Wantedly.incは誰をウォンテッドしているのか?
気になる会社の気になる人事 その4

「今いる人を超える人を入れていく」というのが、基本的な考え方ですね。自分を追い出す優秀な人を採用するというのが、一番簡単なルールです
Wantedlyがローンチされてから、日本の就職活動は確実に変容を遂げつつあります。給与などの待遇といった面ではなく、価値観という部分においてマッチする人材・企業をお互いに探すことができる。しかし「そもそもWantedlyはどういった人材を欲しているのか?」ということは意外と知られていないと思います。今回は、Wantedlyの“中の人”のお話に迫ります。(取材・文 竹中玲央奈)
Wantedlyに惹かれた理由は“理念”
――まず、大谷さんがWantedlyに入社した経緯を教えてください。
大谷昌継(以下、大谷) Wantedlyがサービスをローンチしたタイミングで勉強会があり、そこで存在を知りました。前職オイシックスでも人事をやっていたのですが「面白いサービスだな」と思いましたし、経営者がすごく魅力的な人たちで、エンジニアもすごく優秀だと感じたんです。会社が今後どのように回っていくのかな、と気になった部分もあります。
前職の創立初年度に6番目の社員で入って、13年働きました。オイシックスも良い会社だったのでそのまま居続ける選択肢もあったのですが、ちょうどWantedlyで人事の責任者を募集していたので、「話を聞きに行く」をポチッと押して面談に行ったという流れですね。
――大谷さん自身、Wantedly経由の応募だったのですね。
大谷 私は、思想のあるサービスが好きなんです。多くの求人サイトは、基本的にお金を多く払った企業が大きく露出されます。某大手サービスのページでは、一番上に表示されるためには2週間の露出で***万円とか。でも、利益がたくさん出ていて採用にお金もかけられる会社が上位に露出するという思想は良いと思うんです。
一方Wantedlyの場合FacebookやTwitterを通じて周囲の人が“応援した”会社が上のほうに来るようにできています。中にいる社員や周りの人がSNSでシェアした数が多い企業が上に来るわけですね。
やはり、会社に対してポジティブじゃないとシェアはしてくれないですよね。中の人がポジティブに感じ、外には「応援しよう」と思う人が多い。そんな会社が人材をたくさん採るべきだという思想が、面白いなと思ったんです。
――貴社の企業としてのビジョンは、どういったものがあるのでしょうか?
大谷 弊社は、会社と働く人のマッチングサービスを提供しています。とはいえ、就職や転職をするときだけに使われるだけでは寂しい。「シゴトでココロオドル人を増やす」という理念のもと、ビジネスSNSとして 「社会人になったら、Wantedlyのアカウントを持っている」という流れを作りたいと思っています。
昨年 11 月、名刺管理アプリ『Wantedly People』をローンチしました。ビジネスシーンで必ず出てくる名刺ですが、名刺交換をしてもその後ほとんど連絡を取らない、ということがよくあると思います。『Wantedly People』はWantedlyのアカウントを持っているユーザーであれば、名刺の情報からアカウントの情報に紐づくため、ただの名刺交換で終わらずに、出会いを繋がり変えることができるツールです。
そういうふうに仕事の生産性を高めて、楽しく仕事ができる状態を作っていきたいですね。
――Wantedly peopleは新たな取り組みと思いますが、社内には新規事業を開発するチームがあるのでしょうか?
大谷 新規事業の開発チームがある訳ではありませんが、『Wantedly People』のプロジェクトの時は去年8月くらいから急遽社内のエンジニアを集め、チームを編成して3ヶ月くらいでローンチしました。あれくらいのクオリティのものを3ヶ月で作れるチームなんです。そういう人たちと働いているのはワクワクしますよね。
スペック重視の採用では良いマッチングは生まれにくい
――募集の見せ方や施策についてこだわりはあるのでしょうか?
大谷 気軽に話を聞きに行くとか、「お茶でもしませんか」くらいの距離感を大事にしています。その証拠に、Wantedly のボタンは「応募する」ではなくて「話を聞きに行く」です。
「就職・転職と結婚は似ている」という話をよくしています。今までの採用のやり方は、結婚といっても“お見合い結婚”っぽいなと。履歴書を書いてもらって、「学校はどこですか?」「お勤めはどこですか?」と問い詰め、応募者は「年収がどれくらいか」「福利厚生はどうか」みたいなスペックの部分を見る。とてもお見合いっぽい。
こういう形だと、どうしても自分のことを拡張して話すし、都合の悪いことは言わないということが多いんですね。そうやってマッチングをすると、いざ入社をしてから「え、なんで?」ということが起きることもあるわけです。
初めから結婚前提のお見合いではなく気軽にお茶をするところから初めてお互いに共感ができるかどうかで図っていく、まずはそういった距離感から始められる方が本当にマッチしている人と出会えるのではないかと考えています。
――たまたま自社に合わなくとも「こういう会社があるよ」と紹介できる世界観を作り出せたのも、とても大きいのではないかと思います。
大谷 良い・悪いではなく、合う・合わないのほうが大きいと思うんですよね。落とされたから悪いというより、単に合わなかっただけというケースのほうが多いと思います。
――その時点では採用に至らなくとも、何かあった時に連絡を取ることもできますよね。
大谷 例えば、企業が人を採用する際に、100 人くらいの応募者を募って、20 人くらい面接して、 2、3人内定出して、終わった後 にはまたゼロから…というやり方はすごく効率が悪い。 優秀でしかも気が合うと思える人を見つけることは簡単ではありません。 ただ、趣味嗜好が似ている人はそれなりにいると思うんです。
Facebookなど、お互いに繋がりやすいメディアも出てきました。「今はタイミングが合わなかったけど、これからジョインする可能性がある」という人と繋がり続けるのは、今後トレンドになっていくんじゃないかと思います。
――待遇などの条件を数字で出さずに、企業理念に賛同してもらう募集の仕方というのがWantedlyの良さと思っているのですが、そこへのこだわりは強いですか?
大谷 ダニエル・ピンクの『モチベーション3.0』という本があります。どういう話かというと、モチベーションに関して1.0は食うために働くということを言っていて、2.0はたくさんアウトプットを出してたくさん(対価を)もらうというアメとムチの感じですね。
ではモチベーション3.0とは何かというと、食うに困らない年収になった後に、「どれだけ裁量があるのか」「どれくらい成長している実感が得られるのか」「何のためにやっているのか」という目的の部分が大事になってくる。そういうことを説いている本です。別に年収を書いてもいいと思うのですが、インセンティブが書いてあるとついそちらにばかり目がいってしまうという問題があるんですよ。
お見合いサービスでは、相手の年収は600万より800万がいい。「年収800万以上」といったフィルターをかけて、その中から一番気が合うひとを選ぶ。それが2.0的な探し方です。Wantedlyの3.0的な考え方は、年収を書かないで、一番気が合う人の中から最終的に年収を補完して選ぶやり方です。その方が幸せなマッチングができる、という考え方をしています。

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