「まちがえちゃったけど、ま、いっか」。「注文をまちがえる料理店」に学ぶ、完璧を求めない働き方

「働く」を考える。

2018/08/28
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「自信がついた」その感想が一番印象に残っている

――スタッフとして働かれた認知症の方々からは、どのような感想をもらいましたか?

一番印象に残っているのは、「自信がついた」という感想ですね。その方は、店内でピアノ演奏をしてくださった方で。40年間ずっとピアノを演奏してきたのに、認知症でそれができなくなったことがものすごくショックだったらしく、死にたいとまで思っていたそうなんです。

ピアノって弾き方は身体が覚えているようなイメージがありますが、楽譜が読めないだけでなく、鍵盤の位置もわからなくなっていたそうです。でもお店で演奏する目標ができてからは、旦那さんと毎日練習していく中で徐々に弾けるようになって。実際に6月に弾いていただいたときはかなりまちがえてしまったんですけど、そこから毎日何時間も練習されて。9月に再度弾いたときは、1日に何度か演奏したうちの1回目をミスなく弾けたんですよ。ピアノに向かうその姿が本当にかっこよくて……。「妻は誇りを取り戻せたと思います」と旦那さんもおっしゃっていました。当然、これで認知症が改善するわけではないですが、その言葉を聞いたときにこのプロジェクトをしてよかったな、と思いました。

――6月と9月の開催はどちらも大好評で、その後は自治体や企業、個人からの問い合わせも多かったそうですね。

はい。「うちでもプロジェクトを実施したい」という声が多かったので、応えられるよう、今は組織を一般社団法人にしてノウハウを解放しています。なぜなら一歩まちがえると、認知症を抱えたお年寄りがただ働いているレストランになってしまうので、僕たちが大切にしているポイントをまとめてお伝えしているんです。それを全部守っていただける場合のみ、「注文をまちがえる料理店@京都」などの名前をつけて、ロゴを使っていただくことを許可しています。

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――「注文をまちがえる料理店」としての今後の展望はありますか?

僕たち自身がまたレストランをやるとしたら、オリンピック・パラリンピックが開催される2020年頃にもう1回くらいしようかなと。というのも海外からの問い合わせがすごく多いんですよ。日本は国際的に先例のない課題を多く抱えている意味で、「課題先進国」と言われています。そういう国で、面白い取り組みが行われていることを体験して知ってもらえればいいなと思うんです。新しい取り組み以外は僕たちがまた実施しても同じことなので、今後は各都市での開催をサポートしようと思っています。

まちがえるのは当たり前。リカバリーして背中を見せるのが、いいリーダー

――まちがいを許容する寛容さは、日常でも必要だと思われますか?

僕自身は、「注文をまちがえる料理店」の「まちがえちゃったけど、ま、いいか」というスタンスはすごくいいと思っています。そもそも大体のまちがいは些細なことなんですよ。たとえば、「注文をまちがえる料理店」をテーマに講演会に呼ばれたとき、職場のNHKから会場の六本木ヒルズに急いで行きたくて、タクシーに乗ったことがあったんです。そうしたら、運転手さんがまちがえて東京ミッドタウンに着いちゃったんですよ(笑)。

――確かにどっちも六本木のランドマークのビルだけど……という、絶妙なまちがいですね(笑)。

「こっちは急いでいるからタクシーに乗ってるのに!」と一瞬思ったんですけど、「注文をまちがえる料理店」を主催している人間として、「ま、いっか」と思い直しました(笑)。もちろん少しはイラっとしますけど、イライラし続けていると辛いだけですし、「別にいいですよ」と言ってしまえば楽になれる。意外とそういうちょっとした一言がガス抜きになるんですよね。それに遅刻したらしっかり謝ればいい。ちなみに講演会で場所をまちがえた話をしたらウケが良かったので、結果的によかったです。

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――まちがえたりまちがえられたりしたときは、「ま、いっか」と捉えつつも、コミュニケーション上でのフォローが大事になるわけですね。

結局、伝え方の問題ですよね。何事も伝え方1つで空気が軽くなったり、重くなったりするわけですから。

――では、人のまちがいを指摘する際には、どんなやり方がベストだと思われますか?

そもそも、みんな人に期待し過ぎてるんじゃないかな、という気がしています。できると思って期待するから、そのギャップにイラっとしてしまうんだと思うんです。僕はと言うと、前提として「人ってまちがうよね」と思っているので、過度に期待していないんですよ。「努力すれば必ず成果は出るものだ」と思いがちですけど、実際は成果を出せるときもあれば出せないときもあるし、まちがうこともあるわけです。

――そもそも人はまちがえることを、念頭に置いて人と接したほうがいいと。

いい意味で、「人に期待し過ぎない」ことは大事だと思います。まちがいが起こることを想定しておく、ということですね。誰だってまちがえることはありますし、人に怒るときはそれがブーメランになって、いつか自分がまちがえたときに返ってくるとも思っています。なので人がまちがえても、なるべく目くじらを立てないようにしていますね。

――まちがいが起こることを想定しておくということは、何かをするときはあらかじめバッファをつくっておく、ということでしょうか?

いや、個人的には「まちがえたらそのとき考えればいい」と思っています。何から何まで想定されていたら、それはそれで窮屈じゃないですか。もし誰かに、「全部僕の想定内、計算通りです」って言われたらなんかムカつきますよね(笑)。すべてをあらかじめ計算しておくんじゃなくて、普段からまちがいを許容してリカバリーできるような余裕を持っておけばいいんです。リカバリーできないまちがいなんて、そうは起きないですから。

僕が15年いたテレビ業界では、「出ない放送はない」とよく言われました。みんな「このままじゃ放送に間に合わない!」と青い顔をして仕事をしていますが、だいたい最後はなんとか間に合って、ちゃんと放送されるんです。

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――そういうことはどんな業界でもありそうです。まちがいに対して、敏感になり過ぎないほうがよさそうですね。

とにかく最初から完璧を求めないことです。僕も今複数のプロジェクトを進めていく中で人をマネジメントする立場にありますが、基本的に細かいことには何も口を出さないですね。「そう簡単に世の中に話題なんてつくれないから、年に3回くらいヒット企画がつくれたらそれでいいですよね」と言っています。それをいちいち細かく、「KPIを達成できていないじゃないか!」なんて言ってもしょうがない。クリエイティブな仕事をしようとするときに、窮屈なのはよくないですから。リーダーがメンバーにいじられてるくらいでちょうどいいんです。だって、部下がミスするたびにブチギレるリーダーと、「まぁそういうこともあるよね」とリカバリーして、いい背中を見せてくれるリーダー、どっちの下で働きたいかというと、断然後者なんですから。

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