清野とおる「もう赤羽しかない」足掻いた末の最終手段【前編】

失敗ヒーロー!

2020/06/23
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ブログから始まった『東京都北区赤羽』

――しかし清野さんは、どん底の5年間を乗り越えます。赤羽への引っ越しが転機かと思いますが、『東京都北区赤羽』はそれまでの不条理ギャグから一転、事実に基づいたルポ漫画。創作からルポへの転換に、葛藤はなかったのでしょうか?

清野:いや、不条理ギャグからルポ漫画にガラッと作風を変えたわけではなく、赤羽を漫画にすることは、結果的には、最後の切り札でした。とにかく時間だけはあったので、暇を持て余すように赤羽をぷらぷらしていた時間が助けになったとは思います。なにせ街に出るたびに、漫画レベルの出来事に遭遇していましたからね(笑)。その出来事をネタ帳や写真に残してはいましたが、漫画にしようとは考えもせず。当時はまだ、不条理系のギャグ漫画を描いては持ち込みをする毎日だったので、赤羽での出来事が漫画になるなんて、思いもしなかったんですよ。

ただ、ずっと足掻いていました。どんなにネームを描いてもボツになり、持ち込みをしても相手にされず、自分の漫画が一向に世に出ない。そこで個人のホームページを立ち上げて、昔のイヤな思い出を漫画にして載せたんです。すると不条理ギャグ漫画とは温度も質感も違う、好意的な反響があったんですよ。赤羽を漫画にしたのも、この延長です。イラスト入りのエッセイとして、赤羽で遭遇した出来事をブログに綴り始めたところ、多くの人から注目してもらえたんです。

「こんなにウケるなら、赤羽を漫画にするしかない」。足掻いた末の最終手段ですよね。最終手段である以上、葛藤も何もありません。漫画家として生きていくための選択だったんです。そこから漫画の体裁として描き始め、編集部への持ち込みを始めるという流れでした。でも、当時の僕は、何も結果を出していない無名の漫画家。いや、しばらく連載してなかったので、漫画家ですらなかったかも。

しかも『東京都北区赤羽』には、実在の人物が写真入りでバンバン出てきますからね。編集部の人からしたら、リスクしかないじゃないですか。当然のことながら、全く取り合ってもらえなくて(笑)。

成功の秘訣なんてない、とにかく足掻くだけ

――確かにハードルの高い作品ですね(笑)。しかし、実在するディープな人たちこそ、『東京都北区赤羽』の大きな魅力です。

清野:そんな時に声をかけてくれたのが「Bbmfマガジン」という、携帯コミックの編集者だったんです。当時は携帯コミックの黎明期。紙媒体の漫画誌と比べると、良くも悪くもプロの編集者がいなかったんですよ。僕に声をかけてくれた方もぜんぜん編集者っぽくない、ふつうの優しいお姉さんでしたし。ただ、それが功を奏しました。「実在の人物が登場していても、いいじゃないですか。問題が起きたとしたら、謝ればいいじゃないですか」というスタンスのおかげで、『東京都北区赤羽』の連載が決まったんです。

――プロの編集者がいない黎明期の携帯コミックに、まずは賭けてみる。その柔軟さが、成功の秘訣のように思えますね。

清野:いやいや、全くもって柔軟じゃないですよ。ホームページやブログを始めたのも、赤羽を漫画にしたのも、携帯コミックに乗っかってみたのも、僕からしたら五里霧中の暗中模索の七転八倒で、ひたすら足掻いていただけなんです。「とにかく、いろいろなことに手を出して、このまま30歳までに連載が決まらなければ、もう諦めよう」。そのくらいに追い込まれていましたから。恥ずかしい話、当時は毎日のように無料の求人誌を眺めていましたね(笑)。求人誌を眺めていると、未経験でも職に就ける年齢のボーダーラインって、だいたいが30歳なんです。だから、30歳まではとにかく足掻こうと。

こんな風だから、僕には成功の秘訣なんてわからないし、今でも怖いくらいです。描きたいネタは湧いてきても、それが評価されるとは限らないし、漫画として仕上げるだけの体力も衰えつつあります。しんどいんです。ただ、30歳という期限を設けたことだけは、良かった気がしますね。同じ悪足掻きでも区切りを設けるだけで、足掻きの度合いが変わってくるじゃないですか。足掻けば足掻くほどに、盲目になるのも確かです。そこでかすかなチャンスのサインに気づけるかどうかは、やっぱり運だと思います。「こうしたら、こうなる」なんて定義は存在しないと思うし、そうである以上、とにかく足掻くほかない。足掻いた結果が、『東京都北区赤羽』だったんですよ。

後編では・・・

30歳という区切りを決め、足掻きに足掻いたからこそ、生み出すことのできた『東京都北区赤羽』というヒット作。この漫画の魅力は清野さんが実際に赤羽の街で出会った、ディープな登場人物たちです。あまりにも強烈なキャラクターゆえに、気になるのが漫画の根幹を成すネタ探し。そこで後編では清野さん流のネタ探しをヒモ解きつつ、2019年に結婚された壇蜜さんとの新婚生活にも迫ります!

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