのがごく普通の状況。でも、どんどんスピード感が求められる社会になって、専門職化していきました。

――専門職で分けるデメリットとは何でしょうか?

田川:専門性を高めていくというのは、ひたすらドリルで地面を掘っていくようなものです。専門性を求めて深く掘っていくためには、ドリルの先っぽをどんどん尖らせる必要がある。それが続いていくと、元々は隣で一緒に穴を掘り始めたデザイナーとエンジニアも、ドリルの先が細くなっていくことで、だんだんと互いの距離が出てきてしまいます。その結果、隣で一緒に穴を掘っている人のことが見えなくなっていくんです。デザイナーとエンジニア同士、話が通じなくなるという状況が山ほどあるのは、専門性を掘り過ぎて隣が見えなくなってしまうことが原因です。

一人のユーザーと向き合うために、やるべきことは全部やる

――専門性を追求しすぎると、隣にいた人との意思疎通も難しくなってしまうのですね。

田川:結局僕らが作っているのは、誰か一人のユーザーが使うものなんです。デザインとエンジニアリングがどう作用し合っているのか、販売チャネルはどうなっているのか。ものを作って人に届けるまでのあらゆる工程を知らないままでは、ものづくりとは言えないのではないか。作らなきゃならないものに対して、僕がやるべきことは全部やる。そうしない限り、一人のユーザーと正直に向き合えない。それがものづくりに対する僕の基本のスタンスです。

――出来る限りたくさんの人に届けようという気持ちで作ってしまいますよね。でも、「誰か一人のため」なのですね。

田川:企業は何かを作るために存在していて、その作ったものは誰のためにあるかというと、結局一人の人間のためなんですね。一人の人間をバラバラに切り分けて、「これがターゲットユーザー像です」「これがデザインのトレンドです」って言うのは、かなり嘘くさいですよね? 例えば僕を100個のピースに分割して、それをくっつけてみたところで、それが僕になるかといえばそうではない。複雑な事象を理解するためには、その事象を細かく分解し、統合して解決するという考えもあるかもしれませんが、これは“抽象化の罠”ですよね。人間は本来、本当は分解できないオーガニックな存在のはずです。

デザイナーは、一人の人間を想定して、その人のためにものづくりをするんです。そこを諦めたくないというのが、僕の理想です。そして、それを実現していくためには統合思考が必要で、その方法の一つが「デザインエンジニア」だと思っています。

後編では…

「デザインエンジニア」というのは、単なる肩書きではなく、そこには田川さんが学生時代から追い求めてきたものづくりに対する強いこだわりが込められていました。続く後編では、ものづくりの先にいる一人のユーザーと向き合い、日々チャレンジと成長を続けるTakramという組織のあり方に迫っていきます。

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