なんでPTAにお父さんいないのかな?
PTAの抱える問題は女性の働きにくさそのものだと思う。その2

「PTAはお母さんがするもの」。そんな「常識」に縛られる必要ないはずなのになぜかお母さんが中心になるPTA。でも、少し考えてみると、PTAにいてもいいはずの人がいないことに気づきませんか? そう、お父さんです。
大塚玲子さんによる連載「PTAの抱える問題は女性の働きにくさそのものだと思う。」の第二回目は、PTAにお父さんがいないという問題に鋭く切り込みます。
お母さんの負担を減らすために重要な役割を担うはずのお父さんが、PTAに積極的に参加するためにはどうしたらいのでしょうか?
小学校に入ると突然消える!
なぜでしょうか、お父さんがPTAにいませんね。
「PTAって、お母さんばっかり!」
子どもが保育園から小学校に入って驚いたのも束の間。2、3年も経てば、すっかり状況に慣れ、お父さんを見かけると、「あそこんち、お父さん来てるスゴイ!」と感動する始末です。地域にもよりますが、そんなふうな母親ばかりのPTAもまだ多いでしょう。
PTAで見かける男性は、会長さんと数名の役員さんのみ。会長さんも女性の場合は、女子校のようです。まれにヒラのお父さん(役員ではなく、ふつうの委員)を見かけても、翌年は必ず役員に引き抜かれるため、ヒラ父はなかなか増えません。
どうして、こうなっちゃっているのか。
ちょっと、記憶を遡ってみましょう。
保育園のときには、お父さんもけっこういましたよね。数か月に1度、土曜日に集まった保護者会。半分まではいかないにせよ、お父さん率はそこそこ高かったはずです。
それが小学校に入ったのを境に、パタッと消えてしまいました。PTAの役員を決める最初の保護者会から、魔法のように、お父さんを見なくなります。
いったい何が起こるのでしょうか? 細かくみていきましょう。
まず子どもが小学校に入ると、保育園から来た子たちと、幼稚園から来た子たちがまぜこぜになります。
子どもたちはすぐ仲良くなるからいいのですが、問題は保護者、お母さんたちです。
ここで「保育園文化」vs「幼稚園文化」という摩擦、衝突が起こります。
幼稚園というのは、育児を主な仕事とする親が存在する、という前提の場です。
まれにお父さんの“主夫”もいますが、ほとんどは性別役割分担ですから、母親が“主婦”として、育児を担当しています。
幼稚園に顔を出すのは当然、お母さんです。
一方、保育園は、育児を主な仕事とする親が存在しない、という前提の場です。つまり、共稼ぎや、ひとり親の家庭が前提です。
保育園の親にも、性別役割分担意識は残っているので、顔を見せるのはやはり母親が多いですが、幼稚園ほどではありません。父親もそこそこ出てきます。
こんなふうに幼稚園と保育園は前提が違いますから、保護者のほうもまた当然、違った価値観をもっています。
たとえば保育園母は、なによりも時間を節約したいのに対し、幼稚園母はどちらかというと交流を重視するので、時間の節約はそれほど気にしないことも。
もちろん人にもよりますが、おおまかには、そんな傾向があります。
そんな両者が、小学校でいっしょになるのです。
なかでもPTAという場では、この両者が「いっしょに活動すること」を求められます。
それはもちろん、平穏にはいきません。目には見えないぶつかり合いが起こり、キナ臭い空気が立ち込めます。
結果、どうなるか? これまでは主に、幼稚園文化が勝ってきました。
戦後の高度成長期からつい最近まで、日本社会では、専業のお母さんが多数派でした。そのため自然と、保育園文化は幼稚園文化に負け、消えてきたのです。
ですから、活動時間は土曜日ではなく、平日の日中。
活動に参加するのは、お父さんではなく、お母さん。
それが、暗黙のルールとなってきたのです。
当然のこと、保育園出身の母たちは困ります。なかには自由業や、土日が仕事の人もいますが、会社にお勤めの人たちは、平日の日中の活動に応じることはできません。
だから本当は、「行けません」とか「引き受けられません」と言って、PTAの仕事を断りたい。
でも、それは許されません。
なにしろ性別役割分業が前提なので、平日日中に学校に来られないお母さんは「間違った存在」だからです。
だって、母親の一番の仕事は家事育児なんだから。
仕事を続けているから、平日日中の集まりに来られないなんて、そんなのおかしい。
そんな気持ちが、幼稚園出身の母親にもありますし、保育園出身の母親自身にも、あったりするのです。
で、お父さん。出てきませんね。
今回のテーマ、お父さんなのに。
ほぼ完全に忘れられているわけです。学校やPTAという場は、性別役割分担でお父さんがお仕事をしてお金を稼いでいる、という設定なので、存在が想定されていないのです。
そのような状況なので、前回も書いたとおり、強制参加圧力は母親の間でのみ発生します。男性であるお父さんには、その圧力が及ぶことはありません。
どうしたら父が増えるのか
ではさて、どうしたらPTAにお父さんが増えるのでしょう。
お母さんたちに話を聞いてみると、みんな「お父さんがもっとPTAをやってくれてもいいのにね~」などと、口では言います。
でも、実際には父親は出さず、自分が出てきます。
なかには、お父さんが「PTAに出たい」と言っているのに、お母さんがそれを制して出ている(しかもイヤそうに)、というケースも聞きます。
なんで、そうなるのか?
おそらく、ほかのお母さんたちの手前、気まずいんですよね。
ほかの母親たちがみんな「育児=女の仕事」という、昔ながらの暗黙のルールを引き受けているなか、自分だけが知らんぷりしてお父さんを出すのは、なにやら申し訳ない。
そんな気兼ね、同調圧力が働くのではないかと思います。
でもね、いいんですよ、出しちゃいましょうよ、お父さん。
出せる人はお父さんを出していく。それしかないと思います。
保育園の待機児童はふくらみ続け、幼稚園は定員割れが続く状況です。
もう、母親だけが家事育児を担う時代ではないのですから。
お母さんたちは、どんどん重荷をおろしていいのです。
もしかすると、「ママたちの会話に入ってくの、おれムリ~」などと言うお父さんもいるかもしれませんが、大丈夫、行かせてしまえ。慣れます、慣れます。
筆者も以前、父親向けのNPOに入ったことがあるのですが、最初はやはり戸惑いました。男性同士の率直な物言いに慣れず、「なにこのひとケンカ売ってるの?」と悩んだこともあります。
でもね、じきに慣れましたから。自分で壁さえ作らなければ、だんだん「こういうコミュニケーションルールなのか」となじんできます。
PTA会長をやっているお父さんたちも、みんな同じようなことを言います。
最初はお母さんたちの会話にうまく入れなかったけれど、いつのまにか慣れちゃった。
意外とそんなもののようです。
お父さんがPTAに増えづらい一番のネック。それは、お母さん自身の中にある「呪縛」なのです。

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編集者、ライター。主なテーマは「PTA」と「いろんな形の家族」。各地で講演、テレビ・ラジオ出演多数。PTAでは学年総務部長。
シングル母。著書『PTAがやっぱりコワイ人のための本』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』。
http://ohjimsho.com/