2016/08/18 公開

「社畜撲滅」がミッション。シェアハウスから生まれた渋家株式会社が提唱する、新しい働き方。

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渋谷の一軒家を拠点に、幅広いジャンルのアーティストやクリエイターが活動するアート集団、渋家(シブハウス)。24時間、365日自由に開放されたこの場所から、様々なプロジェクトが形となっています。そんな渋家が2016年、渋家株式会社を設立しました。

今回はご自身も演劇を続けられながら、渋家株式会社の取締役を務める松島やすこ氏にお話を伺いました。「無理をしてでも働くことが正義」というIT業界で働いた後、取締役として携わった渋家で松島氏の考えはどのように変わったのか。「労働」よりも「活動」を大切にしたい、という新しい働き方の提案を含め、興味深いインタビューとなりました。

家を基盤としたアートプロジェクト、渋家(シブハウス)

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ー 松島さんの起業に至るまでの社会人経験についてお聞きしてもよろしいでしょうか。

松島:私の本職はWEBディレクターです。元々出版社に行きたかったのですが、WEB系の会社に就職してからは毎日朝3時まで働く生活を2年間くらい続けました。しかし、どうしても編集や舞台の夢も諦められなくて……そんな時に先輩に「若気の至りは25歳まで」と言われたことを思い出し、24歳の社会人3年目の時、転職して今に至ります。

現職では起業するぶんには副業を許可されているので、週に5日会社員をしながら夜と土日を使って渋家株式会社を運営しています。

ー アートプロジェクトである渋家についてお聞かせください。

松島:うちの役員である齋藤恵太が「家を基盤にアートプロジェクトをやっていけないか」と考え、それを元に作られたのが渋家というシェアハウスです。シェアハウスと言っても、単純に住むための場所ではありません。いろいろなアーティストが集まることで新しい関係性が生まれ、そこからまた新しい演劇やアートを創造していこうと始めたプロジェクトです。そうしてアーティストが長く活動していける環境をシェアハウスという「家」をベースに作っていこうというのが渋家のコンセプト。会社もこの考えをもとに同じ方針で運営しています。

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ー 確かに、アーティストが集まる家からは様々な関係性が生まれてきそうですね。ただ、渋家はシェアハウスを通じたアーティスト支援が主目的なわけではないのですよね?

松島:はい。お金のない若者たちがみんなでシェアハウスに住んでいる、というと「支援」と取られますが、住人、運営側としてはあくまでも「コミュニティを作るアート」だと思っています。渋家株式会社はイベント演出・企画に携わる事業を中心とし、様々なアーティストを巻き込んだプロジェクトを計画しています。

たとえば、シェアハウスから巣立ったアーティストが仕事を求めて渋家に来ます。するとそこに情報が渋家に蓄積され、さらに住人たちはその新しい情報を共有することでアーティストが育っていける環境ができあがっています。シェアハウスがハブとなっていろいろなアーティストがつながっていき、リソースが循環しながらアーティストたちが仕事をする地盤を整えていこうというのが、私たちのねらいです。

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起業に必要なのは、当たり前のことができる管理能力。

ー 渋家メンバーの座組の部分についてお聞かせください。渋家が運営するシェアハウス「渋家」の中心となった方はどなたでしょうか。

松島:現在、渋家株式会社の社長である山口、YAVAO(ヤバオ)というアーティストネームで活動している小池、そして齋藤の3人がシェアハウスの初期メンバーです。

YAVAOは「huez」というユニットでVJとして照明や映像などの空間演出をしていました。そこで演出に必要な機材のレンタルや、演出などがビジネスにできると気づいて。そこで「huez」の事業化を考えた際、職人気質のYAVAOよりも依頼を捌くのが得意な山口がジョインしたんです。これが一昨年の12月くらいですね。

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ー アーティストとして活動されてきた方々と事業に携わるのは、やはり困難も多かったのではないでしょうか。

松島:そうですね。3人は「俺たちで新しいカルチャーを作ろうぜ」という典型的なアーティスト。私が働いていた一般企業ではまず出会わなかったタイプの人たちでしたから(笑)さらにここからはプライベートな話になるんですが、そんなYAVAOと私が付き合うことになりまして。

ただ、付き合う中でお金の管理や仕事に対について、一般的な社会人とは少し乖離があるかもしれない、とも思っていました。山口も学生演劇をやっていた頃、劇団のお金でトラブルになったことがあって。「お金に関して不安な恋人と山口が一緒に事業を始める、これはやばいぞ」と(笑)

ー なるほど、管理が苦手そうな2人が事業を始めると知り、ジョインされたのですね。

松島:そうですね。「請求書を出すの忘れてお金が振り込まれてこない」、「30万円の案件を5万円で引き受けた」なんて話ばかり(笑)でも、彼らにはアイデアがある。そうした面白い発想を支えながら、起業するには会社員として当たり前のことができる、管理能力を持つ人が必要なのではないか、と思いました。それで去年の5月くらいに「私が会計を手伝うから、チームに入れてくれない?」と提案しました。渋家株式会社は、この山口、齋藤、YAVAOのメンバーに、私と山下を加えた5人が中心となって運営しています。

ー?それぞれの役割について教えてください。

松島:YAVAOがアイデアや作品を創り、それを売る山口、そしてオペレーションをする山下の3人が現場チームです。齋藤はコンセプトや後のトレンドを考えて、中長期的な営業をメインの業務にしています。意見を第三者の視点を含めて言ってくれるので、監査役という立場でもあります。私は総務を全体的に行っています。

