マーケティングで心は動くか。中村禎(コピーライター)インタビュー

思い出す言葉

2017/05/09
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社長になったつもりで書いたコピー

―35年間もコピーライターを続ける上で、常に様々な情報に網を張っていることが必要だと思いますが、中村さんもそうした部分に気を配っていらっしゃいますか? 

中村 そうですね。でも、決めるまでは優柔不断です(笑)。例えば大学生の頃にコピーライター養成講座に通ったのも、「全くホメられなかったら別の道に進もう」と思ってのことでした。幸いにして幾つか評価をいただいたので、「よし、広告業界に就職しよう」と決められました。トンプソンに入ってからも宣伝会議の養成講座に通わせてもらい、そこで師事した岡田耕さんのことを作文に書いたことがきっかけでサン・アドの仲畑貴志さんの目に止まったんです。

――ただ口を開けて情報を待つのではなく、自ら動いて取りに行った。その結果、キャリアを左右する幸運に恵まれたんですね。

中村 とはいえ、サン・アドから電通に移った最初の時期は成果を出せなくて。それまでコピー年鑑に毎年何点かは掲載されていたんですが、電通に入った年だけ載っていないんです。半分腐りかけていましたが、「腐っても仕方がない」と思って辛抱しました。結果、たまたまコピーライターが空いた『キリン一番搾り』のチームに配属されました。「ま、飲んでから決める」は別のコピーライターさんが担当されましたが、その後に「ビールビールと蝉が鳴く」「暑い暑い世の中で、ビールだけが冷えている」といったコピーを作ることができました

――35年のコピーライター生活で、最も楽しかった経験は?

中村 一番印象的だったのは2000年に担当したKDDIの仕事です。5日間連続の新聞広告15段などは、掲載開始日が日曜日だったので「KDDIスタート、出社は明日から」とか「がんばれNTT、がんばるKDDI」、「つまんない広告をする企業は、ほぼ、つまんない」といったコピーを作らせていただきました。NTTに言及したものに関しては、電通の営業がNTTさんに許可をもらってくれました。

そして、日経新聞に30段に掲載させていただいたKDDI合併の裏話ドキュメンタリー。映画の脚本のような内容で、関係者の名前をジョニーなどの外国人名に、設定を小学校の夏休みに変えて、「ガキ大将が集まって会社を作ろうとした」というストーリーにしました。あれを書いていた時間が、一番楽しかったですね。毎日書き直しては、ニヤニヤしていました。

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――こうした歴史に残るコピーが出てくるまでの「考えるプロセス」を伺いたいのですが、このコピーはどうやって出てきたのですか?

中村 これはKDDIの仕事をやる前から、ずっと思ってきたことなんですよ。「いつか言ってやろう」と思って(笑)。KDDIはKDD、IDO、DDIという三社が合併する、社員の人たちも会社のイメージを持っていない。「じゃあボクが作ろうじゃないの」という気持ち、自分が社長になったつもりで書きました。

企業の決めたスローガンって、だいたいつまらないじゃないですか。そういうものじゃなくて、「何か実行しなきゃダメだよね」という内容を社員に伝えるつもりで作りました。

――腹のくくり方がすごいですね。提案をする中村さんも、受け入れるクライアントも。これをやった以上、今後「つまんない広告」は一つも打てないわけですよね。

中村 そうですね。プレゼンの時は、コピーの印刷物だけでも物凄い量がありました。いちいちプレゼンするのは大変だということで、会場の壁に全部バーっと貼ってしまおうと。そうしたら、当時の会長の牛尾治朗さんたちが読みながら入ってきて「これいいね」「これも使おうよ」とその時点でジャッジしてくれたんです。

――即断即決だったんですね、合併したばかりの新しい会社ならではの勢いを感じます。

中村 他にも、使えなかったけど牛尾さんが「これいいね」と言ってくれたコピーがあって、それは「銀行なんかの合併とはワケが違う 」でした(笑)。「これ、言いたいねえ~、でもこれは使えないね」と。ものすごい忙しさでしたけど、本当に楽しかったですね。

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相手の立場になって考える、仕事をする。

――現在は、どのようなお仕事をされているのでしょうか?

中村 ビッグキャンペーンは電通さんにお任せして(笑)、規模の大きすぎないキャンペーンを担当させてもらっています。最近やったのは、経産省の『おもてなし規格認証 』です。海外からお客様が観光に来るにあたり、英語を使えるお店だったりホスピタリティができているか、認証マークを付けるんです。ランクが4段階あって、無星から3つ星まであるものです。

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動画 にもなっているのですが、外国に行った時、無愛想にされるとその国が嫌いになってしまうけど、逆なら好きになりますよね。日本も一緒で、日本に来た外国人に好きになってもらいたい。そう考えるとボクらは全員、日本代表なのだと。そして、おもてなしにも程度の差、品質があるから規格認証を作りました。そういう内容です。

――こうした仕事もそうですが、中村さんは35年間というコピーライター生活の中で、常にコピーを書く準備をされていると思います。どういったことに気を配っていらっしゃいますか?

中村 長くこの仕事をやっているので、広告としてすべての物事を考えているのかもしれないですね。例えばボクがどこかの店主だったら「こんな認証なんか要らねーよ」と思うか「あったほうがいいな」と思うか、どう説明してもらえたら自分が納得できるか……常にお客さんの側になれるか、相手の立場になれるかは考えています。

本にも書いたのですが、駅のホームで傘を横に持って歩くような人は広告屋には向いていないし、「危ないかもしれないから立てて持とう」と思う人は向いているかもしれません。

――こうした想像力と客観性はすべての職業にとって大事なことですね。最後に、この記事の読者の方に向けてメッセージをお願いいたします。

中村 自分自身足りていない部分ですが、「異論を受け入れる」ことですね。自分の考えが絶対正しいと思わないことが大事だと思います。「自分と違う、だから面白い」を忘れないこと、謙虚でいること。

部下とも上下関係ではなく、横関係のポジショニングのほうがスムーズに行く気がします。異論を受け入れる余裕を持つことが、人の上に立つ人間には必要なのかなと。想像力と客観性を持った上で言い分を言うなら、良いのではないかと思います。

<了>

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