坂口恭平 借り物の言葉を捨てよ。自分の言葉から生まれる自分の価値【後編】

失敗ヒーロー!

2020/07/10
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華々しい成功の裏には、失敗や挫折がある。その失敗エピソードから成功の秘訣をヒモ解く『失敗ヒーロー!』。前編に引き続き、芸術家という肩書きにすら収まらない活躍を見せる坂口恭平さんが登場。後編では坂口さんが2011年から続ける「いのっちの電話」にフォーカス。自らの携帯電話の番号を公開し、死にたいと苦しむ人の声に耳を傾ける坂口さんですが、「いのっちの電話」の向こう側に、作家としても高く評価される彼だからこその“言葉の重み”、さらにはあるべき日本の未来像が見えてきます。

苦しみの真相は「やりたいこと」への渇望

――前編では坂口さんの半生を伺いましたが、後編では「いのっちの電話」について聞かせてください。坂口さんは自らの携帯電話の番号を公開し、「死にたくなったら電話を」と訴えています。始めたきっかけは何だったのでしょう?

坂口恭平(さかぐち・きょうへい)
1978年生まれ。熊本県出身。早稲田大学理工学部建築学科卒業。2004年、卒業論文をもとに日本の路上生活者の住居を収めた写真集『0円ハウス』を刊行。以降、小説やルポルタージュ、思想書に料理書など、さまざまな手法と観点から多くの作品を上梓。自らの躁鬱病(双極性障害)を公言し、希死念慮に苦しむ人たちとの対話「いのっちの電話」を自身の携帯番号(090-8106-4666)で続ける。近著は『自分の薬をつくる』、2023年には熊本市現代美術館にて大規模個展を開催予定。

坂口恭平(以下、坂口):最初に番号を公開したのが2011年だから、もう10年近くになりますね。でも、物心ついた時から、苦しい人を助けるのは当たり前。ただ、自分にとっては当然の行動も、母親からはとがめられていたんです。「苦しんでいる人に寄り添いすぎては、今度はお前が苦しくなるからやめなさい」と。確かにそれが、あるべき母親の姿なのかもしれない。でも、それじゃ誰も救われない。だから、僕がやるしかない。「いのっちの電話」を始めたのも、理由はそれだけ。生まれつきというか、自分に備わった本能でしかない気がしますね。

――坂口さんは、「いのっちの電話」から得た気づきとして「人の悩みは唯一、他人にどう見られているかだけ」というお話をされています。坂口さん自身も他人からどう見られているか、気にされることがあるのでしょうか?

坂口:あるも何も、他人からどう見られているのか、そればかり気にしていたのが過去の自分だから。「恭平はすごい。恭平はおもしろい」と評価されても、どこに自分のすごさがあるのかわからない。それでも評価される以上、ど真ん中に立とうとしてしまう。でも本当は、自分に没頭したかったんですよ。本を書くことにせよ、絵を描くことにせよ、音楽を奏でることにせよ、周りのことを考えずに没頭したかった。

要はね、「他人にどう見られているか」という苦しみの真相は、他人の目に映っている自分とは別に「他にやりたいことがある」という渇望なんですよ。幸いにも僕は、そのことに気づくことができた。書くことを習慣化して初めて、他人の目に映る坂口恭平と本当の自分とのあいだにあるズレ、つまりは違和感を拭うことができたんです。ただ、「いのっちの電話」を受けていると「やりたいことがない」という人が少なくない。だから僕は、その手助けをしているだけというか。

本当にやりたいことは、自分自身の記憶や経験に隠れている

――やりたいことがない、見つからない。確かに多くの人が抱える悩みですね。

▲毎日の野良仕事の様子

坂口:でも、僕にはわかるんです。声を聞いただけで、その人が何をやりたいのか見えてくる。これも僕に備わった、本能的な感覚かもしれない。同時に、今では統計でもあるんです。「いのっちの電話」を始めてから約10年。年間2000人くらいから電話がかかってくるので、累計2万人の話を聞いたことになりますから。本能的な感覚と統計から、この人が何を感じていて、本当はどんな風に生きていきたいのか、声から見えてくる。僕に見える声を、その人自身の声として引き出すためのお手伝いですね。

――例えば、どのように引き出すのでしょう?

坂口:幼い頃から大事にしていることを聞くだけ。「まずはそれを10個挙げてください。10個挙げられたら、より記憶をさかのぼって3つに絞ってください。3つに絞れたら、本当にいちばん最初に知覚した事象を教えてください」。これだけですよ。自分自身になぞらえれば、僕は4歳の時に砂としゃべれたんです。竜巻が起こせたんです。要は、自然という存在とコミュニケーションを取れたんです。

これがさかのぼるところまでさかのぼった、僕の記憶。「三つ子の魂百まで」ということわざは真理ですよ。幼い頃の性格は、年を取っても変わらないというね。僕自身、砂としゃべれた記憶をもとに『現実宿り』という小説を書いていますから。人は経験したことしか知り得ない。本当にやりたいことは、自分自身の記憶や経験のどこかに隠れているんです。

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