2017/12/14 公開

「好きなことを続ける自分を、自滅させない」佐藤健寿

弟子入り!マネたまくん

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今回、弟子入りさせていただくのは……

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佐藤健寿(さとう・けんじ)
世界各地の“奇妙なもの”を対象に、博学的・美学的視点から撮影・執筆。世界の奇妙な情報を集めたWEBサイト「X51.ORG」を主宰し、写真集『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)は異例のベストセラーに。「グレートジャーニー」(TBS系列)を始め、テレビやラジオ、雑誌への出演も多数。

「10%のものを1000人に届ける」という自滅しない術

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日本のアート界には「作品を商品として捉えるなんて、かっこ悪い」という感覚があります。けれど、僕は考えてしまう。自分の言いたいことを100%詰めたものを100人に届けることと、10%詰めたものを1000人に届けることでは、どちらがアーティストの態度として正しいのだろう、と。

僕自身、写真を撮るときは没頭しています。そこには100%、主観しかありません。ただ、その作品を写真集として発表するとき、どうしても商品としての側面が生じます。タイトルはどうするのか、値段はどうするのか。世に送り出すには、客観性が必要です。その客観性から、作品を商品として成立させる、ぎりぎりのラインを探る。自分の言いたいことを薄めずに、どれだけ多くの人に届けるかは毎回、駆け引きです。

100%のものに対する100人の共感は、とても深い。しかし100人にしか届かないようでは商業的に行き詰まり、そこで終わってしまう。“伝説の1号”だけで、終わってしまうんです。一方、10%のものを1000人に届け、きちんとマネタイズした上で10号続けられたなら、どうでしょうか。アートの観点からも、より多くの人に影響を与えられるはずです。

アーティストとして、どちらの姿勢が正しいのか、それは分かりません。僕も別に10%まで薄めているわけでなくて、実際には60%だったり、80%だったり、それはケースバイケースです。ただ、主観と客観のバランスを取り、落としどころを見つけていく。それはいわば、自滅しないための術です。好きなことを続ける自分を、自滅させない。そのことこそ、好きなことを仕事にする方法ではないでしょうか。そして結局、「続ける」ということは自分の本を好きでいてくれる読者のためでもあると思います。

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あらゆる文脈の結集が生む「誰も見たことのない一冊」

――ベストセラーを記録した『奇界遺産』、そして『奇界遺産2』。好奇心を刺激される“奇界”な場所ばかりですが、こうした場所は、どのように見つけているのでしょう?

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よく聞かれることですが、面白い答えは何もなくて。この本に載っている場所のうち、世界で初めてメディアに紹介される場所って、そんなにないはずです。つまり、別に全部が全部、僕が発見した場所ではない。例えば『奇界遺産』の冒頭に載せた洞窟の村にしても、中国の新聞ではだいぶ前に紹介されています。

要は、組み合わせじゃないでしょうか。僕は子どもの頃から「ナショナルジオグラフィック」に載っているような洞窟の村ですとか、「ムー」に載っているようなUFOの話題が大好きでした。ただ、こうした奇妙な場所や現象って、ほかの表現方法が一切ない。ミクロネシアのナンマドール遺跡にしてもそうです。考古学系の本には載っていますが、表参道の美容室に置かれるような本には、けっして載っていません。

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――なるほど。いわゆる超常現象が好きな人には当たり前の場所も、そうではない人には、ものすごく新鮮に映るという。

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そういうことだと思います。例えば、洞窟の村とロズウェル(アメリカのUFO事件の名所)が一緒に乗っている本は今も昔も多分ないし、もっといえばそこに漫☆画太郎先生が絡んでいる本なんてあるわけもない。そうやって多様な文脈にフックさせながら、それをある整合性をもって見せられるかどうかが一番重要なことです。

考古学も超常現象も、宗教的な観念も、あらゆる文脈から“奇界”として選んでいるため、結果的に「誰も見たことがない一冊」になるのでしょう。誰かは知っているけれど、誰かは知らない。そういう場所に、ジャンルの垣根なく出向いている感覚です。もっとも別にそれはすべて狙ってやったわけではなくて、自分が好きなものをいかに詰め込むかと考えた結果、そうなったということでもあるんですが。

好奇心に従っているうちに「写真家になっていた」

――そもそも、そうした“奇界”を撮り始めたきっかけは?

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具体的には日本の美大を卒業後、カリフォルニアの美大に通っていたときのことですね。「別の州を撮影してこい」という課題に対し、“UFO陰謀論の終着駅”と言われる、ネバダ州のエリア51を訪れたのがきっかけです。「これを見せたい、こう表現したい」という欲求より、そうした場所に行き、そうした場所を写真に撮ることが、単純に面白かった。

珍しい場所や現象に対する好奇心ですよね。好奇心に従っているうちに、気づいたら写真家になっていたという感覚なので。だから写真家という肩書きが「仕事なのか?」と聞かれたら、ちょっと微妙ですね。仕事という感覚も、あるにはありますが。

――「仕事」という観点ですと『奇界遺産』を出版された際、「出版社側から『4000円という価格設定は高い』という指摘があった」というエピソードを拝読しました。価格設定はどうするのか、これはマネジメントにも通じるお話です。

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編集者や営業部の方から、そうした意見がありましたね。「高いと売れないから、分冊にして2000円にしましょう。そして一冊目が売れたら二冊目を」という提案だったので、「それではダメなんです」という攻防はありました。「分冊にするなら、やめても構いません」くらいの。

そもそも『奇界遺産』はビジネスにしようとは、まったく考えていなかった。「作品がたまってきたから、本にしたい。本にするなら、自分が最も気に入る形にしたい」と。ほとんど僕のエゴで企画した写真集です。だから正直、バランスは意識しましたけど、売れようが売れまいがなんて考えてなくて、なんなら“作り逃げ”くらいの感覚ですよね(笑)。

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