2017/05/09 公開

マーケティングで心は動くか。中村禎(コピーライター)インタビュー

思い出す言葉

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常にお客さんの側になれるか、相手の立場になれるか

心が動けば、体は動く

――中村さんの『思い出す言葉』は、『心が動けば、体は動く』。こちらは、どういう意味なのでしょうか?

中村禎(以下、中村) これは作業療法士・藤原茂さんがNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』で話していた言葉です。

藤原さんはリハビリを必要とする患者さんと日々接していらっしゃいますが、療法士がどれほど患者さんに「(リハビリを)やってください」と伝えても、なかなか動かないんだそうです。ところが、患者さん自身が「これをやりたい!」と思って自発的に動かそうとすると、麻痺があっても徐々に動くようになる。つまり、最初に心が動かない限り、人の体は動かないようにできている、ということなんですね。

人を動かすためには、まずは心を動かす必要がある。コピーライティングでも同じです。最近、「伝える」という言葉をタイトルに使った本がたくさん出ていますが、正直疑問に思うところがあります。「それで、ホントに伝わるの?」と。

コピーライター仲間からも「コピーライター=口先だけがうまい人たち、みたいな誤解がある。なんとかならないか」という声をよく聞きます。うまく言葉を言い換える人がコピーライター、というわけではないんですよ。

――実際、著書『最も伝わる言葉を選び抜くコピーライターの思考法 』では、第一章から第三章まで「心構え」のお話が続きます。

中村 心構えだけだと思うんですよ、実際。テクニックだけで、人がころっと騙されるわけがない。言いたいことをストレートに言えば伝わるほど簡単な話ではありません。タレントがビールを飲んで「うん、うまい」で伝わればいいですが、実際はそうはいかない。「ホントかよ?」と思う人たちに対して、訴求しなければいけない。それがうまくいったのが、1991年3月の『キリン一番搾り』の緒形拳さんの広告です。「ま、飲んでから決める」。

広告主は「本当にうまいので飲んでください」と言いたいのですが、そのまま表現しても人は動かない。だったら、出演者である緒形拳さんを消費者第一号として喋ってもらおう。このコピーはボクが担当したものではありませんが、この広告コピーを使った『キリン一番搾り』は大ヒットしました。

――消費者の心が動いたことで、体が動いた(購買に繋がった)と。こうした心構えを持っておくことが、コミュニケーションの上ではとても大切という話ですね。

良いコピーとは、印象に残ったコピー

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中村禎(なかむら・ただし)
1957年10月3日生まれ、コピーライター/クリエイティブディレクター。J・W・トンプソン、サン・アド、電通を経て2016年4月よりフリーエージェントに。現東京コピーライターズクラブ事務局長、宣伝会議賞最終審査員、ピンクリボンデザイン大賞審査委員長。『つまんない広告をする企業は、ほぼ、つまんない』(2000年、KDDI)をはじめ、数多くのコピーを世に送り出す。

――改めて、本書執筆の動機を教えてください。

中村 先ほど少し触れましたが、コピーライターという職業の正確なイメージを伝えたいということですね。

テレビ・ラジオのメディアが発達して『CMプランナー』が出てきたように、現代はWEBメディアが発達して『コミュニケーションプランナー』などいろいろな職種が出てきました。でも、コミュニケーションの本質は平安時代と今とで変わりません。『源氏物語』だって、「あなたが好きだ」と一所懸命書いた紙を、誰かが走って届けていた。今は、LINEで何と打とうか、どういうスタンプを送ろうかと考える。道具が変わっただけでしょ。伝えようとする気持ちは同じです。

――本書は、どういう人に読んで欲しいと思っていますか?

中村 最初は、師匠のいないコピーライターに向けたものでした。今の時代、全員がいい先輩に恵まれているわけでもないでしょうから。若いコピーライター向けに、ヒントになる内容をまとめた本が必要だな、と思ったんです。

だけど書いていくうちに、これはコピーライター以外の方にも関係あるかもしれないと思いました。デザイナーや編集者はもちろん、魚屋さんだってラーメン屋さんだってそう。「お宅の話なんて興味ないよ」と思ってる人に、いかに届く言葉を選ぶか。それはすべての職種に共通すると思ったんです。

――そう考えると、関係ない職種はないですね。どんな職種でも言葉は非常に大事です。

中村 そういう意味で、クライアント企業の方にも読んでほしいですね。昔から、クライアントが「良い」と言うコピーとコピーライターが「良い」と思うコピーは、ズレています。それじゃ、お互い幸せにはならない。ありがちなのはクライアントをホメただけのコピーが評価されることですが、それでは一般消費者には伝わりません。これが、なかなか分かってもらえないのですが(笑)。

――コピーは、消費者の心を動かすためのものだと。

中村 例えば、表参道を歩いている人たちが広告を見て「あっ、これ、いい」「グッと来た」と思ってもらうのが、ボクらの仕事です。モノを売るのも、人に伝えることも本質は同じ。納得や共感がないと、モノなんて買わないですから。

――中村さんにとって「良いコピー」とは何でしょうか?

中村 「記憶に残ったかどうか」だと思います。買わないけど商品名だけでも覚えておこう、という心の動きがあったか。子どもはビールを買いませんが、商品名だけ覚えていたらいずれ成人して購入する際に選択肢に入るかもしれません。そういう心の動きを起こせたものは、良いコピーだと思います。

ビートルズはもういませんが、誰もがそのメロディを知っています。広告には予算があって、新聞広告は1日で終わるし、テレビCMも数ヶ月で終わります。だけど、人の頭の中に残るのは無料です。そういうものが良い広告、良いコピーだと思います。

――それでいうと、中村さんが担当された資生堂さんの「夕方の私は何歳に見えているのだろうーーー*夕方は朝より平均4.4歳老けて見える、という調査結果が出ました」というコピーは、電車のドアに鏡を貼り付ける手法含め非常に印象に残っています。

中村 電車の中では、皆さん広告なんて見ないですよね。最近の人は、ほぼスマホを見ているわけです。車内広告が見られるのは、ほんの一瞬だけ。その一瞬でどう印象に残るかを考えた上での施策でした。「印象に残っている」と言っていただけるのは、うれしい褒め言葉です。

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広告コピーの役割と限界

――広告コピーとは、そもそもどういう役割を持つものでしょうか?

中村 本にも書きましたが、買うという行動の数歩手前にフォーカスし、「人を動かす」ためのものですね。「商品を売るため」の手前の「人の気持ちを動かすため」にどう書くかを考えることが大切です。

実際に購買するかどうかは、商品特性や価格にも左右されます。単価の高いクルマなら、ディーラーに見に行く、興味を持って調べてもらう、そこまでがコピーの仕事でしょう。逆に缶ビールのような価格のものなら、1本目を買わせるまでがコピーの仕事かもしれません。ただ、2本目以降はそうではない。「飲んだけど、さほど美味しくなかった」までは責任を負えないわけです(苦笑)。

スティーブ・ジョブズの言葉にもありますね、「どんなに優れたマーケティングでも、駄作は売れない」と。マーケティングが、万能ではないんですよ。

マーケティングで売れるなら、世の中の商品なんでもすべて売れてないとおかしいでしょ。でも、売れてない商品はたくさんあります。マーケティングは戦略の手がかりにはなりますが、実際に生活する中で感じる肌感覚のほうが信用できたりします。例えば秋葉原の電気街を歩いてみれば、全然不景気に見えませんよね。コピーを選ぶ上では、そうした肌感覚を持っているほうが大事だと思っています。

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