【後編】「『飽きる』ことはAIにはできない」 AIの時代に求められるスキルと働き方とは?

マネたま新幹線

2018/11/14
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今のAIは学習しつづける

編集部 : 森さんはいつからAIの研究を始められたんですか?

森正弥(以下、森) : 今のAIブームの起点は、2012年の「ディープラーニング」という技術の再発見からきてるんです。ディープラーニングは、コンピューターサイエンス60年の歴史の中でも最大の技術と言われています。ディープラーニングの結果、研究者はAIを無視できなくなっているんですよ。

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森正弥(もり・まさや)
楽天技術研究所所長。慶應義塾大学卒業後にアクセンチュア株式会社へ入社し、大手企業の経営基幹システムや官公庁向け大規模システムの設計プロジェクト、先端技術活用のコンサルティングなどに従事。2006年に楽天へ入社し、楽天技術研究所の設立と運営に携わる。同社での活動のほか、企業情報化協会(IT協会)常任幹事、情報処理学会アドバイザリー、日本データベース学会理事、科学技術振興機構プロジェクトアドバイザー、APEC(アジア太平洋経済協力)プロジェクトアドバイザーなどを歴任。著書に『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社、2010年)など。

編集部 : ディープラーニングとAIの関係をもう少し詳しく教えていただけますか?

森 : AIは、実は定義がない言葉なんです。定義するとしたら、人間の行っている情報処理の中でコンピューターが実現できたもの、みたいなことになります。そのAIだといえる領域の大部分はディープラーニングによって大きな成果をみています。そして、ディープラーニングは、例えば、プロの翻訳家よりも高い精度の翻訳をしちゃったりとか、世界で一番強い囲碁のプレーヤーに勝ってしまうとか、人間の能力を超えちゃってるところがあるんですよ。

柳橋仁機(以下、柳橋) : 囲碁も将棋もAIが大活躍してますからね。

森 : 簡単にイメージしやすく言うと、今の人工知能って「学習」してるんですよ。学習して精度を高めている。一方で、はるか昔の人工知能は「計算」してた。囲碁で例えるなら、昔の人工知能は、何が一番良い攻めの一手になるかを計算して、「最善の手」をずっと打っていました。その場合、人間である棋士も勝てるわけですよ。常に最善の手を計算するというコンピューターの癖がわかるから。けれども、今の人工知能、つまり、ディープラーニングは、わざと悪い手を打って誘ってきたりもするんです。その誘いに棋士を乗らせて追い込んでいく。

例えば、2016年、AlphaGoという囲碁の人工知能が史上最強とも謳われた囲碁のイ・セドル棋士と対局した際に、ある局面で急に変な一手を打ったんですね。解説者たちからも「これはなんでしょう?」「ミスですね」と完全に悪手だと思われました。しかし、対局の終盤、悪手だと思われたその一手が重要な一手であったことがわかって、みんなびっくりしたという話がありました。

柳橋 : でも、寂しいといえば寂しいことですよね。コンピューターを信じるしかないというか……例えば、裁判でもコンピューターが機械的に判決を下す時代が来るんでしょうか?

森 : その辺りは結構、議論がなされています。人間が間違うのは当然なんだけど、「それでもやっぱり人間が判断すべきだ」という意見が、倫理的な観点からの主流になっていますね。

柳橋 : スポーツの世界でも似たようなことがありますよね。ビデオ判定を取り入れたほうが正確になる。でも、間違っててもいいから、人間が審判をすべきだって。俺はどっちかって言えば後者派ですね。審判の誤審も面白いから。

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柳橋仁機(やなぎはし・ひろき)
株式会社カオナビ代表取締役社長。1975年生まれ。2000年3月、東京理科大学大学院基礎工学研究科電子応用工学専攻修了。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社し、業務基盤の整備や大規模データベースシステムの開発業務に従事。2002年アイスタイルに入社。事業企画を担当したのち、人事部門責任者として人材開発や制度構築、管理体制の整備などに従事する。2008年に株式会社カオナビを創業し、2012年に顔写真を切り口とした人材マネジメントツール『カオナビ』をクラウドサービスとして提供を開始。

森 : 1997年にコンピューターにオセロのチャンピオンが6連敗したことがあります。それがこの議論をめぐる一つの転換だったんだと思います。そして実は、それ以降、オセロの競技人口って増えてるんですよ。要するに、「勝つ」ということよりも、「楽しむ」ということの方が大事だよね、ってみんなわかってるんです。だから、機械的判断よりも、「人間らしさ」がスポーツには大事だっていう価値観は今後も残っていくと思います。

柳橋 : もしかしたら人工知能の発達の結果として、「『人間らしさ』とは何か」がわかってくるということになるのかもしれませんね。

ユーザーの多様化にマーケティングは追いつけない…?

編集部 : 森さんの研究テーマには「人類の個別化」というものもあると伺いました。

森 : 人類の個別化、英語で、インディビジュアライゼーションと呼んでいます。先日、旅行で使うために、ヨーロッパのスタートアップがつくっている空気で膨らむハンガーを買ったんです。Webページも日本語だったし、なんと送料も無料で、とても便利だった。今はECが発達して、まるで日本にいるような感覚で時間・場所を問わずなんでも買えます。でも、20年前は、ECがそんなに発達してなかったから、時間や場所が限定されてしかモノを買えなかった。

これが意味しているのは、ユーザーは自然に「多様化」できる、している時代にきているということです。今はユーザーが時間的にも空間的にも制約されない。だから、ユーザーをクラスタごとに分けてマーケティングしようにも、そもそも無限に分類できちゃうんです。100万人いれば、100万通りの選択肢があって、インターネットを通じて、自分の好みを見つけ出すことができる。そして、ユーザーは思うままに行動していて、気が付いたら、自分ひとりだけの好みを表現している……これを「個別化現象」と僕は呼んでいます。ユーザーの多様化を推し進める技術やサービスがどんどん進歩していて、ユーザー自身の振る舞いも常に新しいものになっていくから、過去のデータを蓄積してずっと分析に使っていくことにそもそもの意味がなくなります。例えば今現在のデータ分析は5年後には何の役にも立たなくなるかもしれない。スマホが登場したことにより、スマホが登場する前のユーザーの振る舞いのデータには意味がなくなったように。

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柳橋 : その時、企業がやらなきゃいけないことって、いったい何ですか?

森 : 一つ、僕が知っている面白い事例は「プロダクトランキング」です。ユーザーからのリクエストで、ユーザーに提供している商品の売上ランキング情報の種類を増やしてくれって言われて、800から4000に増やしたんですよ。その結果、全体の売り上げが爆上がりしたんです。普通の感覚では、目の前に4000もの商品ランキングがあったら、探すのに疲れちゃって、自分の好きな商品なんて見つけられないと思うじゃないですか。でも、結果は逆だった。ユーザーはジャンルを一つひとつチェックして、検討したりなんてしないんですよ。検索で一気に欲しい情報へと飛んでいけるから。一つでも多く並べておけば、その分、ヒットする確率が上がるわけです。インターネットによって好みはより細分化されていくから、そのために企業は商品のラインナップを充実させておく必要があるんですね。これは、いわゆる「ロングテール」と呼ばれる現象ですね。

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