佐渡島庸平/コルク代表 「好き」は捕らえようとすると逃げていく。好きを仕事にする極意【後編】

逆境ヒーロー!

2020/02/19
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成功の裏には、逆境が隠されている。そんな逆境をはねのけ活躍する“インディペンデントな人たち”の成功の秘訣に迫る、『逆境ヒーロー!』。前編に引き続き、漫画家や小説家といったクリエイターのエージェント会社「コルク」代表、佐渡島庸平さんが登場。「編集という仕事が大好き」と話す佐渡島さんは、好きを仕事にしたいと思う人にとって、憧れの存在として映るはずです。そこで後編では、好きを仕事にし続けるための秘訣から仕事を共にする作家との信頼関係の築き方まで、佐渡島さんこそのマネジメント術に迫ります!

佐渡島庸平(さどしま・ようへい)
1979年生まれ、兵庫県出身。中学時代を南アフリカで過ごし、灘高校を経て東京大学文学部卒業。2002年に講談社に入社し、「週刊モーニング」編集部にて『バカボンド』『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』といった数多くのヒット作に携わる。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社・株式会社コルクを設立。インターネット時代におけるエンタメのモデル構築を目指し、作品編集のみならず、著作権管理やファンコミュニティの形成・運営も行う。著書に『ぼくらの仮説が世界をつくる』『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. 〜現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ〜』などがある。

10年先も好きなのかを考えていたら、仕事は逃げていく

――前編では「編集という仕事も、作家さんのことも大好き」というお話がありましたが、好きなことを仕事にする醍醐味とは、どこにあるのでしょう?

佐渡島庸平(以下、佐渡島):ちょうど昨日のことですね。うちの会社が運営している『コルクラボ』というコミュニティで、登山家で旧友の山田淳と対談をしたんです。彼は七大陸の最高峰を制覇した、かつての最年少記録保持者。彼は山が大好きだし、僕は本が大好きです。そこで「好きって何だろうね?」という話をしましたが、結論としては、よくわからない。山田にしても僕にしても、好きを仕事にしている人間です。ただ、僕らにとってみれば、山も本も日常。改めて好きという感情を噛みしめることがないんです。

例えば、「空気が好き!」という人はいませんよね。それと同じです。日常のこと過ぎて、好きを仕事にしているという感覚がない。好きを仕事にしているというのは、仕事をしている本人ではなく、外側の人間が言うことですよね。編集者という仕事に没頭している僕を見て、外側の人が「好きを仕事にしていますね」と評価する。むしろ僕の考え方としては、「好きを仕事に」ということを意識しては、かえって逃げていくと思う。好きという概念って、捕えようとすると逃げるタイプのものだから。

――捕えようとすると逃げる。それは、どういうことでしょうか?

佐渡島:好きという気持ちって、深化していくタイプの感情ですよね。少しずつ、少しずつ、深まっていく。恋愛を例にしてみると、わかりやすいかもしれない。女性にせよ男性にせよ、魅力的な人に出会った矢先に「これから10年先、20年先も一緒に過ごせるだろうか」なんてことを問い始めてしまったら、そこで終わりじゃないですか。魅力的な人に出会えたにもかかわらず、ずっと好きでいられるかを考え始めた結果、その人を恋愛圏外に追いやってしまう。

恋愛感情を育むには、今を楽しむことのほうが重要ですよね。一緒にいる今が、なんだか楽しい。そこから「今日は楽しかったね。だから次も一緒に、ご飯に行こうよ」という流れのなかで、好きという感情が深まっていく。これは仕事に関しても同様だと思います。就活を控えた学生が、好きを仕事にしようとする。ただ、今の好きという感情だけで10年先、20年先も勤められるかを考え始めたら、NOという答えが出てもおかしくない。

夢中になれる仕事に就いてもゲームクリアなんてありえない

――おっしゃる通りですね。それでも気になります。本好きである佐渡島さんが本に関わる仕事に逃げられることなく、好きを仕事にし続けられる理由が。

佐渡島:いや、単に手元にある仕事に夢中になっているだけなんですよ。その積み重ねに過ぎません。世間の人たちは、原因と結果を逆に見ているのかもしれませんね。手元にある仕事に夢中になっている僕を見て、「好きを仕事にしている佐渡島さんは、とても幸せそうだ」と評する。でも、それは違います。僕が幸せなのは、手元の仕事に夢中になれているからです。好きを仕事にしているから幸せなのではなく、幸せそうに仕事をしているから、好きを仕事にしているという評価がついてくるだけ。

――ただ、その夢中の積み重ねというのが、容易ではない人もいるはずです。本来なら夢中になれるはずのことも、会社という組織のルールに苛まれ、苦しくなってしまうような。

佐渡島:それはきっと、成功が続くと想定しているから、しんどいんだと思うんですよ。夢中になれる仕事に就けたとして、そこでゲームクリアなんてことはあり得ない。自分のやりたいことには、邪魔が入って当然なんです。まずもって、出勤時間だって想定通りにはいきませんよね。これだけダイヤが正確な日本でさえ、朝のラッシュには遅延するのが日常です。それなのに「想定外のことで、予定を狂わされました」なんて、おかしいじゃないですか。これは人間関係でも一緒。職場の人間に自分の仕事を邪魔されるのは、どの組織でも起こりうることです。

こうした想定外を想定内にしたうえで、その先を考えてみてください。世間的に成功したとされる人物って、こうしたインタビューに取り上げられますよね。取り上げられた自分を想像して、想定外の事態に遭ったときには「この程度の障壁では、インタビューで答えても格好が付かないぞ」と、思えばいいんです。そういう見方をしてみると、自分が経験した苦悩が、なんだか小さく見えてくる。僕だって会社を立ち上げた当初、自分が決めた始業時間に社員が出社せず、めちゃくちゃ悩みましたからね。でも、それを言葉にしてみると、すごく小さな人間に見えるじゃないですか(笑)。

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