「マスメディアのパワーは、とてつもない」大谷広太(元BLOGOS編集長)

思い出す言葉

2017/03/08
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マスメディアの、一次情報を作り出すパワーはすごい。

――現在の業務内容は、どういうものですか?

大谷 現在のメインの業務はAbemaTIMESの編集です。AbemaNewsチャンネルを中心に、AbemaTVがつくるコンテンツが持つポテンシャルを最大限活用していくということが求められていると思っています。番組の記事化をはじめ、事前の予告や事後の告知、AbemaTVの知名度を上げていくにはどうするべきか、アプリのダウンロード数はどうやったら増えるか、定着させるためにはどうしたらいいか、などプロモーションに近いところも役割ですね。

――移籍して、どのような点に違いを感じますか?

大谷 僕自身はずっとポータルサイトをやっていました。 特にBLOGOSでは独自ニュースのほか、ニコ生で番組を制作してみたりと、それなりに新しいのではないか、と思うこともやることができました。先の参院選では、スケジュールの都合上、自民党の安倍総裁にだけはインタビューできませんでしたが、主要な政党の党首にインタビューさせていただくことができました。そういった業界の方々の間である程度の認知度ができたのは、我々含め、ネットメディアの担当者たちが少しずつ畑を耕してきた成果なのではないかと思っています。数少ないかもしれないけれど、自分の成果の一つかなと思っています。もっとも、議員会館に説明に回るとか、お話を伺いたい識者への伝手がなければ、まめに講演に足を運ぶとか、記者の方や雑誌編集者の方々が当たり前のようにやられていることをやってきただけですが。

転職した理由にも少なからず関わってくるんですが、10年以上ネットニュースをやっていて、常に感じていたのはマスメディアの制作力のすごさ、ジャーナリストや識者の方々へのリスペクトなわけですね。

特に、ちょうど1年前の今頃、各ポータルサイトや各ニュースサイトが「PVが過去最高です」みたいなリリースをガンガン出したと思うんです。けれど、その背景って、いわゆる「文春砲」があったからでしょう。

やはりマスメディアが持つ、一次情報を作り出すパワーは今も圧倒的で、確かに著名人のSNSの発信がニュースソースになってはいるが、むしろ最近では「テレビで誰がこう言った」みたいな書き起こしをいかに早く作るかという競争になってきている部分がある。

マスメディアのポテンシャルはネットを使うことで2倍にも3倍にもできるはず。そこでもしかしたら自分の経験も役に立つんではないかと思いましたし、しかもテレビ局とネット企業とが一緒に本気で取り組んでいる場があって、ここは凄く面白いなって思ったのが転職した理由ですね。

――AbemaTVさんが、今まさに規模を拡大しようとしているタイミングで、そのようなキャリアをお持ちの大谷さんと出会ったわけなのですね

大谷 自分はもう35歳です。何か新しいことするには、最後のタイミングかなと思っています。 ライブドアに入社してから10年以上経った。BLOGOSも成熟して安定的なサイトになったと思いますし、同じ人間が長年携わるとどうしてもマンネリ化します。むしろ弊害だって出て来るし、先送りしていた課題も積み上がってしまっていたので、バトンタッチするのもいいのではないかと。

東京オリンピックがある2020年ごろには、通信環境も良くなり、デバイスもさらに進化するし、法制度も変わっていくはずです。ニュースの形式だってテキストだけじゃなくなるでしょう。そういうタイミングになれば、自分の居場所もまた出てくるのではないかなと思いました。被災した地元に帰るのも良いでしょうし。

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サイトが消えるのなんて、ほんの一瞬なんです

――BLOGOS時代には、どんなことに気を配って運営していらっしゃいましたか?

大谷 BLOGOSに関して言えば「いかに安定運用できるか」に心を砕きました。単純に、続けるって難しいですよね。最初華々しく打ち上がったところが、尻すぼみでいつのまにか消えちゃうことってよくあります。なので、アルバイトに来てくれた学生の方々の育成を考えつつ、最低限の維持管理を。もちろん、新しいことは常に考えていかなければいけません。でも、媒体が消える時は本当に一瞬ですから。

――実際、昨年末には大問題を起こした多くのサイト群が一瞬にして消えるということがありました。

大谷 先程も言ったとおり、我々にも環境の問題、リソースの問題を言い訳に先送りしてきた課題があったわけです。認識の甘さもあったと思います。BLOGOSも何度も読者、執筆者、さまざまな方に対して本当にご迷惑をおかけしてきました。

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――オウンドメディアが全盛ですが、大谷さんはオウンドメディア自体についてどう捉えていらっしゃいますか?

大谷 僕の今の仕事も、番組のコンテンツ力をさらに記事やアーカイブ動画というかたちでどう観ていただくかという点で、オウンドメディア的なものですね。

それとは別に、専門的な情報を、オウンドメディアが出していくのはとてもいいと思います。新聞がそうですが、例えば海外サッカーの話題を深く知りたいと思ったら、個人ブログの方が深い、早い情報を得られるケースがあるわけです。BLOGOSはいわばその集合体なわけですが、我々スタッフがあらゆるジャンルにおいて目利きというわけではない。

これまでマスメディアを中心に情報が扱われてきましたが、現代のようにこれだけ問題が複雑化すると、専門家でないと解説しきれないものはたくさんあると思います。

だから、例えば、おむつメーカーが子育てのオウンドメディアをやったり、自動車メーカーが交通に関するオウンドメディアをやったり。『弁護士ドットコム』さんは法律のサイトをやっていまよね。そういうふうに専門分野を扱うメディアがどんどん増えれば、もっと面白くなるんじゃないかと。当然、広告倫理の問題、ビジネス的に成り立つか、といった問題をクリアしなければいけないわけですが。

見る方法は変わっても、ニュース記事は無くならない。

――今後のメディア業界について、大谷さんはどういう部分に注目されていますか?

