「好きなことを続ける自分を、自滅させない」佐藤健寿

弟子入り!マネたまくん

2017/12/14
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米国の美大で学んだ「商品として成立させる」視点

――“作り逃げ”ですか(笑)。しかし版元からすれば、収益を考えざるを得ません。ところが実際に発売された『奇界遺産』は税込み4014円。その攻防に勝利したと言えますよね。

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そうとも言えますが、テクニックで勝ったわけではないので。訴え方としてはもう最後は「これだけやって安っぽい本しか作れないなら、もう出版なんか終わりでしょう」という、気持ちの問題ですよね。ただ、この部分が通じる出版社だと確信していたからこそ、エクスナレッジに持ち込みました。そもそも以前から付き合いのあったエクスナレッジの編集者の方が、副社長(現在は社長)に昇進されたという情報を知ったという側面も、大いにあります。「これなら、僕のワガママも通るだろう」と(笑)。

だから正直、大手出版社かどうかとかそういうことよりも、好きなフォーマットで作らせてくれて、かつきちんとした流通経路を持っている、という部分が、出版社選びで一番重要な問題でした。

――確かに副社長なら、かなりの権力をお持ちでしょうからね(笑)。そうしたお話も含め、やはり佐藤さんにはマネジメント的な視点を感じます。

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マネジメントというか、客観的な視点でしょうか。作品をつくるときには主観的になるべきですが、その作品を世に出す、いわば売り出すときには、客観視が必要だと感じています。これは恐らく、アメリカの美大で学んだことです。日本の美大は、いい意味で非常にピュア。作品を講評するにも、写真そのものの良し悪しを講評します。

僕が通った学校に限ったことかもしれませんが、アメリカの美大の場合、作品の良し悪しについては論じません。人種もアートに対する立場も、いろいろな人が集うからでしょうか、「表現は人それぞれ」。一通り感想は言わされますが、最後はだいたいその一言で終わりです。かえって厳しく講評されるのが、額装やプレゼンテーションの部分。プリントの微妙なズレですとか、写真を押さえるマット紙の汚れですとか、写真のコンセプトをきちんと説明できるかどうかとか、「その作品が商品として成立するのか」という点が、評価を大きく左右します。

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エゴで撮るだけなら「奇界」という定義もいらない

――それは非常に興味深いお話ですね。

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この評価視点は、アーティストを一つの職業として成り立たせるためのハウツーですし、実際に成り立っているからこその文化だと感じました。日本の場合、アーティストが経営視点をもつこと自体に議論が生じますよね。一番有名な村上隆さんがよく叩かれたりしているのなんて、その最たる例だと思います。よく言えばピュアですが、悪く言えば日本ではアートが市場としてまるで成立していないからこそだと。

写真集のタイトルに用いた“奇界”という造語に関しても、ある種、必要に迫れて考えたものです。自分の好きなものを撮っているだけですから、本来は言葉としての定義はいりません。しかし写真集として出版するとなると、話は別ですから。

――自分で楽しむ分には、定義づけはいらない。ご自身の作品を手に取ってもらうため、何か分かりやすいフレーズを添えるという感覚でしょうか?

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そうですね。写真集には単純にタイトルが必要ですし、やはり何も分からない状態では、読者も手に取りづらいですから。アメリカでは、アーティストも特権的な仕事ではなく、良くも悪くも一つの職業です。先ほど“作り逃げ”という話をしましたが、職業である以上、アートとしてのクオリティをキープしながら、手に取ってもらうための仕掛けは考えるべきです。

もっと言えば、僕自身、「写真家を名乗っておきながらテレビに出るなんて、かっこ悪いんじゃないか」という思いもあります。しかしテレビに出たことで、もともとは何の接点もないような人たち、例えば普段本なんか読まなそうなギャルみたいな女の子までもが、興味をもって、僕の写真集を買ってくれたりもする。こういう、ランダムな衝突が起きるのは、テレビならではの面白さです。

そしてもしかしたら、いずれ本を買ってくれた子が海外や変わった文化に興味を持つきっかけになって、そこでまた異物と異物の衝突が引きこされて、何かが生まれるかもしれない。それが最初に話したような、内容と商業性のバランスをとりつながら僕が好きなことを「継続」したいと思う理由でもあります。僕は“アート信仰”一辺倒にはなりたくないし、そうならないことが、“奇界”を撮り続けるための術だとも思っています。

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まとめ

幼い頃から好奇心の対象だった、奇妙な世界を追い続ける佐藤さん。まさに「好きなことを仕事にしたい」と考える人には、憧れの存在です。しかし、「好きなことを仕事にする」という現在を支えていたのは、「作品を商品として成立させるための術」でした。

興味を追い求めるピュアさを重んじてしまい、佐藤さんの言う“アート信仰”や“純文学信仰”に陥りがちですが、好きなことを続けたいからこその冷静な視点に、ハッとさせられるばかり……。そして佐藤さんは、『奇界遺産3』制作の真っ最中だとか。今度はいったい、どんな“奇界”を見せてくれるのか、期待もふくらむマネたまくんでした。

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