【前編】「乙武洋匡という人間は、騒動前に言われていたほどいい人間ではないし、騒動後に言われているほど悪い人間ではない」・乙武洋匡(作家)

失敗ヒーロー!

2019/01/16
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生きていくための所信表明として、小説を書いた

――乙武さんだからこそ注目されてしまった部分もありますよね。

乙武:僕と同じようなことが露見しても、大して非難されることも、ダメージを受けることもそこまでなく活動を続けられている方もいます。どういう方が大きく叩かれるかは、それまでのイメージによるものなのでしょうね。

――これから、どうメディアと付き合いたいと思っていますか?

乙武:プラスのイメージにしろマイナスのイメージにしろ、どんなに自分が逃れたいと思っても、貼られたレッテルからは結局どこまでも逃れられないという諦めができました。乙武は社会的な死を迎えたと言われましたが、確かにその通りだと思います。でも、それでも僕の人生は続いていきます。平均寿命を考えると、あと倍は生きていかなければなりません。自分と向き合っていくための、改めて所信表明のようなものとして『車輪の上』を書きました。

――これからの活動について何かお考えはありますか?

乙武:騒動によって自分なりの人生設計のようなものは本当に真っ白になりましたし、何も先が見えなくなって、見たくもなくなりました。でも、「どんな境遇に生まれても同じだけの選択肢がある世の中になるようにしたい」という想いだけは変わらなかったんですよね。2017年は1年間で37か国を回りました。その時、このまま移住してしまえたら楽だなとも正直思いました。でも、これからの人生がどれほど茨の道であるとわかっていても、「自分の想いを実現したい」という気持ちは変わりませんでした。

とはいえ、政治の道も閉ざされましたし、メディアで発信しても、今更何を言っているのかと言われます。ゴールは揺らいでいないものの、依然として八方塞がりな状況です。何をしたら実現に近づけるのか、見えていない。これからどう活動していけばいいのかというのは、自分自身が毎日それを問うているところですね。

――そのなかで、小説だからこそ伝えられるものもあると思って、作品を書かれたんですよね。

乙武:ノンフィクションだと乙武洋匡の物語になってしまい、共感されづらい状況ですから。僕とは距離がある世界観を作り上げて、感情移入をしていただいたほうが、伝えたいことを伝えられるかなと思っています。

本当の「失敗」は小学校の教員時代にした

――『失敗ヒーロー!』というタイトルにちなみ、乙武さんなりの“失敗”について、思うところやエピソードを語っていただきたいです。

乙武:皆さんから見ればあの騒動が失敗と映るでしょう。それについて言及することを期待されている気もするんですが、僕のなかでは、失敗というよりも、ついにメッキが剥がれたというか、失敗とはまた違うイメージを持っています。

逆に自分の失敗として一番思い出されるのは、小学校の教員時代のことです。担任していたクラスに、忘れ物が激しいお子さんがいました。毎日どこかの時間で何かを忘れて、最初のころはきつく叱っていました。お母様もスパルタだったので、何度もミーティングを重ね厳しく指導を続けていました。でもあまりに効果がないので、発達センターで診断をしてもらったら、認知の仕方にすごく特性のあるお子さんだった。忘れないようにするためにひと工夫がいるとわかり、ポストイットや連絡帳に書くなど対処をしていきました。そうしたら、ゼロにはならなかったものの、忘れ物がずいぶん減ったんです。その時に、それまでの自分の指導を後悔しました。本当に申し訳ないことをしたなと思っていますし、大きな失敗だったと思っています。対処の仕方を知っていれば、あの子は叱られる時期を過ごさなくて済んだんです。

――今でも、例えば会社のマネジメントなどで通用しそうなお話です。

乙武:どんな仕事でも、部下を叱るということがありますよね。自分がこれまで見てきた景色や物差しで物事を見ているから「なんでできないんだ」という怒りにも似た感情が湧いてくる。でも、その人のできていないことを改善することが本来の目的ですよね。そう考えれば、叱るというのはひとつの選択肢なだけ。叱って直るならいいですが、直らないのなら、その人なりの事情や感じ方に寄り添う必要がある。目線を相手側に置いてみると、対処の方法は変わるはずなんですよね。当時の僕にはそれができていなかったという反省が残っています。

後編では…

『五体不満足』執筆後の自分、スキャンダル発覚後の自分を経て、自己の所信表明
の場として小説を執筆された乙武さん。後編では、東京オリンピック・パラリンピックを控えバリアフリーについて今思うことから、仕事における自分の“レッテル”との向き合い方や健全なチームマネジメントの考え方までを伺います。


インフォメーション

『車輪の上』(講談社)
『五体不満足』から20年。乙武洋匡、復活第一作は小説。
舞台はホストクラブ。新人車椅子ホストの挫折と成長を描いた青春小説。
著者:乙武洋匡
出版社:講談社
価格:1,620円(税込)

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