大谷 やっぱり、コンテンツをどう届けるか、という点に興味があります。ネットメディアを10年以上経験して思うのは、ポータルにせよニュースアプリにせよ肝心の中身の部分は媒体社に依存しているわけです。制作と拡散があまりにも分離しすぎている。

もう一つは、とくに雑誌や夕刊紙がそうだと思うのですが、紙媒体とウェブ版で、キャラが全然違うものが増えるんじゃないかと。

たとえば、スポーツ紙の場合、一見見出しは断定しているように思えるけれど、山折になっている紙面を広げると、”へ”とか”か”みたいな。ああいうのは、それもわかってて読者は読んでいるわけでしょう?

けれど、ポータルサイトやニュースアプリ、SNS上に見出しとリンクだけが並んでいれば、朝日新聞だろうが個人ブログだろうが全て同じ。だからネットに出す記事の見出しはちゃんとせざるを得ない。逆に、経済・ビジネス系雑誌のウェブ版はどんどん過激に、経済ビジネスの話か?という記事をどんどん出すとか。

そういう意味で、LINEのアカウントメディアは非常に重要な視点を提供していると思います。媒体社を自分で指名して受け取るという、新聞や雑誌を買うような、もともとの情報の受容スタイルと近いですから。

ネットメディアがオリジナルに向かうのはある意味当然の流れで、Yahoo! JAPANさんも本気になっているのだろうし、とくにBuzzFeed Japanさんが切り込んでいると思います。そういう覚悟をもったメディアがもっと増えれば、若い人も多く入ってこられるようになると思っています。

短期的には儲からないかもしれないし、ブランドのイメージは根付かない。そういう部分を踏まえてくれる所じゃないとというのはありますよね。ニコニコ生放送だって、現在は非常に大きなブランドになっています。だからこそ、ああやって党首討論ができたりする。その点、ライブドア、LINEは中長期的にサイトを見てくれていた会社です。とてもありがたいなと思っています。それが一番むずかしいことですけれど…。

ただ、これまで言われていた、ネットメディアには人材が足りない、誰が担うかといった問題も。あるいは、ネット企業の事業ドメインのひとつとしてメディアがあるという状況になると、法的なバックアップや経営陣の認識も弱いということは指摘されてきました。ここがこの2社を筆頭に、少しずつ変わりつつあると思う。

ネットメディアの業界も10年以上になってきて、徐々に成熟してきていると思います。これまでのネットメディア業界って、ある種のフィルターバブル状態があったと思うんです。

――「フィルターバブル」というのは、自分にとって都合の良い情報だけを集めてしまう状況を指す言葉ですね。

大谷 そうそう、人間的なフィルターバブルというか。業界が、同じ人達で回し過ぎていたところもあるんじゃないかなって。健全な相互批判はいいことですけど、単なるdisじゃないか?逆にお互いに甘くないか?みたいになってしまいがちです。それだけじゃ外に広がっていかない感じがしていて。だから僕も少し違ったところに行ってみようと。サイバーエージェントには、ほんとに知り合いも全くいなくて。

それこそ今、BuzzFeed Japanさんのように、ネット業界だけではなく、新聞・雑誌、さまざまなバックグラウンド・強みを持った方が移籍してきて、非常に強いチームを形成しているメディアもあります。

――ただ、BuzzFeed Japanさんにしてもヤフーと本国からの出資で成り立っている企業です。骨太のメディアは、ある程度予算がないと成立しづらいのでしょうか。

大谷 もちろんそうですね。あとはやっぱり、継続性です。5年、10年やってかないと、信頼やブランド力はつかない。よく新聞社からネットメディアに移籍した人が「今までは取材時に、○○新聞ですって言えばすぐに通った。今はイチから説明しなきゃいけない」と愚痴っていたりするんですけれどまあ、それは当たり前で。百年以上もやっている媒体のほうがある意味で特殊なわけですから。

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――大谷さんが今後作っていきたいメディア像を教えてください。

大谷 ニュースというのは無くならないので。僕が最初業界に入ってきた時はガラケー時代でしたけれど、ガラケーが無くなってスマホになり、それが現在ではアプリになりましたけど、そこに載ってるものは基本的に変わっていない。結局、ウェブサービスって、ニュース的なものを欲しがるものだと思うんです(笑)。それどころか、明治時代も戦前も、同じように流行り廃り、課題や悩みがあったりしたわけで。過去に学びつつ、いいものを作っていきたいなと思っています。

――大谷さんは、派手なことは言わないですけど、本質的なことをおっしゃいますね。最近取材させていただいたクロサカタツヤさんに通じるものを感じます。

大谷 いやいや、あんな大御所の方と比較されるのは恐れ多いです(苦笑)。ただ、僕自身どちらかというと職人気質の方が好きですね。決してメジャーじゃなくてもすごい仕事をしているフリーライターやジャーナリストの方がたくさんいらっしゃるわけで。プラットフォームを作った方々はすごいと思いますが、そういう場を支えているのは、現場で良い仕事をされている方々だと思いますから。その仕事をより多くの方に知っていただくとか、何かしら還元していくのが我々の仕事でしょう。そこは今のテレビのコンテンツを、どうやってより多くの方に知って頂き、楽しんで頂けるかという業務にもつながっていると思います。

――新天地でもいい仕事を期待しています。今回はありがとうございました!

<了>

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