清野とおる おもしろいことは、半径2~3m以内に転がっている【後編】

失敗ヒーロー!

2020/06/24
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華々しい成功の裏には、失敗や挫折がある。その失敗エピソードから成功の秘訣をヒモ解く『失敗ヒーロー!』。前編に引き続き、漫画家の清野とおるさんが登場。清野さんの出世作である『東京都北区赤羽』の魅力は、何といっても強烈な登場人物たちです。『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』にも特異な「おこだわり」を持った人たちが登場しますが、こうしたインパクトの強い面々を見つける独自の審美眼は、どのように築かれたのでしょう? この疑問をヒモ解くとともに、壇蜜さんとの結婚生活にも迫ります!

清野とおる(せいの・とおる)
1980年生まれ、東京都出身。高校在学中の1998年に「ヤングマガジン増刊青BUTA」掲載の『アニキの季節』で漫画家デビュー。2008年より携帯コミックサイト「ケータイまんが王国」で自身が住む赤羽を舞台としたルポ漫画『東京都北区赤羽』の連載を開始。後にドラマ化されるほどのヒット作に。ほかの主な作品に『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』『ゴハンスキー』『清野とおるのデス散歩』などがあり、現在は「東京ウォーカー」にて『東京怪奇酒』を連載中。

今の自分を知るには、周りの人間を見ればいい

――前編では『東京都北区赤羽』に至るまでのお話を聞かせていただきましたが、この作品の魅力は実在するディープな登場人物たち。清野さんはなぜ、これほどまでにディープな人たちと出会えるのでしょう?

清野とおる(以下、清野):それはもう、赤羽の持つ力ですよね。僕自身の能力ではありません。実在の人物をネタにしているからか、無類の人間好きだと思われることも多いんですよ。でも、人間好きの自分がいる一方で、人間が大嫌いな自分もいるんです。今は正直、人間大嫌いな自分が頭をもたげている気がしますね(笑)。『東京怪奇酒』なんて、お化けを題材にした連載をしているのも、その裏返しですよ。居酒屋やスナックを取材するのはおもしろい反面、人間のしがらみが渦巻いていますからね。一方のお化けは怖くても、面倒くさくはないじゃないですか。掲載交渉も原稿チェックも、献本の必要もありませんから(笑)。

ただ、自分が引き寄せていた側面も、あるとは思うんですよ。『東京都北区赤羽』を描き始めたのは、どん底の時代。足掻きに足掻いて、ノイローゼに近い状態だったと思います。だからこそ、赤羽の強烈な人たちと出会えたし、仲良くなれた気がするんです。類は友を呼ぶというヤツですよ。飲み屋を取材していると歴然なんです。ダメなお店にはダメな常連さんが集まるし、反対にきちんとしたお店には、きちんとしたお客さんが集まります。これと同じことだと思いますね。今現在の自分の状態を知りたければ、自分の周りにいる人間を客観視してみる。映し鏡というか、これは一つ、言えることだと思いますね。

――なるほど。その一方で清野さんは「ネタ探しのつもりで街を歩いても、ネタには出合えない」というお話もされていますね。

清野:これが不思議なことに、本当にそうなんです。ネタ探しのつもりで街に出ると、全く何も起こらないんですよ。赤羽に住んでいると、とんでもないことが毎日のように起こるので、次第に欲が出てきたんですね。「これはネタになるぞ」と準備万端。ネタ帳もデジカメも持ち歩くようにしました。すると、何も起きない。それが「これまでの強烈な出来事は勘違いだったのか」とネタ探しをやめると、今度はネタの雨が降ってくるんです。

――となると、ネタが降ってくるのを待つしかない?

清野:いや、そこが難しいんですよ。かといって全く探そうともしないと、当然、何も見つからないんです。どうすればいいのか、僕も考えましたね。そこでわかったのが、省電力モードでいること。探さない体といいますか、一応は無心の状態で街を歩きつつ、視界の端のほうに、わずかにアンテナを張っておくんです。そして視界の端がネタを察知したら、一気に全力でキャッチしに行く。ボーッと生活している振りをしていると、まるで達磨さんが転んだのように、あちらからスーッと近づいてきてくれるんです。不思議ですよねぇ。

数字で示すとしたら、常に20%の状態をキープしておくようなイメージですね。ネタ探しのスイッチを20%だけオンにしておいて、察知した瞬間に100%まで振り切る。『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』が連載として成立したのも、省電力が身についていたおかげのような気がします。なぜなら「おこだわり」は、趣味とは違うんです。けっして他人にアピールしない、自分自身も気づかないくらいに自然な行動でありながら、実は執拗にこだわっているのが「おこだわり」。だから、「あなたの『おこだわり』は何ですか?」なんて前のめりに探しに行っても意味がない。省電力の状態で、ふと察知するものなんです。

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