【後編】「きれいな乙武さんとゲスな乙武。レッテルに振り回されていたのは自分だった」・乙武洋匡(作家)

失敗ヒーロー!

2019/01/17
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8割を安定して続けられる体制が、結果的にはうまくいく

――レッテルを利用していく場面も人間にはあると思うのですが、その点についてはどう思われますか?

乙武:レッテルを利用すると、あとあと自分の首を絞めることになると思うんですよね。いっとき、1つのイシューで何かを突破しようと思った時には、レッテルを有効利用できる場合もあると思います。でも人生はその瞬間だけではありません。レッテルを利用できる場面があっても、長い目で見てそれをしないことが結果としてマネジメントにつながるのかなと。

瞬間瞬間で最大出力を生み出す体制と、長期にわたって8割9割を保てる出力体制は違います。瞬間最大風速を生み出すことをやり続けると、組織にしても個人にしても、どこかでひずみが生じるのだと思います。ブラック企業といわれる働き方もそこに起因しているのではないでしょうか。常に最大出力を求めるから、全力で仕事せざるをえなくなり、社畜になっていく。そうではなくて、8割くらいで安定して続くほうが、結果的に高いパフォーマンスを発揮できるのではないかと思っているんですね。

もっと言えば、そこにも個人差があるのかなと。僕個人は、割と常に全力が出せるタイプなんです。瞬間最大風速を割とコンスタントに出せるメンタルと体力がある。でも、僕は1人では仕事ができないですし、事務所のスタッフ、書籍の編集者、いろんな方との連携によって仕事が成り立っています。自分が100出せるからといって相手にも常に100を求めてしまうと、ブラックになっていく。そうなると、僕の周りから人が引いていきますよね。自分だけでなく、自分の周囲の人間も含めてメンタル、体調、生活が安定していたほうが、マネジメントとしてやりやすいと感じています。

――8割というのはどこで見極められますか?

乙武:一度は全力でやってみる必要はあるのだと思います。そうすると「この人はここまでできるんだな」とわかって、相手の8割が見極めやすい。平時は8割でこなしてもらえればいい。「でも緊急時は全力でよろしくね」でいいと思うんですね。あとはマネジメントする側のさじ加減というか。あとは数字がついてくるかですが。結局、常に部下を追い込んで、メンタルを崩して退社したり、転職されたりすると、新しい戦力をまた一から育てることになり、効率が悪いじゃないですか。ならばその人の得意不得意を見極め、安定的な関係を築いたほうが、チームとして浮き沈みが少なく、長い目で数字がついてくるのかなと。
それはアスリートも一緒ですよね。例えば野球でも、1試合3安打固め打ちするけれど好不調の波が激しい選手より、毎日ヒットを1本打っている選手のほうが、3割バッターになれる。そういう選手のほうが、監督も使いやすいですよね。

組織にとって大切なのは「適材適所」

――仕事の連携で大切にしていることはありますか?

乙武:また野球に例えると(笑)、巨人が勝てない時期は、四番ばかりを集めてくる時期と重なると思うんです。組織として大事なのは、適材適所。大きな契約を勝ち取ってくる社員が花形であるのは間違いなくても、スタープレイヤーが力を発揮できるのは、営業先に持っていく資料を丁寧に作ってくれるバックヤードの方がいるからだったりする。大事なのは、マネジメントする側が、花形も脇役もどちらもきちっと評価することじゃないでしょうか。最後にホームラン打った人間だけを評価してしまえば、自分の打率を犠牲にしてチームバッティングをした選手が腐るし、俺もホームラン打ってやるという思考に陥りますよね。そうするとチームが崩壊します。それぞれのポジションに誇りとやりがいを持っていけたらいいですよね。

――それでもなかなか評価してもらえなかった場合、腐らずに続けるにはどうしたらいいと思いますか?

乙武:僕の周りでは、「同じポジションの人飲み」みたいなのをやっていますね。起業家と言われる人たちが周りに多いんですが、彼らは強烈な個性の持ち主です。その組織が発展しているのは優れたNo.2がいるからだったりするんですね。そのNo.2による“番頭飲み”みたいなものがあり、「うちのボスさ〜」と愚痴り合う(笑)。僕のマネージャーも他のマネージャーさんと飲む機会があると、盛り上がったりするみたいです(笑)。この苦労、俺だけじゃないんだ、って。

他人からのレッテルに振り回されていたのは、自分だった

――わかる気がします(笑)。今、発信の仕方で工夫していることなどはありますか?

乙武:昔は、前編で話した通り、みんなが求める「きれいな乙武さん」を壊したくて露悪的に振る舞っていたこともありました。それが受け入れられず、「乙武さん」をやっていた10年間はきれいなことを言おうと思っていた気がします。でも、他人が求めるものを追っていくのは、もううんざりだなという気がしていますね。結局、「きれいな乙武さん」も「ゲスな乙武」も、この2枚のレッテルを自分自身が一番気にしすぎていたのかもしれないです。素晴らしいですねと言われれば、そんなことないですと反発したかったし、最低だなと言われたら、最低な部分もあるけど、100%最低なのかなと思う自分もいる。でもこれからは、周囲の声に惑わされず、コツコツ取り組んでいくことしかないと思っています。

――自分から発信できる仕組みも増えたことは奏功しているでしょうか。

乙武:2010年にツイッターに出会えて「ようやく編集責任が自分にあるメディアを手にすることができた」とうれしかった。ツイッターでは下らないジョークやエロいおっさん的なネタ、いろんな社会的な話題など硬軟織り交ぜて発信できますから。

――いわゆる炎上することも多かったと思いますが、意図しての部分もあったのですか?

乙武:昔は結構ありましたね。障害者の問題、マイノリティの問題というのは、結局マジョリティの問題ではないので、多くはスルーされるんですよ。つまり見て見ぬふりされるんです。僕が炎上することで「乙武はクソだけど、この問題について俺はこう思うね」という議論が生まれるなら、いくらでも燃えればいいと思っていました。

――最後に、次回作のテーマや構想を教えてください。

乙武:遠藤周作は素晴らしい小説をたくさん生み出していますが、どんな作品でも、テーマは結局「神の存在」だと思うんです。山崎豊子も、描きたいのは「組織の闇」だと思いますし。これからも小説を書かせてもらえるのであれば、僕もそういうふうに取り組みたいんです。乙武の作品は「どんな境遇の人でも生きやすい社会を作りたい」がテーマだよね、と。その想いが、いろんなメディアに出させてもらうことの根源なので、そこだけはブレないように書いていきたいと思いますね。


インフォメーション

『車輪の上』(講談社)
『五体不満足』から20年。乙武洋匡、復活第一作は小説。
舞台はホストクラブ。新人車椅子ホストの挫折と成長を描いた青春小説。
著者:乙武洋匡
出版社:講談社
価格:1,620円(税込)

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