会社としては今後も、入社を希望する人が「面白いことをやりたい」という意思を持っていて、その人の力をしっかり活かせる環境を与えられるのであれば、誰でも受け入れようと思っています。

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次ページ:働くことに対する意識の変化。「無理をしてでも働くことが正義」から「社畜撲滅」へ。

「身を粉にして働くことが正義」というIT企業の文化から、「突き詰めたい」を仕事にする文化と環境を整える。

ー 前職のIT企業と渋家株式会社で特に大きいと感じる違いはありますか。

松島:元々私がいた会社は、「無理をしてでも働くことが正義」という空気でした。でも、渋家のメンバーは「休む時は絶対休め!」と言い切ります。本人に自覚はなくても、どのタイミングで休ませるべきなのかを周りが把握しているんです。このことは会社を運営するうえで疎かにできません。今では「社畜を撲滅したい」とも思いますね。

ー 周りに「休むべき」と言われた際、「でもここで頑張っていたら」と悔しい経験をしたことはありませんか。

松島:それは私だけでなく、他のメンバーにもあると思います。よく議題にあがるのが「仕事と活動をどの程度両立させるのか」ということ。これはうちのメンバーが言う、3つの行動からあがる話題です。

ー 3つの行動について、詳しくお聞かせください。

松島:自分たちの行動には「労働・仕事・活動」の3つがあります。「労働」はやらされているもの、「仕事」はある程度自分の意思はあるものの、最終的な対価としてお金が発生するもの、そして「活動」はお金が関係なくとも、自分が突き詰めたい目的として取り組む行動です。

ー 松島さんにとって、渋家株式会社はどれにあたりますか。

松島:我々は「照明の演出をしたい」というアーティストが作った会社なので、元々「労働」という側面は小さく、むしろ「仕事」に当てはまります。それを「活動」に昇華させるためにはどうすればいいのか……というのが現状の課題です。私個人としては、普段勤めている会社で「仕事」をする一方で、自分の立ち上げた会社で働きながら土日には演劇の稽古をしています。私の中では演劇は「活動」で、渋家は「仕事」というより「活動」にあてはまります。そういう意味でバランスを保っていられると思います。

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ー アーティストの方は、特にその「仕事」と「活動」のバランスを保つのが難しいのではないでしょうか。

松島:やはりアーティストは「仕事」に時間を取られてしまうと、創作する時間がなくなってしまいますよね。「活動」のためにリソースが割けない。そのことに関して悩みを感じている人が多いんです。それを解消するために、今度の10月に会社で演劇公演をやるんですけれど、「仕事」のうえに「活動」があるのではなくて、むしろ同じ地盤に置いてしまおうという意図があります。会社でやる以上はもちろん黒字は出さなければと思ってはいますが、作品をきちんと作り上げるという面で「活動」をする、自分の時間を「活動」に使えないぶん、それを会社でひっくるめてやってしまおうと。それについては今模索している状態ではありますね。

労働をなくし、仕事を活動に昇華させ、「社畜を撲滅する!」

ー 先程のお話にもあった「社畜を撲滅したい」という考え方についてお聞かせください。

松島:私は「劇団員にならないか」というお話もいただいていたので、プロになる選択肢もありました。でも私は自分に演劇の才能があるわけではないとも思っていたし、社会で働いたほうがもっと多くの人と繋がれるだろうと社会に出ることを前向きに考えていました。そのため、演劇でプロにならなかったことに対して「会社員なんて逃げだ」と言う人や、「今日は8時まで働いたから社畜だ」と会社員になったことを恥じるような発言をする人のように、ネガティブなイメージのある「社畜」という言葉をすぐに使う人に疑問を持ちました。

ー 「社畜」は完全に「労働」としての言葉ですね。

松島:私はそこに自分の意思があるべきだとも思います。「社畜」なんて自分から言いたくもないし、言われたくないとも思っていました。私自身、社会人になっても演劇を続けたり会社を立ち上げたり好きなことをしています。そうした経験から選択肢はいっぱいあるというメッセージを広めていきたいと思っています。

ー 会社としての目標についてお聞かせください。

松島:規模を大きくしていきたいです。元々渋家は「コミュニティを作る」という目的に重きを置いています。過去には50人くらいの人が住んでいた大所帯だったこともありますが、会社員になってどこかに行ってしまった人や、売れて海外に行ってしまったような人たちを再び会社に取り込むことをしたいですね。

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ー 既存の働き方について疑問を持ったことをきっかけに「労働」を「活動」に昇華させようとする動きは、企業の環境づくりを見直すきっかけになるように感じました。本日はありがとうございました!

編集後記

「勉強を楽しめる」性格の持ち主だという松島さんは、ギャルが会社立ち上げに関わるブログというメディア執筆を通じて会社の運営における専門的な知識をわかりやすく解説しています。「ギャルのキャラがあることでコミュニケーションが円滑になった」と語る通り、セルフブランディングへの取り組みの一環として始めたこのブログですが、難しい専門知識ではなく、中間層向けのライトな知識を発信することで、クライアントからも良い評判を得ているとのことでした。

そんなセルフブランディングの先にあるのは、「社畜撲滅」というミッション。かつては「身を粉にして働くのが正義」という企業文化のなかで働いていた松島さんが、どんな価値ある「活動」を世の中に広めていくのか、これからも注目です。

渋家株式会社:http://huez.tokyo/

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